ちくわ
こ、これがっ!
「あぁ、これが焼きだ!」
宴は陸に上がり、二次会へと移行した。
「それにしてもリビィ、流石の力とセンスだね。」
それを言うのは陸には進出できないイルカの様に進化したビレイが言った。
メル達、人型は俗に言う魚人みたいに水陸両用のタイプであり、水中での最高速度はビレイ達より遥かに劣るものの、陸に生息域を伸ばすことが出来ると言うメリットがあった。
「魔法をこうも容易く操るなんて、嫉妬すら湧かないね。」
「母親であるリラも圧倒されるくらいの才能か。」
そんなビレイ達が陸の棲家に来れているのはリビィがメル達の魔法を見てビレイ達を海に置いて行くのは嫌がって自分で編み出した。
「魔法でこれだけの海水を操って私達の動きに合わせて水も動くなんてどう言う魔法よ。」
リビィが火を眺めながら肉が焼けるのを星々を眺めるように鑑賞している側でイルカ型の個体が空中に浮く海水の中で跳ねたりしているのに誰も陸に打ち付けられる個体はいなかった。
落ちるポイントに着水できるように海水が出現するのだ。
しかも、下に落ちないように下の海水は延性が高く決して落ちないように延びるのだ。
「それに人型にもなれるのよね。」
今のリビィは人型になっていた。
メル達は元々陸で焼いた魚を海に持って行こうと思っていたが、魚を焼く準備をしていることを読んだリビィが待ったをかけたのである。
そしたら、一瞬にしてメル達と同じに種になったのである。
メル達もこの10年様々な種と会ってきたし、戦ってもきた。中には自分たちと同じ種に変身するし擬態する種もいたが、それとは格が違うとメル達は直感した。
そんなチャチで安いものではない。
リビィは明らかに進化して生物としての格が上がっていた。
「ほら、焼けたぞ。」
「おお!これが焼き魚!!!」
手製の串に刺された魚を焚き火で焼いたシンプルなものである。通常塩をかけるのだが、リビィが素材のままの味が食べたいと言うので何もかけずに焼いている。
「うっ!美味い!生とは違う!身の食感に!この焼けた脂の旨み!そして!生にはないこの香ばしい香り!何もかもが生とは違う!」
「お前が嬉しそうで良かったよ。」
メルは内心ほっとしていた。
進化前は叶わなかった焼き魚をリビィに食わす事が出来たこと、そして、それを美味いと思ってくれた事に嬉しさと達成感で感慨深くなっていた。
一頭だったら泣いていたとメルは思っていた。
「この魚、血を抜いているな。」
「あぁ、この魚は血が多いからな。抜かないと生臭さが強くて食いにくいんだ。」
リビィはメルの話を聞きながら、確かにと思っていた。
陸に上がってからと言うよりこの人型になってから嗅覚が少し変わった気がしていた。
そこで血の匂いに少しの忌避感を感じていた。
「この姿と言うより変身したらその姿に五感に寄せられるようだな。」
味覚なら草食獣なら植物が一番美味く感じるし、肉食獣なら肉が一番美味くなると言う風にその姿の種によって変わる事をリビィは今回のことで学んだ。
そして、何より………
「お前ら、俺が自然と話している事に疑問を抱かないんだな。」
「えっ?………そ、そう言えば!リビィが喋ってる!!!」
「「「「「えぇ!!!!!!」」」」」
リビィが自分で指摘するまで誰もリビィが言葉を使っている事に気がついていなかった。
普段から使っているような自然に扱っている言葉遣いにメル達は無意識に騙されていたのである。
「お、お前、今まで使っていなかったのに、なんで?」
「さぁ?この姿だからかな?」
今まで通りこっちでも話せるだけどな。
「うわっ!驚かすなよ!」
いきなり話し方を変えたリビィにメルは不意を突かれてビックリしていた。
「でも、人型だとこっちの方が楽だな。この種自体が空気を読むのが他の種より下手なのか?」
リビィは今まで使っている空気読ませがやり難い感覚と少しの疲労感からこの種は空気を読む系が下手な種なのだと結論付けた。
「お前らしい種だな。メル。」
その事実から昔から空気を詠むのが下手なメルが真っ先になった種だけはあると呆れていた。
「なんだよ。」
メルはリビィが自分に呆れた眼差しを向けている事に気がついてリビィに抗議した。
「いや、別に。お前はそのままでいろ。」
世界には知らなくてもいい事もある事をリビィはその空気読みから仕入れた情報から知っていた。
「それより、この魚は焼きより美味い食い方ないか?」
「うん?なんでそう思うんだ?」
リビィは産まれてから生と焼く以外知らない筈なのに、リビィの直感が囁いていた。
この魚は焼く以外でもっと美味くする方法がある。
「リビィには分かるか。実はな、この魚はそのまま焼くより加工する方が美味いんだ。いや、美味くなると思うんだ。」
メルは前世の記憶からこの魚はちくわにした方が美味しいじゃないかと思っていたが、それをするのに試行錯誤しているが前世並みに美味くすることが出来ていなかった。
「これが試作品なんだが、どうだ?」
「ふむ。確かに美味いが、これならさっきの方が美味いな。」
話を聞いていた他の者が保管していたちくわ(仮)を持ってきていた。
それを食べたリビィは確かにこのちくわには可能性を感じたが、まだそのままの焼き魚のほうが美味いと感じた。
「なぁ、メル。このちくわみたいに魚には他にも美味しくする方法があるのか?」
「あぁ、あるぞ。」
リビィの不敵な笑みにメルは一歩引いて返事をした。
「それは僥倖。俺はお前と会えて幸せだよ。」
舌舐めずりするリビィの顔は捕食者を代表するような顔だった。