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1.雪夜の逃亡

その世界には、魔法と剣が支配する王国が存在した。エヴァンス王国は、そんな世界の中でも屈指の強大な力を誇る国であった。しかし、その平和は突如として崩れ去ることになる。

 ある夜更け、エヴァンス王家第三王女トワイライトの寝室の扉は突然開かれた。

「トワイライト様、城を脱出します!身支度をお願いいたします!」

 飛び込んで来たのは騎士団長の1人、リヒティアだった。

「何が起きたのですか!?」

 いつもは冷静なリヒティアの慌てぶりに何か只事ではない事が起きているとトワイライトも察した。

「転移者によるクーデターです!今は……」

 元はといえばエヴァンス王国を守護する為に召喚師に召喚させた転移者ではあったが、平和が訪れると自分たちの能力が、この世界の人間よりも優れていると言い出し自分たちこそが国を支配するとクーデターを起こしたのだ。実際、自分たちには無い能力を持つからこそ召喚した転移者である。それが集団となると普通に戦っても勝ち目は薄い。口篭もったリヒティアを見てトワイライトは頷いた。

「私たちが囮となって、お父様たちの脱出時間を稼ぐのですね?」

「……はい。申し訳ありません!」

 リヒティアは、やや涙目ながらにトワイライトに詫びた。本来なら王女に囮役など、あり得はしない。しかし相手は転移者、偽物などでは通用しないだろう。

「支度は出来ました。逃げるとなれば重い荷物は邪魔ですものね!」

 トワイライトは小さめの鞄一つを持っていた。その時、廊下からけたたましい足音が近づいて来るのが聞こえてきた。

「しからば御免!」

「わっ、危ない!」

 けたたましい叫び声が、冬の澄み切った空気を切り裂く。

 リヒティアはトワイライトを抱えて城の窓から飛び出した。眼下には、雪が降り積もる中庭が広がり、そこを転移者たちが追いかけてくる。

「トワイライト様、大丈夫ですか!?」

 リヒティアは、トワイライトを抱きしめながら、全速力で走り続ける。

「リヒティア……、母様と姉様たちは?」

「アントルメ様とウワイト様は我ら同様に騎士団長と共に脱出された筈です。転移者たちは王家の人間を一人も逃すまいとしていました。ならばバラバラに逃げる事で転移者の戦力を分断した方が助かる確率は高いとの陛下の御判断です!」

 リヒティアの言葉にトワイライトは力なく頷いた。

「…どうして、こんなことに…」

 トワイライトは震える声で呟く。

「ご安心ください、トワイライト様の御命は、わたしが死んでも必ずお守りします!」

 リヒティアはトワイライトの手を握りしめ、前を向いた。だが、次の瞬間、前方から鋭い声が響き渡る。

「おやおや、どこへとお出かけですか、王女様?」

 冷ややかな笑声とともに、数人の転移者が姿を現した。彼らは邪悪なオーラを纏っていた。

「くっ!先回りされたか!」

 リヒティアは絶望感に打ちのめされそうになった。考えてみれば相手は転移者だ。このくらいの事は想定出来た……筈だった。しかし、あまりに不意を突かれた為、そこまで思慮が回らなかった事をリヒティアは悔いていた。だが、そのとき、転移者たちの更に先から別の声が聞こえてきた。

「そこに居るのはトワか?」

 懐かしそうに笑みを浮かべたのは、見覚えのある男だった。トワイライトの幼馴染み、バーン・アダムス。彼は、かつて共に過ごした穏やかな日々を思い出させた。

「バーン!?」

 トワイライトは驚きを隠せない。バーンは、穏やかな笑顔の裏に鋭い眼光をたたえ、転移者たちを睥睨へいげいしていた。

「なんだ、貴様は?」

「俺か?俺はトワの幼馴染だ。」

 それを聞いた転移者の一人が、不敵に笑った。

「て事は、この世界の人間か。面白い事を思いついたぜ。王女様も俺たちより幼馴染の手に掛かる方が本望だろ?」

「ファイアウォール!」

 バーンは転移者が言い終える前にそう唱えた。一瞬身構えた転移者たちだったが何も起きない。

「ちっ、火の壁でも作って、その間に逃げるのかと思ったら、ただのハッタリかよ、脅かしやがって。所詮は無能な、この世界の人間だな!今から貴様の体を乗っ取って王女様を始末させてやるか……!?」

 そこまで言って転移者の顔色が変わった。

「な、なんだ?なんで、こいつが乗っ取れねぇ?」

 焦る転移者を尻目にバーンは不思議そうな顔をしていた。

「俺、ファイアウォールって言ったよな?」

 それを聞いた転移者は更に焦りの色を濃くしていた。

「まさか……ネットの……貴様、この世界の人間じゃなかったのか……?」

 それに対してバーンは首を振った。

「いやいや、俺は正真正銘、生まれも育ちも、このエヴァンス王国だよ……現世はね。」

 バーンはそう告げると、ホルスターから白銀の銃を抜いた。異様に長い銃身を持つ美しい彫刻の施された銃を。

「相手が悪かったな。」

 バーンが引き金を引くと光の弾丸が放たれた。それは、転移者を制御する、特別な力。だが撃たれた転移者は、一瞬驚いただけだった。

「ま、またハッタリかよ…」

 撃たれた転移者以上に周囲の転移者たちは驚いたままだった。

「ど、どうしたんだよ、お前ら?」

 周りの者たちの表情に、撃たれた転移者も動揺していた。

「お前……消えかけてるぞ?」

「なにっ!?」

 言われて己を手を見て撃たれた転移者は初めて、その事に気がついた。そして転移者の1人が叫んだ。

「貴様……BAN神バーンか!?」

 すると他の転移者たちも、あきらかに動揺していた。

「あ、お前らか、俺に変なアダ名付けたのは?俺は神でもなんでもない、普通の人間だぞ!」

「普通の人間が生身の人間をBANなんか出来るかよ!」

 転移者は即答したが、それを聞いたリヒティアが笑い出した。

「そんな事がよく言えたものだな?この世界に転移して来て手にしたチート能力で自分たちこそ神にでもなったつもりだったんじゃないのか?」

 リヒティアの指摘に転移者たちは返す言葉を失っていた。

「取り敢えず、お前ら全員BANな!」

 そう言うとバーンは次々に引き金を引いて、その場に居た転移者は全員消えてしまった。

「バーン……あの者たちは……?」

 トワイライトは目の前の出来事に理解が追いつかずバーンに尋ねた。

「心配しなくても死んじゃいないさ。召喚される前の世界に返しただけだよ。」

 バーンは屈託のない笑顔で答えた。

「なんか危なそうだからトワ、ここから先は俺が守るよ。」

 バーンは、そう言うと、トワイライトの手を取って歩き出した。

 雪が舞い降りる中、三人は、新たな戦いの幕を開けようとしていた。

こうしてバーンたちは、エヴァンス王国を取り戻すべく、長い戦いを始めることとなった。彼らの前に立ちはだかる強大な力を手に入れた転移者たち。数々の困難を乗り越え、平和な世界を取り戻すことができるのか?

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