16 エレベーターラブ!おもしろい予感!
[ ヨッシーの場合]
大学の帰りに、コンビニで買い出しした。弁当や、つまみに大量のお菓子。飲み物は既に冷蔵庫に大量に仕入れ済みだ。
尚は今日は大学から女の娘だ。タイトスカートから時々覗く素足が、生々しい。女の子が、見てもドキッとさせられる。
学内には尚のファンが既に大勢いる。性別を超えて尚に魅了されているのだ。
しかし中には飛んだ輩がいるから、私は気がきでない。ボディガードとして、いつも眼を光らせている。 一撃必殺が私の流儀だから。
ナミは相変わらずだ。私は尚に少しおしゃれを教わったらどうなん?と促すが、
「イヤ、イヤァ…。」
と、いつも、はぐらかされる。今日もTシャツとジーンズだ。それも似合っては、いるけど。
マンションのエレベーターに乗る時、後から男性二人が乗り合わせて来た。
私はナミとその男性達の間に割って入ろうとした。だが、いち早く尚が、その役目をしてくれた。
ナミは尚の背中の後ろで安心した顔をしている。
その時、一瞬、尚の顔から女の子臭が消えていた。頼れる男性の香りがした様な気がした。
ドアが開き、エレベーターを降りた時には、
もう女の娘に戻っていた。私は不思議な感覚に包まれいた。
ナミが尚を好きな事は、わかっている。
あの寝言で呼んだ名前。間違いは、ないだろう。
でも何故か、尚なら許せる気がした。
尚ならナミを守ってくれる。
私がこの世界でたった一人、
ナミを託せる人がいるとすれば、
それは尚しかいない。
そんな風に今は思えるのだ。
[ ナミの場合]
久しぶりに三人でお昼ご飯した。最近は実技の講義が別々だったり、レポートの提出が忙しかったりとバタバタして落ち着いて話す時間もなかった。
ヨッシーから声が掛かり途中で本郷君をつかまえ学食に向かった。
ヨッシーは、相変わらずの大飯食らい。カツカレーの大盛り定食。本郷君はコンビニ弁当。私は自作の手作り弁当。いつも通りだ。
ヨッシーが定食の注文中、本郷君と差し向かいになった。やっぱり緊張する。でも、彼の事をちゃんと知りたい。その想いは、あの日から強固なものになった。
何故あの時、彼が泣き出したのか?
上向いていた気持ちが何故、急降下したのか?
なにも解らなかった。
感じる事が出来なかった。
私は、はたして本郷君の事が本当に好きなのか?
そんな事さへ疑わざる負えない程あの日は、落ち込んだ。
でも、もう、あそこまで落ち込んだんだ。落ちるところまで落ちて後は這い上がるしかなかった。開き直った自分がいた。
ヨッシーが定食を抱えて戻ってきた。席に着く成り無理難題を押し付けてきた。
「尚。ナミ。と、これからは、呼ぶように!」
とのお達しだ。
そして、いきなりカウントダウンが始まった。
焦ってお互いの名を同時に呼び合った。
顔から火が出る程、恥ずかしかった。真っ赤な顔で、うつむいて
「いただきます」
をした。
私がお弁当を巾着袋から出して顔を上げたその時、丁度、本郷君と目が合った。
いつもなら恥ずかしくて何気ない振りをして眼をそらすけど、今日はグッと堪えて真っ直ぐに尚劇君の瞳を見た。
何かを感じ取りたかった。
その瞳からほんのひとかけらでも、何かを知りたかった。
無言のまましばらく視線を交わしたけど、さすがに本郷君も戸惑ってしまった様だ。途中で眼をそらされてしまった。
そこで、ヨッシーが、話し掛けてきた。家飲みの話だ。もちろん今度は本郷君も一緒。
ヨッシーは本郷君に条件をだした。その日は女の娘の格好をしてくるように。
ヨッシーなりの気づかいなのだろう。しかし私の気持ちは複雑だ。
彼の女装を受け入れる事は私の恋愛観と、どう向き合う事になるのか?
私の彼への想いは、そんな見かけだけの薄っぺらいものだったのか?
いろんな思いが交差する。
ただ彼を好きな気持ち。結局それだけが彼への気持ちの道しるべになるに違いないのに…。
講義室に戻る道中、ヨッシーは飲み会の事でウキウキで、サッサと前を歩いて行く。私と本郷君は初めて並んで歩いた。
いつもはヨッシーが私の腕にべったりくっついて離さないから、本郷君は前を歩き、私はその背中を眺めている。それがいつもの姿だ。
本郷君がすぐに話し掛けくれた。
「ナミちゃん。僕が行ってもいいの?嫌じゃないの?」
嫌なはずが無かった。何故そんな風に思うのだろう?
私が恥ずかしがったり緊張したりする態度が
そんな言葉で気を使わせてしまっているのだろうか?
私は慌てて否定した。むしる嬉しいと伝えた。
しかも大好きだと言いたかった。
それは、喉元でこらえたけど。
本郷君とヨッシーと飲み会。きっと楽しい夜になるワクワクが止まらない。
おもしろい事が起きる予感がした。
週末、三人でヨッシーの部屋に向かった。
コンビニに寄ってからマンションに着いた。
エレベーターに乗ったところで後からイカツイ感じの男性二人が乗り込んで来た。彼らが私の方に寄ってきたので脇に逃げようとした瞬間だった。本郷君が間に割って入った。
無言だが毅然とした態度で彼らと対峙した。守られた感がしてうれしかった。
私は、本郷君の肩に自然に手を添えた。
それは「ありがとう」の意味も込められていたかも知れない。
彼の体温が、手の平から伝わってくる。
温かい感情がわいてきた。
緊張も恥ずかしさも無かった。
人としての感謝の気持ちが溢れた。
[ 尚の場合]
週末、ゼミ終わりにヨッシーの部屋に向かった。小ぢんまりとしているが綺麗なマンションだ。一人暮らしには申し分ないだろう。
それも、親の仕送りを当てにせず、やりくりしていると言う。それには驚きだ。親の脛をかじっている身としては、肩身が狭い。
エレベーターに乗り込むと後からイカツイ男性二人組が、急いで入ってきた。
女性ばかり...(一人は女装だが...)の所に乗り込んで来て遠慮知らずだなと思ったら、ナミちゃんの方に寄ってきた。
ナミちゃんの顔がこわばった。私は直ぐに間に割って入った。
男性等は無言だが「何だぁコラ!」と言う目で睨みつけて来た。でも、私はひるまなかった。
緊張感がエレベーターの中を支配した。
極限まで張り詰めたところで
"チーン"
と言う間の抜けた音がした。
ドアが開き男性たちは降りていった。一気に緊張感がほぐれた。
顔を見合わせていると「プッ」とヨッシーが吹きだした。
私とナミちゃんも「ハハハッ」と大きな声を上げて笑い出した。
おもしろい事が始まった。
三人共そう思った。
続く