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18 一分一秒の記憶

[ ナミの場合]


 やらかしてしまった。エレベーターでナオ君に守られて気分が高揚していたのは確かだ。

 しかし、はしゃぎ過ぎてハメを外してしまった。間違ってお酒を飲んでしまったとは言え、取り返しのつかない失敗をしてしまった。まさか私が、あんな事をするなんて....

 尚君もヨッシーも私自身も想像もしなかった。

素っ裸で尚君とお風呂に入ったのだ。そんな事が起こりえるだろうか。付き合ってもいない。好きの一言さへ言っていないのに一緒に入浴したのだ。全てを取っ払って。

 初めは何も覚えていなかった。お化粧してもらっているあたりまでは覚えていたが、その後は、さっぱりだ。

 ヨッシーと尚君に聞いても曖味な返事しか帰ってこない。自身で記憶の断片を探っている内にパンドラの鍵を見つけてしまった。

 尚君と私が、メイクするとソックリだと言う事実だ。二人で鏡の前に並んだ事を思い出した。

 同じ顔をした女性が二人並んでいる。何か不思議なものを見ている気がした。

 その記憶が甦ると一気に外れた記憶の断片がパズルのように埋められていった。

 尚君と服を脱ぐ私。手を繋いで浴室に入った。ケラケラ笑い声。頭からお湯を掛け合った。そして湯船に二人で入った。

 尚君が背後。それから、それから。尚君が、お湯を肩に掛け優しく撫でてくれた。

 そこで急に正気に戻ったのだ。発狂する程の声を上けた。ご近所からよく苦情が、こなかったものだ。

 あれから尚君の顔がまともに見れない。彼は意識し普通に接してくれている。彼から態度を変えたら私が気まずい思いをすると気遣ってくれているのが、よくわかった。

 ヨッシーに思い出した事を伝えると、どうやら私から誘ったらしいと教えられた。


「姉妹みたいで仲睦まじかったよ。」


と言われたが、慰めにはならなかった。

 これは、きちんと解決しなければならない。いつまでもヨッシーにおんぶに抱っこじゃ申し訳ない。

 休憩中にいつものベンチで尚君と話すことにし

た。


彼も早くスッキリしたいだろう。


重々しい空気を早く払試したかった。




[尚の場合]


 ヨッシーには本当に感心させられる。次から次と、よくこんなに、いろんな事が思いつくものだ。

 今度はナミちゃんにメイクをしてあげてと言う。

もう今夜は疲れたから無理だと言うのに引き下がらない。ナミちゃんも


「やだーっ!めんどくさーい!」


と拒否しいる。しかし結局、強引に押し切られた。

 しかしメイクを初めると調子が出てきた。

化粧乗りが良いのだ。ファンデーションも良くのびる。素肌のキメが、細かく透き通るように綺麗だ。

 まつ毛も長くて付けまつ毛は、必要ない。アイラインを入れて最後にリップを塗ると美しい大人の女性が現れた。

 思わず見惚れてしまった。ナミちゃんに鏡の姿を見せると


「私じゃないみたい」


と不思議がっている。ヨッシーが私の横に鏡を並べると今度は


「ナオ君が二人いる!」


と言い出した。

 私とナミちゃんは洗面所の鏡に移動した。確かに私が二人いる。ナミちゃんが二人でもいいが..。

 二人共、誤って飲んでしまった。スパークリングワインですっかり酔っ払ってしまい、理性を失っていた。楽しくてたまらなくなっていた。


 ナミちゃんが、お風呂でメイクを落してと甘えてきた。私も、お姉ちゃんの様な気持ちになっていた。

 自然に服を脱ぎ、一緒にお風呂に入った。本当に自然な流れだった。そこには男女の香りは一切無かった。

 しかし、お湯を頭から掛け合って、はしゃいでいる内に酔いが冷めたのだ。目が覚めたのだ。

 ナミちゃんの悲鳴で私の酔いも一気に吹っ飛んだ。

ナミちゃんはお湯が半分無くなる程の勢いで湯船を飛び出した。滑りこけなかったのが不思議なくらいだ。

 私は一人湯船に残されてバツの悪い思いをした。今は、何故か男の子の気持ちになっていた。

 これは、ワイセツ行為にあたるのか、誘ってきたのは、向こうだけれど立証は難しいな。でも冤罪でしよ。

 こんな時、男は不利だなと思った。


「尚!大丈夫か!」


 浴室から出掛けにヨッシーが声を掛けてくれた。彼女はわかってくれるに違いないが...。

 ナミちゃんは泣きじゃくっている。掛ける言葉が見つからない。でも何か言わなければ、ずっと気まずいままになってしまう。


「ごめんね!ナミちゃん。今見た事は、全て忘れるから。、記憶から消去するから。」


そう言うと、ナミちゃんが泣きながら訴えてきた。


「やだー!絶対やだーっ!


一分一秒でも記憶から消し去ったら許さない!


この時間は他のどんな時間とも

  掛け替えの無いものなんだよ。


だから絶対に忘れないでー!」


心に刺さる強い言葉だった。

 言い終わるとナミちゃんはガクッと眠りについてしまった。それだけは、どうしても言いたかったのだろう。

 ヨッシーが冷蔵庫からペットボトルを出すと投げ渡してくれた。冷たい水が風呂上がりの喉を潤してくれた。

 ヨッシーが何故か私の眼を見つめている。

真剣な眼差しだ。そして口を開いた。


「尚....ナミの事、頼むよ!」


何だか、しんみりした言い方だ。


あの眼差しはどこか遠くを見ていたような気がした。





【ヨッシーの場合】


 昨日は大変な夜だった。ナミと尚があんな事になるなんて、でも全部私のせいだ。

 これ見よがしに、あの子らの前で飲酒をするなんて絶対やってはいけない事だったんだ。

 そのくせ、同い年見たいに付き合ってくれなんてむしがよすぎる。

 グラスを間違えたのも気付かずに、ほろ酔いでボーッとして情けない限りだ。

 やはり私は彼らとは違うのだ。大人の女なんだ。相まみえる事はできないんだ。


 今夜もバイトだ。今夜は二件。私達とは違うお金が有り余った連中...などと言っては、いけない。大切なお客様だ。お金持ちの方々を相手に、せっせと稼がせて貰う。

 しかし後四年間これを続けるのは、やっぱりしんどいなぁ。…と毎度毎度、思ってしまう。

 美大の学費は高すぎる。自分の好きな道への足掛かりとは思うが、果たしてこれがベストな選択なのか?

 実家を飛び出した身としては、親に奨学金の保証人になってもらう事など出来なかった。藁をもすがるで飛び込んだ世界。

 しかし、やはり自分自身にも彼らにも後ろめたさがつきまとう。

 何より一番辛いのは「尚・ナミ」に話せてない事だ。さすがに打ち明ける事は、まだできない。かと言って黙っている後ろ目たさも半端ない。堂々巡りで、がんじがらめ。

 いつかバランスが崩れて全てが崩壊してしまうのではないか。綱渡りの危うさが今の私自身だ。

 ナミは漫画家。尚はメイクファッション関係。将来の夢に向かってビジョンが見えている。

 私は漠然としたイメージで、この大学を選んだ。消去法で残った選択だった。ここなら何かが見つかるかもしれない。夢を見つける為の選択だった。

 じゃあ、私は何を目指すべきなのか?コスプレイヤーとしてSNSの発信?それは、無いだろう。それは単なる過程だ。それが結果や到達点であっては、ならない。

 コスチュームの製作。そのデザイン。ファッションとしての物作り。

 その精神が私の根底にはある。

それを活かす事が私の目指すべき方向性であるべきだ。


 それは、結果、尚ナミと共通した。人生観とも次期寄り添い繋がっていくのではないか。そうありたいと思う。


将来にあっても、私は、この二人と繋がっていたい。


長い眼で見て離れている時期があったとしても、遠くで見つめていたい。


気にしていたい。


そして、そう思われたい。



続く


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