2 本郷尚樹。女装娘です。でも、まだ秘密です。
初めてだ。アニフェスに、この姿で来たのは...。
コスプレイヤーが様々なキャラに扮して撮影に挑んでいる。
私も、ある意味、コスプレイヤーと言えるかも知れない。
そう、私は女装娘。本当は男の子。
もう何度も女装して街に出掛けているけれど、今だにドキドキする。もしかして、バレるかも、その恐怖と緊張感が相まってスリリングな精神的快感を与えてくれるのだ。
でも私はゲイではない。それどころか女の子が大好きだ。好きで好きで堪らない。いっその事なら女の娘に生まれ変わりたい程だ。
その感情が、いつしか私を女装の道に走らせたのだ。
始まりは小学校の頃。好きな女の子のカワイイ文房具を真似たりした。それを他の男子に見つかりニューハーフだ。オネエだと冷やかされバカにされた。
その頃から女の子の真似事は自室で密かに行なう様になった。
その内、好きな女の子やアイドルの様になりたいと思うようになった。表情や仕草を真似る事から始め、髪の毛を伸ばした。
でもそれだけでは治らない衝動がいつも湧いていた。
スカートが履いてみたい。女の子のカワイイ下着を付けてみたい。お化粧して綺麗になりたい。そんな欲望が停めどもなく溢れてきた。
しかし何から始めればいいのか見当さえつかなかった。
その内スマホを買ってもらい。SNSを検索するようになり
[女装娘」
と言うワードに辿り着いた。ずっと、モヤが、掛かった様に先の見えない日々が続いていたけれど、一気に目の前が開けた様な気がした。
これだ!私が探していたものは..。
私だけじゃなかった。こんな想いを抱えているのは...。
そう思うと少しだけ気が楽になった。
秘密を一人で抱え込むのは、正直しんどかったからだ。
私は暇さへあれば"女装"というキーワードを検索した。
そこには先輩達の涙ぐましい努力と苦労の軌跡があった。
私は、その一つーつをありがたく参考にさせて頂いた。
そして女に成るべく磨きをかけたのだ。
高校生になっても女装の事は、友人や家族には秘密にしていた。
その代わり、SNSで知り合った女装娘たちと仲良くなった。休日は大きなバックに女装道具を抱えて、どこかで着替えて街を活歩した。
仲間がいる時は、バレても怖くないと言う思いがあった。それに、その頃には、もう女の子に成り切っていると言う自信があった。
女の子としてナンパされる事が度々あったからだ。でも私はあくまで恋愛対象は女の子だったから、全てお断りした。なんだか余裕の発言だが…。
そのくせ肝心な好きな女の子には告白はおろか声さえ掛ける事が出来なかった。手をこまねいている間に彼女には彼氏が出来てしまった。
せめてダメ元で気持ちだけでも伝えれば良かったと思ったけれど後の祭りだった。
失恋で高校生活は終わろうとしていた。
その前に女装仲間でコミケに行こうと言う話しになったのだ。
失恋なんて吹っ飛ばせ!
誰かがそう励ましてくれた。しかし中々そうは簡単に吹っ切れないのが恋心と言うものだ。
会場は大賑わいだ。行列が会場エリア一杯に広がり何周もしている。
我々のお目当てはアイドルのライブだ。今日は何組も出演予定になっている。仲間には熱烈な"推し”がいる。一緒に応援だ。
ライブ会場に向かう途中で、凄い人だかりに遭遇した。コスプレの写真会だ。どうやら今、人気急上昇中のコスプレイヤーの登場らしい。女の子のファンも多いようだ。
「カワイイ、カワイイ!」
と黄色い声が飛び交う。気になって人だかりの隙間から覗いて見た。
「ハッ!」
となった。目に飛び込んできたのは、アニメキャラのコスプレをした美少女。
一瞬でハートを撃ち抜かれた。
ピンクのツインテールヘアー。ハーフの様な大きな瞳。プルンとした唇とほっぺの小さなホクロ。ウインクした笑顔が堪らない。そして白い肌にアニコス。
凄く似合っている。胸やお尻を強調したポーズをドンドン繰り出してくる。白くて長い脚が凄く綺麗だ。
この瞬間、私は彼女に、恋をした。
失恋の傷心も、モヤモヤも一気に吹き飛ばされたのだ。
仲間はアイドルのライブに向かったが、私は彼女の姿をスマホで撮り続けた。
「そろそろ終了でーす。」
運営から声が掛かった。名残り惜しかった。
この先どうやって、彼女と接点を結ぶ事来るのか?
次のイベントは、いつなのか
"推し"として応援する事しか、出来ないのか?
色々な思いが頭を駆け巡った。
続く