6 学食にて…彼と彼女と私の特別な日々が始まった!
早乙女好子。この人は私をビックリさせてばかりだ。
じゃまをするかと思えば願いを叶えてくれる。
無意識にやってるのだろうが、ありがたい事だ。
本郷君の事、離れて見ているだけでも良いのに、こんなに近くに...。
真横だと、緊張し過ぎてしまう。この距離感が堪らない。
彼女の方を向けば彼の顔が自然に拝めるのだ。
こんな幸せがあるだろうか!
(ありがとう!ありがとう!早乙女さん!)
手を合わせ感謝した。
昼休み。学食で昼食を取る事にした。もちろん三人だ。
早乙女さんが本郷君も取り込んでしまった。
私は嬉しくてたまらないが彼はどんな気持ちなのだろう?彼女の強引さに引っ張られてるだけなのか?嫌な感じはして無さそうだが。
窓際のテーブルを陣取った。私は今日は母の手作り弁当。本郷君は、コンビニ弁当。早乙女さんは学食のランチ、
三者三様だ。
窓際の席に座ると本郷君も窓際に座った。
(ちょ、ちょっと待って〜!
いきなり真正面なんてヤバイ〜!)
悲鳴が出そうだった。よりによって真前に座るなんて。
ご飯、食べれないよお。
恥ずかしくて下を向いていたら彼が話し駆けてきた。
「大丈夫?気分でも悪いの?」
慌てて正面を向くと綺麗な顔が優しく微笑んでいる。
「あっ!ごめんなさい!あっ、いや。何か、考え事してて、本当に、ごめんなさい。」
再び頭を下げた。美し過ぎる!三秒以上まともに見れない。この状況に慣れる事など出来るのだろうか!
そこに早乙女さんが戻ってきた。エビフライ定食を抱えている。大盛りだそうだ。
「コラッ!本郷!菜美子ちゃんの事いじめてただろ! 許さんぞ!」
そう言いながら私の隣りに座った。
「ヨシ、ヨシ!」
子供をあやすように頭を撫でてくる。
「ちっ、違いますよ。具合が悪そうだったから心配してたんです。」
本郷君が必死で弁解している。濡れ衣だよ。
完全に私のせいだ。ごめんなさーい。エーン!
「そうなの?大丈夫?」
早乙女さんは、そう言いながら、おでことおでこをくっつけて来た。近い!鼻も若干当たったような。
「お熱は無いよ。大丈夫みたい。
さあ、ご飯食べよう。いただきまーす!」
何気ない日常に
特別な日常が飛び込んできた。
彼と彼女と私の特別な日々が始まった。
昼食も誘ってくれた。もう、早乙女さんのペースに完全にハマっている。彼女をリーダーとした、コンビが完成されつつあった。
回りで皆んなが噂をしている。彼女と一緒にいれば、そうなる事は、やむおえない。
とにかく彼女は目立っている。見た目も行動もどこか常人とは違う何かを持っている。
その事が彼女の魅力をさらに惹き立てていた。そこに魅了されているのが正に僕自身なのだ。
ランチにエビフライ定食の大盛りを食べている。このスタイルを維持する為にダイエットなどは、しないのか?
食べっぷりも気持ちいい。でも下品な食べ方をしているわけではない。一生懸命に、ご飯と向き合って味わっている姿が美しい。
「何!?なんか付いてる?」
見惚れていると怪訝な顔で聞かれた。
「あっ、いや、美味しそうに食べるなって思って...。」
思った通りを素直に伝えた。
「本当に美味しいんだから、おいしい顔になるでしょ!」
そう言いながら口元をナプキンで拭きながら手の平を合わせた。
「ご馳走様でした。あー!お腹いっぱい!」
飾るところが全然ない。天真爛漫そのものだ。
根元さんのお弁当にも手を出している。
「どうしたの?食欲ないの?もったいないなあ。
手伝ってあげる。」
そう言うと、美味しそうにおむすびを頬張った。
さっき、お腹一杯って言ってたはずなのに。
行動パターンが全く読めない。
それも彼女の魅力の一つでは、あるが...。
私は、知っている。彼女の事を...。
彼女は腐女子だ。
しかし、その事が彼女の魅力を1ミリ足り共、損なう事には、ならない。
だって、彼女は最高に才能ある漫画家なんだから。
遠目で初めて見たあの日。私は彼女に一目惚れした。
慣れないアニフェスの物販で緊張しながらも一生懸命な、そのしぐさが意地らしくて可愛くてたまらなかった。
三度目のフェスで私のコスプレを見に来てくれた。嬉しかった。一瞬だけど目が合った。
神様はその後、奇跡のご褒美をくれた。
ほぼ毎日会えると言う特典を与えて下さったのだ。
一緒に講義を受け、今は学食で昼食を食べている。
幸せを味わっている。
彼女はお母さん手作りのお弁当だ。ちゃんとした家庭のお嬢さんだ。私とは違う。
私は学食のランチだ。エビフライ定食にした。結構おいしい!すぐに完食した。
「ご馳走様!」をして、彼女の方を向くと様子が変だ。
やっぱり調子悪いのかな?ほとんどお弁当食べてないよ。
「大丈夫?具合悪いの?食欲ないの?」
「あっ、ごめんなさい。心配かけて。そうそう、ちょっと食欲なくて....ハハハッ…」
作り笑いをしているのがわかった。残したらもったいない。お母さんにも申し訳ないだろう。
なので、手伝ってやる事にした。
「いやぁ、これうまいなぁ。最高!」
「ただの梅干し海苔巻きですけど.....」
「お母様の愛情プラスでしょ!ハハハッ!
手作りのおにぎりなんて、久しぶりだよ。羨ましい。私は父親とあまりうまくいかなくてね。母の再婚相手だけど。だから、今、一人暮らししてるんだ。」
何となく言ってしまった。すると彼女がウルウルしだした。
「早乙女さん。大変なんだね。寂しくなっりしないの。」
そう気遣ってくれる。
「さみしい!さみしい!」
そう言いながら抱きついた。ハグの口実なら何でもいいのだ。それを本郷がジーッと見ている。
「何、君もハグしたいの?ダメだよ。これは私の特権だからね!」
「そっ、そんなんじゃないですよ。仲良いなーと思って。
それだけですよ。」
「そーかなぁ。物欲しそうにしてたよ。じゃあ、こっちにおいで..。菜美子はダメだけど私ならイイよ!」
両手を広げて、いらっしゃいポーズをした。
「ワワワッ!何をしてるんですか!?そんな気ないですよ!やめて下さい。」
顔を真っ赤にして全否定している。やっぱりカワイイ!
からかい甲斐がある奴だ。
「残念な事したなあ。君だけ特別だよ。他の男性になんか指一歩だって触れさせないんだから...。フフフッ。」
これは本当だ。私は告白されようと、言い寄られようとナンパされようと、一切お断りしている。
何故なら、私はレズだから。
同性しか愛せない女だから。
だから彼女を愛している。
根元菜美子を愛している。
続く