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7 嫉妬と動揺と罪悪感

 嫉妬した。ヤキモチを焼いてしまった。

早乙女さんが本郷君をからかっている。それが、じゃれあっている様に思えた。

 両手を広げてハグしてあげると言った。横で聞いていて絶句してしまった。


(駄目!ダメ!だめっ!絶対、駄目!)


 心の中で、そう叫んでいた。

もし、そんな事になったら絶交だ。

今すぐ、そうしてやる。

 どちらとするのか、わからないが両方かも知れないけど、とにかく、そんな事したら、


「即刻、友達関係解消だ!」


そう心の底で息巻いていたが、本郷くんは、あっさ

り拒否した。


「そんな気は、ない。」


と、ハッキリ言った。


( ヤッター!)


 嬉しかった。素直に喜んだ。さすが本郷くんだよ。

早乙女さんの誘惑に屈指なかった。私が好きになっただけの事はある。大した男だよ。君は!

 胸の内で彼を褒めまくった。逆に言うとそれ程、あの瞬間は追い詰められていたのだ。彼の言葉で胸を撫で下ろした。

 

 でも、ただ一つだけ気になる事があった。


 早乙女さんが本郷君の事を「特別」と言ったのだ。あれは、どう言う意味だったのか。

 言葉の通り単純に解釈すれば彼の事が好き。となるだろう。でも、そんな雰囲気では、なかった。それに私の事を好きだと言ったはず。

 でも両方好きと言う可能性もある。確かめる勇気は、なかった。返って来る応えが怖かったから。

 

本郷君の気持ちは、どうなの?


好きな人はいるの?


彼女はいるの?


私の事はどう思っているの?


それは、もっと聞けない。そんな自爆しそうな事は聞けない。地雷を踏まないよう用心して少しでも近づきたい。本音はそうなんだ。

緊張ばかりして自分が情けないけど。

この気持ちに嘘はない。


明日はちゃんと真っ直ぐ彼の顔を見て


「おはよう!」


そう、笑顔であいさつしよう。


それが第一歩だ。





 もう彼女の事が、わからない。僕の心を掻き乱し引き裂く。心臓が破裂しそうな程、ドキッとした。

 両手を広げて


「ハグしてあげる。」


って、そんな事、出来る訳ない。学食のあんな大勢のいる場所で突然言われても。


「そんな気ない!」


などと思わず言ってしまった。

 あれは失言だ。後悔している。本当は、その気ありありだ。

 抱き締めて欲しかった。でも、それは思うだけだ。やっぱりそんな事、できる訳ない。

 好きで、たまらないけど...。憧れが強過ぎて簡単に触れたりなんて出来ない。彼女は、そんなオーラを放っている。

 それに、本当にあの胸に飛び込めば


「冗談だよ!本気にしたの!」


と、またからかわれるに決まっている。

 でも、"特別”って何だ?確かにそう言った。


「君は、特別だから。」


その意味は?


僕に好意があるって事なのか?


わからない。応えを見付ける事が、まだ怖い。


僕は今、彼女のテリトリーに取り込まれている。


彼女の支配下で、もがいている。






 今夜もバイトだ。一人暮らしは、お金が掛かる。バイトをしながら二浪してやっと入った大学だが、更にこれを四年間維持していかなければならない。

 色々なバイトをやったが、とうとう、ここまで行き着いてしまった。

 私のバイトは「プロレズラー」だ。プロレスじゃないよ!

 えっ?聞いた事ないって!そうでしょうね。私が勝ってに名付けのだから。

 レズの相手をして報酬を頂くことを生業なりわいにしている。プロのレズなのだ。だから、プロレズラーだ。

 資産家のマダムやバリバリの起業家女史。

デザイナーや作家にミュージシャン。お相手する女性の職業は様々だ。お金の有り余った女性達が私を買ってくれる。

 身体の関係は、もちろんあったが、カフェでお茶したり買い物に付きあったりと精神的な満足感を与える事が主に求められた。

 男性が性的欲求を満たす事に重点を置き、風俗を利用するのとは少し趣きが違っている。

 みなさん、ストレスと寂しさを抱えていた。男女間でもマッチングが難しい世の中にあって、同性のパートナーと出会う事は容易では無かった。

 そんな女性達が、ひと時でも寂しさを紛らわそうと私の所属するレズクラブを利用してくれている。

 会員制で安心安全を謳い提供しているが、料金は、かなり割高だ。それでも、お客はひっきりなしだ。

 世の中に、こんなに同性愛者がいるのかと我ながら驚いたが何故その人達が個人的に出会えないのか不思議だった。

 でもそれはたぶん、ここの様にお金で割り切って恋愛ゲームを楽しむのと現実的な恋愛とは別物だと言う事だろう。

みんな真剣なのだ。

 だから慎重に相手を選ぶし、躊躇もしてしまうのだろう。おかげで、私は、こうして生活出来ている。大学にも通えている。

 でも、この事を菜美子ちゃんには、まだ話せていない。

これからも話す気になるか、自分でもわからない。

 私が、レズである事は、何となく気づいているだろう。

好きだと告白したのだから。

 でも、バイトが風俗関係だとは、やはり言えない。   あの真面目な菜美子が拒否反応を起こすのは目に見えている。

 彼女がいくら腐女子と言っても、

    それは漫画や、想像の世界限定だ。

 私がこの肉体を提供し金銭を稼いでいると言う現実は彼女には受け入れ難いだろう。


すぐに、私から離れていくかもしれない。


それが、怖い。


今は一番怖い。



          続く

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