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11 バカ!馬鹿!ナミのばか!エーン!

 シャワーから出てくると食事の準備ができていた。テーブルにお弁当とフライドチキン。サラダにおつまみ。お茶にジュースとコーラ。座布団に座ると乾杯をした。

 何から話せばいいのか?泣きじゃくった後で、まだ瞳が赤く充血していた。


「ねえ。そろそろ名字で呼ぶのやめにしない。私はヨッシーとか好子って呼んでくれてもいいよ。」


「そうだね。じゃあ、ヨッシーにしようかな。私は、どうしよう?」


「うーん。そうだねぇ。ナミでいいんじゃない。取りあえず。それかナメコとかナマコとか、でもいいかもね!」


「ワーッ!それ絶対やだっ!小学校の頃から言われてたんだよね。思い出すのも嫌だ。」


「ハハッ!そうだったの。ごめん。悪かった。」


「小学生って、やたらと、あだ名を付けたがるでしょ。本当に嫌な事があったの。

 ある日ね。クラスのリーダー格の男子に言われた事があるの。その子なんだか早熟な感じがしてたんだけど。「根元ってさあ、先っちょも舐めるの?」って… 初めは何を言ってるのか全然理解できなかった。信じられないでしよ。高学年とは言え、小学生だよ。

 ポカンとしてると「だからアソコの根元を舐めるのが好きなんだろ?じゃあ、先っちょを舐めるのも好きなのか?って聞いてるんだよ!」って、そう言われたの。

 あまりにストレートに言われたからビックリして泣き出しちゃった。恥ずかしさと、みじめさと、いじめられてるんだって言う怖さといろんな事が相まって、机に伏して泣いたの。

 それからは、ナメコ。ナメコって男子から呼ばれた。女子はそう呼ぶ事自体が恥ずかしいのか、誰もその呼び方はしなかったけど。

 今は笑い話みたいだけど、当時は本当に嫌だった。それから段々殻に閉じこもる様になっていったかな。」


「そっかあ。大変だったね。私も母親の離婚と再婚で2回も苗字が、変わってるからね。気持ちわかるよ。    でも、その子、ほんとうはナオの事好きだったのかもしれないね。ホラ、好きな子にちょっかい出すってあれ、小学生男子あるあるだよ。」


「えーっ!それは、ないよ。だって私、本当に目立たなかったし根暗だったんだよ。側から見たら絵ばっかり描いてる変な子だったと思うよ。

 そんな子、好きになんかならないでしょ。」


「いやー!目立た無いんじゃないんでしょ。目立たなくしてたんでしょ!今もそうだよ。こんなに可愛いのに…。それを、隠そうとしてるフシがあるんだよね。」


「それは…。小さいころにセクハラみたいなの受けた事があって、可愛くて、目立つと狙われるって、いつのまにか防衛本能が働いてしまったんだよね。」


「でも、いくら、隠しても無理だよ。素材がカワイイんだから。

 その子もあざとく気付いてたんだろね。何とかナミの気を引きたかったのかもね。」


「それは、わからないけど。もしそうだとしてもそんな子をこっちは好きになんかならないよね。

 だって私泣いてたんだよ。辛くて悲しくて…。

 逆にもし、その時、誰か、かばったり、助けてくれたりしたら一瞬でその人を好きになったかも…。」


「ああ、わかった。これからは私が守るから私に惚れなさい。惚れちゃえ!惚れちゃえ!ホレ! ホレ!」



そう言って、肩をぶつけてくる。

でも、ヨッシーなら、本当に守ってくれるよね。私の事。


信じてるよ。


頼りにしてるよ。



「 私もあったなあ。そう言うの。まあ、ウチは家庭が複雑とか言われる部類だったからな。

 母はバツイチ再婚なんだ。前は田中って言う名字だったの。

だから田中好子。

 昔、母がファンだったアイドルグループに同姓同名の人がいてスーちゃんって呼ばれてたらしいの。その後、女優としても活躍してたんだけど、その人にあやかってスーちゃんって呼ばれてたんだけどそれから、母が離婚して再婚して名字が変わってから悪夢が始まったの。

 養父の名字は早乙女だった。ちょとカッコイイ名前だなって初めは思ったけど。早乙女好子ってなったんだよね。

 そしたら、やっぱり男子だよ。「おまえ、女が好きなのか?レズなのか?」って、なんて単純なんだるコイツらは、って思ったけど、当時は親の離婚と再婚で、傷付いてたし、寂しさもあったからつらかったなぁ。

 何でこんな目にあうんだろう。って親を恨んだよ。離婚も再婚も嫌だったのに、名前如きでからかわれるなんて。

 それにその頃は、まだ私も幼くて弱い人間だった。泣き寝入りするしかなかったんだよね。」


 二人とも心の内をさらけ出していた。お互い、この人なら全部話せる。そう確信の様なものがあった。




「初めから知ってたんだね。私が、腐女子だって事。」


「うん、そうだね。もう二年も前になるなぁ。初めてアニフェスに行ったんだ。

 まだコスプレは、やってなかったけど…。ナミも初めて本を出したんでしょ。

「カワイイ娘だなぁ」ってビックリして、でも本があまり売れてなくて、さみしそうにしてたから一冊買ってあげたんだよ。あの時の嬉しそうな笑顔。忘れられないよ。

 でも、あの本読んだら凄く面白かった。なにより絵が凄くイイって思った。

 私もイラスト描いてたからね。 同じ感性を持ってるんだって勝手に思い込んでしまって、本を読み返すたびにナミの事、思い出してたんだ。

「今度のフェスでまた会えるかなあ」って、恋焦がれてたんだよ。

 だから私がファン第一号って認定してよ。いいでしょ!」


「いいけど!でも、そうなんだ。ありがとう。

 そんな風に、思ってくれてるんだったらもっと早く話しておけば良かった。人がどんな風に思うかって、どうしても気になってしまうんだよね。だから秘密にしてしまう。」


「誰だってそうだよ。大切だから、言えないって事やっぱりあるよ。

 嘘を付いてる訳じゃない。言えないだけなんだ。もしかしたら相手を傷付けるかも知れない。引かれてしまうかも知れない。そう思ったら言えなくなるよ。

 だから、ごめん。実は、まだ、言えない事あるんだ。時期が。来たら話すよ。」


「ハハハッ!いいよ。いいよ。いっぺんに、話さなくても、こっちも心の準備が、いるしね。」


「あっ!そうだ。私、レズなのか!とか、からかわれたりしてたけど、今まで女の人を好きになった事、無かったんだよ。…って、言うか男の人も好きになった事ないんだ。

 変わってるでしょ。胸がときめいたり、キュンとなったりってした事なかったんだ。

 それが、ナミを初めて見た時、ビビビビッて来たんだ。

 初めは、何だこれ!って思った。それから、一所懸命、物販してる姿を見てなんて健気なんだ。キューンってなったんだ。

 「もう。これは恋に違いない!」って、その時思った。なんだ私やっぱりレズなんか!って思ったけど。 でも、そんな事どうでも良かった。初めて人を好きになったんだよ。それがナミだったんだ。

フェスが楽しみだったなぁ。だって、そこしか接点ないでしょ。で、私も何か頑張ろうと思って、コスプレ始めたんだ。」


「へー。そうなんだ。ありがたいな。そんなに思ってくれるなんて…。

 でも、私もヨッシーの事....へへっ。ヨッシーって言っちゃった。

  ヨッシーの事、大好きだよ。でも友達としてだよ。それでも、いいの?」


「もちろんだよ。こうして、一緒に、いられるだけで幸せなんだ。」


「大袈裟だよ。私、そんな、イイ女じゃないよ。」


「悲しいなぁ。だ、か、ら、自分の魅力を自分で封印するの、そろそろ辞めにしない。何か、あったら私が命懸けで守るから!折角の可愛さちゃんが泣いてるよ!」


「ヨッシー!ちょっと怖いんだけど。本当に命を懸けそうだもん。

 でも、まあ、カワイサちゃんは置いとくとしても、やっぱり、あまり注目されたくは、ないんだよね。さっきも言ったでしょ。

 昔からセクハラみたいな目に良くあってたから…。小学校の担任の先生にもセクハラ受けたんだよ。それをお母さんに相談したら学校に訴えて。

 当時、大問題になったんだよ。学校側は謝罪したんだけど、その時、校長先生がポロッって言っちやったんだよね。

 「娘さんも短いスカートを穿くのはご遠慮して頂けますか!」

って、そしたらお母さんが激怒しちゃて

「本末転倒だ!」

って、誰が悪いんだって凄い剣幕だったよ。恥ずかしいくらい。

 だけど、うれしかった。守られてるなって。

でもクラスのみんなに知れちゃうし、担任も変わってしまって肩身が狭くなっちゃた。結局、私が、悪いの!って思い込んで隅っこで目立たなくしていよう。ってそうなっちゃった。ハハッ!歪んでるでしょ!」


「そんな事ないよ。悪いのは男達だよ!世の中ろくでもない奴が一杯いるから困ったもんだよ。

 私なんか、もう自分で戦うしかないって思って中学から柔道部と空手部、掛け持ちでやってたんだよ。

 大会に出れる程じゃなかったけど、並の男なら、ぶっ飛ばしてやるよ。ナミの事も私が守るからね。

 そうだ。私、昔、太ってたんだよね。自分を変えたくて始めた武道だったけど、ドンドン身体が締まってきて、結果、こんな風になっちゃった。」


「そこなんだよ!ヨッシーのコスプレ姿、初めて見た時、ドキッとしちゃた。女の人の身体を見てあんな風に感じた事、無かったから。

 セクシーだなあって、うっとりしちゃった。そうだ!目が合ったよね。あの時。

 私、覗き見を見つかったみたいな気がして、すぐ瞳を逸らそうとしたけど、出来なかった。ヨッシーの瞳に吸い込まれそうになったんだ。

 凄く澄んだ綺麗な瞳。それが今真っ直ぐに私を見てるって。一瞬だったけど強く記憶に残る瞬間だった。今もその輝きは変わらないよ。」


「バカ!バカ!ナミのバカ!」


「えっ!どうしたの急に...」


「だからバカ!だって一の!私が一生懸命我優してるのに。友達で、いいって自分に言い聞かせてるのに、そんな事言って、ナミの事もっともっと好きにさせてどーすんのよ!エーン:ナミのバカー!」


「ヨッシー..。もしかして、泣きじょうごなの?ヨシヨシ!可愛いとこ、あるんだね。」


私はヨッシーの頭を優しく撫でてポンポンってしてあげた。


「ハハツ。今夜はもう、お開きかな!?」


「エー!?やだぁー!もっと、話したいっ!」


「も一つ。駄々っ子だね。普段は姉御肌なのに酔っ払らうと子供みたいになっちゃうんだ。でも、そこのギャップがまたカワイイけどね。さあ、ベッドに行くよ。」


そう言いながらヨッシーをベッドに促した。


「もう一つ布団...。ないよね!ある訳ないか!ハハッ!」


「もういいじゃん!一緒に寝よっ!何にもしないから。ねっ!お願い。」


「はい、はい!わかりました。でも、私、寝相悪いからね。覚悟しといてよ。」


 ヨッシーの布団の横に潜りこんだ。修学旅行みたいだ。そう言えば、こんな風に友達の家に泊まっ事は、なかった。親友と呼べる友達も居なかったし両親も許してはくれなかっただろう。

 今こうしていられるのは私が両親に対して革命を起こしたからだ。親の言いなりに成り続ける自分に嫌気がさして反旗をひるがえしたのだ。

 何ヶ月もの戦いの末に勝利を勝ち取った。その後、私は美大を受験し合格。

 そして、大人としての自覚の元、今、こうして外泊しているのだ。

 そんな大層な事と言われるかもしれないが、私にとっては人生を賭ける重大な戦いだった。

 ここで負ければ、普通大学に通い普通の企業に就職すると言う安定路線しか選択肢はなかっただろう。

 しかし私は敢えて茨の道を選んだ。その道が私の目指すべき道だったからだ。

 それが私の一番好きな方向だったからだ。

天井を見つめて物思いにふけっていた。突然、物思いや妄想にふけってしまう事がある。

 それが漫画を描く原動力になっては、いるのだけれど、他人が見たら、またボーッとしてるって思われるんだろうな。

 耳元でヨッシーの寝息が聞こえている。何もしないって言ったくせに思いっ切り抱きついて、これじゃあ、寝苦しくて眠れないよ。

 トホホ。

でも、本当にカワイイ寝顔だ。こんなに、まつ毛が長いんだ。唇なんかプルンとして、さくらんぼみたい。濡れて光ってる。

 男の子だったら絶対キスしてるよね。でも、女の子だって、こんな唇なら少しぐらい...。

 やだっ!私ったら、何考えてるの?また妄想して、今度はレズ漫画でも描くつもり⁉︎


でも…ドキドキしてる。何故だろう。


私、もしかして、ヨッシーの事...。


いや、そんなはず無い!


だって私は本郷くんの事が好きなんだから。


その気持ちに間違いはない。


そう自分自身に言い聞かせて、


いつしか眠りについた。



          続く

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