12 激震!尚樹が女装娘⁉︎聞いてないよ〜!
今日は、早起きして念入りにメークした。
お気に入りのミニワンピを着て鏡の前で全身チェック。
背中のウエストに付いたリボンがカワイイ。
「頑張れ!」
自分に声を掛けハイヒールを履き、ドアを開けた。
朝日が眩しい。今日は勝負の日だ。
大学に着き正門を抜けると、早足で講義室に向かった。気が早っている自分がいる。何故か興奮している。
これから何かが起こるであろう予感に胸が高鳴った。
天国か地獄か、そんな気分だ。
講義室に入った。すぐに想像した反応が返ってきた。見知らぬ奴が入ってきた。そうザワついている。 構わず、ゆるい階段を降りて、お目当ての席に向かった。
そして彼女の横に座った。
私は、すまして前を向いている。彼女は驚いて何か言いたげだが言葉に詰まっている。そして反対側の彼女に慌てて何かを告げている。その彼女もビックリして、こちらを凝視している。
思った通りの反応だ。私は何もかも引っくり返したかった。
賭けに出たのだ。引かれるか?受け入れられるか?
「ほっ、本郷なの!?」
私は横目で微笑んだ。ここは余裕を見せなくては...。
胸の内は心臓が破裂しそうな程、高鳴っている。
彼女の耳に届いているのでは、ないかと心配になったが、
それはお首にも出さず素知らぬ素振りをした。
「もう何だよ!本郷!無視すんなよ!」
早乙女さんがムキになって聞いてきた。
「ちょっと、そこ!静かにして!騒ぐなら出てくれるかな!」
「あっ!すいません!受けます。ちゃんとします。」
教授がもう来ていた。早乙女さんはバツが悪そうに頭を下げたが、その後もボソボソと根示さんと会話していた。
こちらの事が気になって仕方ないらしい。私の思う壺だ。してやったりとは、こう言う事を、言うのだろうか?
休憩に入ると、有無を言わさず、腕を掴まれ、例の噴水前のベンチに連れて行かれた。
大事な話しはここで行うのが恒例なっていた。
私と根元さんはベンチに座った。早乙女さんは目の前で、腕を組み、立ったまま切り出した。
「だ、か、ら!あなた本郷でしょ!黙ってないで応えなさいよ!」
私は脚を組み直し、すまして応えようとしたけど思わず笑い出してしまった。
「ハハハハッ!ビックリした?ドッキリでし
たーっ!」
すると早乙女さんが、私の頬っぺをいきなり両手で押しつぶして目の前で睨みつけた。
「ふざけんでいーから!逃げるなよ!本音で来い!」
彼女に、まやかしは通じない。本心で話さなければ何も伝わらない。
私は膝を合わせ、背筋を伸ばし彼女の瞳を真っ直ぐ見た。そして応えた。
「そうだよ。本郷尚掛だよ。」
しかし、彼女は直ぐに反応はしなかった。
脳内で解析が行われているらしい。
"ポクポク、チーン!"
そんな音が聞こえた様な気がした。
答えが出た様だ。
「そっか....そーか。そおか一っ!」
何故か?興奮している。そう言いながらオデコとオデコを擦り付けてくる。
「ちょ、ちょっと何するんですか!近過ぎますよ!」
振りほどこうとしたが離れない。磁石でも引っ付いてるみたいだ。後に彼女が武道家と知る。その時、納得した。
「尚樹….。綺麗だよ。メッッチャ!カワイイよっー!」
いつの間にか下の名で呼ばれていた。叫びながら今度はハグして来た。凄い力だ。もう抵抗する気は無かった。
ただ心臓が破裂しそうな程、高鳴っている。
「まっ、まだ何も話してないですけど。」
「いいんだ!その目だよ。その瞳に嘘は無い!それを待ってたんだよ!」
余りにも簡単に受け入れられた事に逆に戸惑っていると早乙女さんが唐突に耳元で囁いた。
「尚樹..。女装娘なのか?」
図星で、驚いたが、横で根元さんが引っくり返り想な程の衝撃を受けていた。
本当にドッキリだと思っていたらしい。私にそんなイタズラ心があるとは思えないが....
「何でそう思ったの?」
私の問いに早乙女さんは真剣な瞳で答えた。
「尚樹は、ふざけた訳でも無いし、ゲイでも無い。女の子が本当に好きなんだ。だから究極、女の子みたいに成りたくなったんだ。そうだろ?」
全部わかってる。私の心の内側まで全部。何で、そんな事までわかるの?私は激しく動揺した。
「尚樹.。ごめんね。この間、尚樹の事、誘わなかったからな。でも、仲間外れにした訳じゃ無かったんだ。
私ね。菜美子に告白したんだ。見事に振られたけど。さすがに、それは二人切りで、したかったんだ。ホント、ごめん!」
私は呆然としていた。
何を言われてるんだろう?欲しかった答えからドンドン逸れて行く。
えっ⁉︎ 根元さんの事が好きなの?告って振られたの?
勝手に何やってくれてんの!私が、こんなに好きなのに。肝心な事は全然見抜いてくれないで!
男として見てくれない。相手をしてくれないなら、私は自分を解放して自分の本来の姿で早乙女さんと対峙したかった。
でも全然お門違いだった。彼女は同性愛者なのか?私は全く恋愛対象外だったらしい。
私は堪えきれず自分の膝の上で泣いた。猫のように身体を丸めて身を隠す様に泣いた。
急に恥ずかしさが全身を襲った。
人前で泣く事。
女装している事。
ハイヒールを履いている事。
今朝は自分を鼓舞して颯爽と出掛けたのに...。
今は自分の全てが恥ずかしかった。
続く