10 楽しかったはずの女子会が…ヨッシーの自己嫌悪。
今夜は菜美子ちゃんと飲み会だ。二人きりの女子会。楽しみ!?色んな事を話したい。
飲み物は菜美子ちゃんはお茶でイイと言うから、今日は、私のご招待だからと言うと遠慮して割り勘でなどと言い出す。そういう奥ゆかしいところも好きなんだよな。
かまわずお弁当とおつまみにお菓子。ジュースに炭酸飲料とドンドン!レジカゴに入れて大量買した。
私は冷蔵庫にビールから冷酒まで一通りそれえている。それは、菜美子ちゃんにもまだ秘密だ。
だって、二浪で既に二十歳って言う事。まだ話せてないんだよ〜!(涙)
準備は整った。いざ生還。我が家へ愛しい人をご招待。
まずはシャワーを浴びる事にした。菜美子ちゃんに先に入るよう則したが遠慮してお先にどうぞとなった。
そんな事で押し問答してもしょうがないので先に浴びる事にしたがドアを閉める前に念押しした。
「帰ったらダメだよ。絶対だからね!」
彼女はOKポーズをして微笑んだ。
私は鼻歌を歌いながらシャワーを浴びた。
こんなに気持ちが高揚するなんて菜美子パワーは、やっぱり凄い。私をこんなに元気にしてくれる。
でも、もし彼女の気が変わり、このドアを開けた時、いなくなっていたらどうしよう!
急に不安で堪らなくなった。急いで全身を洗い。バスタオルを巻きドアを開けた。
菜美子ちゃんは本棚に向かいポツンと立っていた。安心した。
しかし彼女の様子が変だ。急に振り向くと、その顔は驚きの表情に満ちていた。
"バサッ"その手から何かが落ちた。
薔薇の様に赤い表紙。彼女の描いた本だ。すぐにわかった。
突然、彼女が玄関に向かった。
帰ろうとしている。
直感した。あれは胸騒ぎだったのか。慌てて飛び付いた。背後から抱き締めて離さなかった。
今、帰らせたら、二度と菜美子と接する事は出来なくなる。彼女は私に対して心を閉ざしてしまう。
だから絶対に帰してはならなかった。
私は泣きじゃくる菜美子ちゃんを落ち着かせようと静かに話した。必死だった。
「帰らないで!お願い。帰らないで!」
でも、それだけ言うのが精一杯だった。私の涙が彼女の首元に落ちた。
「わかった…」
菜美子ちゃんは、呟くようにそう言った。私の気持ちが通じたようだ。彼女は受け入れてくれた。
彼女は何か言いたそうだったが、それを制してシゃワーを浴びるよういざなった。
まずはスッキリしてから色んな事を話した方が良いと思った。私の方も心の準備が欲しかったのだ。
彼女の着替えとタオルを用意した。その後、床に落ちた本を拾い上げた。うかつだった。どこかに閉まっておけば良かった。
彼女が腐女子でゲイ漫画を描いている事は知っていた。初めてアニフェスで見かけた時、彼女の本を買ったのだ。
でも彼女が自ら話す気になるまで、こちらからは、その話をする事はしない。と、決めていたのだ。
誰にでも秘密は、あるものだ。それが近しい程、時には、言えなくて苦しむものだ。
どうでもいい相手ならそれ程、悩む事はないだろう。嫌われたくない。拒否されたらどうしよう。そんな不安な気持ちが打ち明ける事を躊躇させてしまうのだ。
その事は、よくわかっている。私も秘密だらけで彼女に話してない事が、いっぱいあるから。
だから今夜がそのいい機会になればいいと思っていた。それなのに彼女をあんなに泣かせてしまうなんて...。
この本を見つけて相当ショックだったんだろうな。動揺したんだろうな。申し訳ない事をしてしまった。 一番大切な人を自ら傷付ける事は、自分自身も傷付けてしまう。
菜美子が浴室から出てきたら飛びっきりの笑顔で迎えよう。
そして夜を明かしてでも語り合うんだ。
心の扉も鍵も全部解放して。
菜美子がシャワー浴びてきた。いろんな話をした。小学生の頃の話、思春期の話、二人共、屈折してたなあ。
それから「ヨッシー」「ナミ」と呼び合う事にした。
いや、ここは愛称と言いたいかな。
私は、気分が良くなってベロンベロンに酔っ払ってしまった。菜美子ちゃんが寝かせつけてくれたらしい。
私は夜中に喉が渇いて目が覚めた。彼女を起こさない様に、そっと冷蔵庫に向かい。ペットボトルの水を飲んだ。
もう一度ベッドに戻り静かに布団に潜り込んだ彼女は良く眠っている。小さな寝息がしている。
寝顔をじっと見つめた。普段は眼鏡をしているが、本当に、綺麗な瞳をしている。
今は瞳を閉じて、長いまつ毛が月灯りに照らされ、薄赤い頬に影を落としている。
杏子のような唇が、濡れた様に小さく輝いている。何か寝言を言っている様だが、聞き取れない。白い歯が覗いて見える。
その瞬間、いけない衝動にかられた。何かが後ろから押し出してくる。突き上げてくる。それを制する自分。理性と欲望の対立が体内と脳内で、飽和状態になり、溶けていく。解けていく。身体も難問もとけていく。
気が付くとナミの唇に私の唇が、重なっていた。私からなのかナミからなのか、わからなかった。
しかし、私は、このどさくさに便乗して、ナミの唇を味わいたくなった。もう、接触してしまったのだ。
「許せナミ!」
そう心の中で詫びて、濃厚接触に移ろうとしたその瞬間、ナミがいきなり抱きついてきた。私は首に腕を回され強く引き寄せられた。
「ちょ、ちょっとナミ!」
こちらの方が躊躇してしまう程の勢いだ。
唇を強く押し付けてくる。柔らかい唇がムニュムニュと柔らかめのグミの様に右往左往している。しばらく唇の感触を味わうと今度はは舌が侵入してきた。
おそらくキス自体初めての筈だ。知識欲ばかりで、頭でっかちになって漫画を描いていた様だから。今は本能のままに舌を絡ませてくる。
私もナミの舌を夢中で吸った。すぐに濡れてくるのが自身でわかった。ナミを性の対象として認識したのだ。
ナミの胸に手を伸ばした。歯止めが効かなくなっていた。
「ナミから始めたんだ...。」
急く様に言い訳がましい言葉で、事に及ぼうとしていた。本当は、どちらとも無くだった。
しかもナミは、夢の中なのだ。私は浅ましい魂胆で自分を見失っていた。
その時だったナミが寝言を言った。かすかだが、ハッキリと私の耳に届いた。
「本郷君....」
その声が、鼓膜に響いた。脳髄がガンガン打ち鳴らされるような感覚に全身が総毛立った。
ただ名前を呼んだだけではない。今まさに夢の中でキスをし、舌を絡ませ、愛し合っているのだ。
どう言う事なんだ。
二人は付き合っているのか?
私に内緒で。
いや、そんな事はあるまい。奥手の二人だ。
じゃあ、菜美子の夢の世界だけの話か?
でも夢は願望を映すものらしい。
ナミの願いは本郷と結ばれる事なのか?
わからない!わからない!
一晩あんなに語り明かしたのに、ナミの心がわからない。
私は寝返りを打って、壁をずっと見つめていた。涙が、勝手に流れてきた。今は泣きたくないのに、それでも涙はどんどん溢れてきた。
ナミが好きなのは、本郷だ。
それは紛れもない事実だ。私は、その事を受け入れ無くては、ならない。
私は所詮、レズで人から買われる女だ。
その仮面を脱ぐまでは誰も愛する事などできないのだ。
続く