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バレンタインの生徒指導教諭は忙しい

作者: 海山 里志

 今年もこの日がやってきた。我々生徒指導教諭が最も忌むべき日。そう、バレンタインデーである。この日になると変に色めきだった生徒たちが不要なものを持ってくる。そこで校門で鞄に目を光らせるのが我々の仕事なのだ。生徒には罵声を浴びせられることもあるが、雪の降る中朝早くから延々と鞄の中身を確認させられる我々の身にもなってもらいたいものだ。

 さて、予鈴が鳴り、校門での取り締まりは終わりだ。だがこれで警戒を解くわけじゃない。授業中、今度は靴箱を見て回る。すると出てきた出てきた、チョコレートにクッキー、マフィンにカップケーキ、バウムクーヘンにキャンディ……。こんなに沢山あると取り締まる側が糖尿病になってしまう。

「あら、今年も熱心ですね、川辺先生」

 背後から声がかけられる。振り向くと、杉浦先生が両手を背に隠すように立っていた。彼女とは同期である。今年もか。私はため息を吐いて答えた。

「杉浦先生。義理ならいらないですよ。今年もこんなにあるんですから、職員室で分け合っても余りますよ」

「もし、『義理じゃない』って言ったら?」

 彼女はイタズラっぽく笑う。その表情に内心どきりとしてしまった。それでも私は平静を装うべく咳払いをして制した。

「杉浦先生、いけませんよ。生徒の模範となるべき教員がこんなこと……」

「そう……。では放課後まで待つことにします。学校裏の堤防で18時、お待ちしていますね」

 そう言い残して杉浦先生は踵を返した。その姿はどんどん小さくなり、やがて階段へと消えていった。それでもまだ、私の胸は早鐘を打っていた。

 雪は降り続いている。今日という日は長くなりそうだーーそんな予感めいたものがした。

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