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ハッピーバースデー

 俺ことメルは転生者だ。

 トラックに轢かれたとかベタなことはなく、眠るように死んで起きるように産まれた。

 人間に産まれることはなかったが、今世もなかなか楽しく仲間も妻も出来た。

 そんな順風満帆な俺も今人生の分岐点に来ている。


「はぁ、はぁ………」


「メル!下がれ!もう傷だらけじゃないか!」


 ビレイの言葉を無視してメルは敵の眼前に居た。


「ジャー!ジャー!」


「そこはシャーだろう。サメがっ!」


 メルは既に満身創痍だった。

 いつものメルならこの程度の敵なんて餌でしかないが、此処に来て連戦に次ぐ連戦で疲労が積もっているのである。


「メル!下がって!本当に死んじゃう!」


「下がるわけにはいかない。俺が下がれば戦線は瓦解する。それにコイツらの目的はリビィだ。」


 妻の言葉もメルには届かなかったメルの頭には唯我独尊を気取りながら仲間思いの幼馴染の姿が浮かび上がっていた。

 進化の儀に卵になって以来十年リビィが孵る事はなかった。

 それでも卵からはいつも強い生命力を感じることが出来た。そんなリビィを狙って数多の種が徒党を組んで攻めて来たのである。

 どの個体も決死の覚悟である。


「コイツらは恐れているんだ。リビィがこの世に産まれる事を。」


 リビィは進化前から強かった。

 人型に進化して魔法を使うようになった今の俺や速度と牙の切れ味重視のイルカの様な姿になったビレイより元のアイツの方が強かった。

 そんなリビィが進化したらどうなるのかと俺達(群れ)は楽しく見守っていた。

 何年も何年もこの場所に来ては俺も皆んなも話しかけていた。

 アイツから返事が返ってくるわけがない。卵になる前からアイツは言葉を話すことは滅多になかった。

 卵から言葉が返ってくるなんてあり得ない。

 そう俺は思っていた。

 あの言葉を聞くまでは。


「いただきます。ご馳走様。」


 その言葉を聞いた時、俺達(群れ)は歓喜した。

 やっとアイツが、リビィが産まれる。

 俺達が盛大に祝おうとリビィの為に飯を用意しようとした時にはこの場所は他の生物に囲まれていた。

 そいつらは多種多様の烏合の衆だったが、いつも弱肉強食で争っている奴らが他党を組んでいる事に当初、俺達(群れ)は疑問に思っていた。

 だが、リビィを含めた卵を守る為俺たちは戦った。

 烏合の衆は傷つき死んでいく仲間を見向きもせず真っ直ぐ突っ込んできていた。

 その目は圧倒的な恐れに満ちていた。

 まるでこの世に産まれてきてはいけないものを見て食い止めようとしている気がした。


 ある魚がリビィの卵に自爆特攻を仕掛け出してコイツらの目的を認識した。

 リビィだ。

 この後途轍もなく食欲と強さを兼ね備えた化け物をこの世に生み出したくないのだとメルは直感した。

 その瞬間、メルはキレた。

 餌の分際で粋がっているじゃない。コイツは俺達(群れ)のボスになる雄だ。お前らが傷つけて良い奴じゃないんだよ。

 そう思った俺は手当たり次第に喰らいつくしたまるで記憶の片隅に残るリビィの様に怒り喰らい恐れさせた。

 でも、俺では不完全だ。

 少しずつ身体が傷つき相手に余裕と希望を見せている。

 アイツの捕食はこんな生優しいものではない。

 そう思いながら俺はリビィを守った。守られっぱなしだったあの頃とは違うと親友(リビィ)に伝える様に喰らった。


 もう精魂尽きて気絶しそうになったその時、アイツは産まれた。


「あ、あ、ああああ!!!リビィ!!!!!!」


 俺は泣き叫んだ。

 親友の帰還に、希望の再来に。

 産まれたてのリビィは進化前とは明らかにデカさが違った。そして、生物としての格が違いすぎることにも気がついた。

 最早、アイツは昔のアイツではない。


「っ!リビィを守れ!アイツはまだ生まれたてで動けない!!」


 歓喜している俺達(群れ)を無視してリビィを殺そうと烏合の衆が全員で自爆特攻を仕掛けてきた。

 卵から産まれた時が卵の時より危険である。

 産まれたての身体は柔らかく何より身体の自由が効かない。

 リビィなら数分と掛からず感覚が元に戻るだろうが、そんな時間をこの烏合の衆が許すわけがない。

 俺は決死の覚悟でリビィの前に立ち守るつもりだった。

 でも、そんな思いは次の瞬間消し飛んだ。


 背後にいたはずのリビィが俺達(群れ)の眼前に居て烏合の衆を一瞬にして喰らい尽くしたのである。

 正に怪物。リビィが通れる隙間なんて無かった筈なのにどうやったのかリビィは僅かな隙間から烏合の衆に喰らい付いたのである。


 コイツら食っても良かったよな?ってリビィが言っている事を何となく分かった。

 その懐かしい感覚に俺は感慨深くなっていた。

 このテレパシーの様な空気読ませは姿は変わっても相変わらずだなと俺は思った。


「寝過ぎた。リビィ。もう十年だぞ。」


 ビレイの文句にリビィは珍しく驚いていた。

 10ヶ月ではなく?


「馬鹿野郎!10年だよ!寝過ぎて寝ぼけているじゃないのか?!」


 10ヶ月な訳無いだろう。

 コイツ、卵の中での体内時間狂いすぎだろう。

 この少し抜けたところもまた懐かしい。


「そんな事よりハッピーバースデーリビィ。」


 リビィには初めて使う言葉なのにアイツは一瞬で自分が産まれたことを祝われた事を理解していた。


 あぁ、遅くなったがハッピーバースデーメル、ビレイ。

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