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14 ナミ!肯定と嫉妬の狭間で荒れ狂う!

 目覚めた時は、いつもと変わらない朝だった。でも、あの瞬間全てが一変した。

 講義前、ヨッシーと話しをしていると突然、後ろの席あたりがザワついた。振り向くと見たことない綺麗な女性が立っていた。

 ヨッシーが、初めて講義室に現れた時の衝撃が思い出された。

 あの日のヨッシーと同じように、こちらを目指しているのは明らかだ。彼女はヨッシーの手前で止まるとスーツと静かに席に着いた。

 ヨッシーはパニクっていた。そして小声で私に疑問符を投げかけた。


「だっ誰!?この人!スッゴイ美人なんだけど!」


「わっ私も、わかんないよ。初めて見たよ。

でも、何か、ひっかかるぅ。なんだろう。どこかで会ってるよ。」


「まてよ~。この人、もしかして....」


「えっ?誰? あっ!?そうだよ!そうだ!間違いない!」


意見が揃ったところで思いをぶつけた。


「あ~っ!やっぱり!あなた本郷なの?」

            「本郷君でしょ!」


 同時に名前を呼んだ。

でも、こちらの問いには応えず、すまして前を向いている。

 その態度が気に入らなかったらしい。ヨッシーは向きになって問い正し始めた。


「もう本郷なんだろっ!無視すんなよ!」


 講師が入室して来た。私はヨッシーに教えようとしたが講師の注意の方が早かった。

 ヨッシーはバツが悪くて、おとなしくなったが、腹のムシが治らないのか、講義中、何度も本郷君の事で話し掛けられた。

 講師の目もあるし、また注意されて巻き添えをくったらどうしようと私は薄情情な事を考えていた。

 講義が終わるとヨッシーは、すぐに彼女?

もしかしたら彼かも。...を強引に外に連れ出した。私もバックを抱えて慌てて後に続いた。

 いつもの噴水前のベンチに着くと彼女の両肩をつかみ勢いよく座らせた。

「あれじゃあ、お尻が、痛いよ」

と心配になった。

 ヨッシーは彼女の目の前で腕組みをして睨みつけながら切り出した。


「だから、あなた本郷でしょ!何とか、言いなさいよ!」


しばしの沈黙の後、彼女が急に笑いだした。


「ハハハッ!」


私はビックリしたがヨッシーは、微動だにしていない。


「ハハハッ!ビックリした?ドッキリでしたー!」

 すると、いきなりだった。ヨッシーが彼女の頬っぺを両手で押さえオカメの様な顔にしたのだ。


「ふざけんでいいから。逃げるなよ!本音で来い!」


ヨッシーの方が、よっぽどふざけてると思った。

彼女は覚悟を決めたように背筋をピーんと伸ばすと

ヨッシーの瞳を真っ直ぐに見ながら言った。


「そうだよ。本郷尚樹だよ。」


 それは意外にも落ち着いた女性の声だった。

この姿の時はこの声しか出ないらしい。人体とは故に不思議なものだ。しかし、この時は感心している余裕など一切なかった。

 あの私の大好きな本郷君が、この綺麗な女性なんだ。そんな事が、にわかに信じられるだろうか!ショックとパニックが同時に襲ってきた。

 ヨッシーは本郷君の頬を押さえたまま天を仰いでいる。

 木漏れ日が当たり神々しく見えた。

見惚れていると、突然ヨッシーが満面の笑みになった。

 どうやら御告げがあったらしい。

 

 いきなりオデコとオデコを擦り始めた。

何の、おまじないだろう?本郷君は驚いて振りほどこうとした。

 私も慌ててヨッシーにしがみついた。本郷君と解った以上、こんな濃厚接触をみすみす許す訳には、いかなかった。

 しかし、二人ががりでもビクともしなかった。私は


(この、メスゴリラ!)


と心の中で叫んだ。

ヨッシーは全く意に介していなかった。


「そっかぁ!そっかあ」


興奮しながらそう繰り返している。そしておもむろにハグをした。


「尚樹。綺麗だよ!メッッチャかわいいよ!」


壊めたたえながら、いつのまにか下の名前で呼んでいる。本郷君は照れ臭そうに応えた。


「まだ、何も言ってませんよ。」


「言葉なんかどうでもいい!その瞳に嘘は、ない。それを待ってたんだ。」


そう言いながら耳元に近づいた。


「近い!近い!」


気が気でなかった。

 今日のヨッシーは間合いが近過ぎる。不安で堪らなかった。

緊張感の中、ヨッシーがささやいた。


「尚樹..。女装娘なのか?」


私は仰け反るほど驚いた。確かにそう聞こえた。

 しかし自分の耳を疑った。まさか、そんな本郷君が、そんな有り得ない。そう自分に言い聞かせようとした。

 この後に及んで、まだイタズラだと思いたかったのか。しかし、私は一人取り残されていた。

 ヨッシーは全力で本郷君を理解し受け入れようとしていた。私は自分の都合で自分の恋愛観に彼を閉じ込め様としたのだ。

 しかし本郷君はヨッシーの全面解放に少し戸惑っている様だ。反発する気持ちもあったかも知れない。

 それが空振りに終わったのだ。振り上げた、こぶしの下ろしどころを見つけられずにいたようだ。

 話しの途中で思わぬ内容になった。ヨッシーが、私に告白した事を語り出したのだ。


「何故!?何故、今、ここで!」


 憤慨した。私にとっても本郷君にとっても、これは今いらない話しだとそう思った。

 

女装娘に対して同性愛者。そして腐女子。

 みんな片割れ者だとでも言いたかったのか?

 

 ヨッシーが、お節介にも、私の事まで話そうとしたので慌て制した。こんな事は自分で打ち明けるものだ。

 上を向いていた本郷君の様子がおかしくなった。突然、顔を膝に着く程曲げて泣きだした。

 スカートの裾を指でしきりに引っ張っている。何かが込み上げてきたのだろう。

 何故泣いているのか、わからなかった。

本郷君が泣いている意味が、わからない程、私は遠くにいるのだ。


こんな真横にいるのに心の距離は数万キロも離れているようだ。


私は今、何を見せられているのだろう。


大好きな人。愛する人が親友にハグされている。


今この人には、こうして人の体温を感じてもらう事が一番良いのだろう。それは、わかる。


でも、何故それが私じゃなかったの。


私じゃダメだったの?


これって、タイミングなの。


ヨッシーが神に選ばれたの?


わからない。わからない!


この行為を肯定する自分と嫉妬に打ち狂う自分がいる。

こんな午後の木洩れ陽の下で、

私の心は嵐の夜の燃える難破戦のように、荒れ狂っていた。



          続く

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