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アンモニア臭

 俺達は今、夜より暗い深海に来ている。

 この海域の餌は深海に生息している為、潜っている。子供の個体は此処でエコーロケーションを死ぬ気で習得しないといけない。

 文字通り、それくらいしないと死ぬ。

 この海に住んでいる生き物はこの闇に慣れている。一方、こちらは光に慣れた生き物である。

 その差をカバーする為に俺達は音によって警戒と探索をしないといけない。


 俺は既に覚えていた。

 ビームを習得する時にたまたま習得できたのである。

 それも大人達より広範囲の代物だった。そこにビーム習得によって性能も向上した。

 メルも深海に入ってすぐ習得出来ていた。

 俺のとは違って集中的であった。その代わり性能が段違いに上だった。

 ビレイは他の雌どもと同じくらいに習得した。

 メルと違って集中的と言うより局所的な一点集中速度重視のものだった。

 正面にあるものを瞬間的に障害物や餌を正確に捉えるのに特化しているものだと俺は考えた。

 どうやら、個体ごとにエコーロケーションに特徴があるようだ。

 そんな事を考えていると、メルがビームも個性があったらしい事を教えてくれた。

 俺みたいな例外程ではないが、それでも個体差があった。

 そして、それは子供達に比べて大人達の個体差より大きかった。


 深海ではエコーロケーションで警戒をしているが、常に警戒できるわけではなかった。

 体力が持たない為に交代制で警戒していた。

 俺の番の時に群れの下から細い物体が近づいて来ている事を発見した。

 俺は反射的に群れに警告した。

 俺たちが気がついた事をその正体不明な物体は気がついたのか、隠れるようにゆっくりと進んでいた物体がもう気づかれているので速度を上げて群れに近づいたが、それに捕まる俺たちではなかった。

 母の合図に合わして群れが物体を一切に避けてそれに噛みついた。

 俺はそれを噛んだ瞬間に感じた味でその正体がなんなのか理解した。

 イカだ。


 これはイカの触手だ。

 前に食べたものより圧倒的に大きいが、この味はイカである。

 でも、不味いな。

 独特な臭みが強いせいで味が分かりにくい上に味自体も大味であった。

 皆も噛んだのは良いが、そのまま噛み切らず、吐き出してしまった。

 それほどの不味さなのだ。


 イカも全ての触手を噛まれて痛かったのか、怯んでより深い深海に戻っていった。

 また、襲ってくるかもしれないが、あれくらいの速度と手数なら余裕で対処が可能だった。

 問題は吸盤である。

 さっきは誰もくっ付かれずに済んだが、あの吸盤には相手を逃さないための鋭い返が付いていた。

 それに毒もある可能性が高い。

 この暗闇で獲物を見つけるのは困難であるため、確実に逃さないための即効性の毒がある可能性も考えないといけなかった。


 でも、その後にイカが来る事はなかった。

 他の奴らは知らない事だったが、圧倒的な広範囲を誇る俺のエコーロケーションは捕らえていた。

 イカは触手が痛みで闇へと消えていったのではなく、本体が何か俺たちより大きい生物に喰われた事を理解した。

 そして、その生物は俺のエコーロケーションに反応している感覚もあった。

 偶にノイズのような雑音が跳ね返ってくるエコーに紛れて届いていたので、多分あの生物も音を使った探索ができる生物か、俺たちと近い種なのだと思う。


 まぁ、おばあちゃんのように見るからに近縁種というわけでもないのに簡単にエコーロケーションを真似する個体もいるので、ただ単に俺のエコーロケーションを真似ただけの可能性もある。


「おい、リビィ。あのイカ喰われていたよな。」


 メルが流暢な言葉で話しかけに来た。

 コイツの言葉にも慣れてほぼ習得出来てきた。こっちからも話す事は出来るが、俺はそれよりも空気を読ませた方が早いので話さないのである。

 どうやら、リビィも気が付いていたらしい。

 よく集中的なコイツが気がつけたな。


「触手から正気が感じられなくなったからな。何かに喰われて死んだんだと判断した。」


 どうやら、メルのエコーロケーションはその生物の一部から本体の生死までを把握する事が出来るようだ。

 俺のエコーロケーションではそこまで詳しい情報を得ることが出来ない。

 その精度に上げるにはまだまだ修練が必要そうだな。

 それより、あぁ、体格は俺らより大きい奴が食って行った。


「あの大きいイカを食う生き物か。俺らは生きて此処から出れるのか?」


 メルは心配そうにしているが、問題ないだろう。

 少なくともあの生き物は俺らの存在には気が付いていた。でも、アイツは俺らを気にはしていたが、何もせず帰っていった。俺らは対象外だったのだろう。

 だから、俺らから手を出さないと襲っては来ないだろう。


「そっか。なら良いんだ。」


 メルは安心した顔をして戻っていった。

 アイツ、初めての深海で神経質になるのは分かるが、もう少し落ち着いても良いだろう。

 俺が聞いたアイツのエコーロケーションの精度ならその事くらい理解出来る筈だが、相変わらず空気を読む事が下手な奴だな。

 宝の持ち腐れにならないように鍛えたほうがいいな。今でも大量の情報量に脳の処理能力が追いつけてなくて反応が遅れ気味になっている。

 このままじゃ致命的なミスをするのではないかと俺は不安だ。

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