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災悪の誕生

 気がついたら自我が生まれた。

 最初に感じたのは美味しいと言う味覚と快楽。そして濃い血の匂いと味だった。

 よく見たら同じような死体が多く液体に浮いていた。

 自分はそれを不思議に思う事もなくその死体を食べ続けた。暗い暗い液体の中で無我夢中に美食を味わっていた。

 その食事が何日も続いた。

 そして、死体を全て食べ終わった頃液体が流れをつくり自分を外に出そうと言う事がなんとなく理解した。

 食べるものも無くなったし出るかと思い狭い狭い穴に大きい自分の身体を無理矢理押し込んで微かに感じる今までとは違う匂いを頼りに道を進んで行った。

 そこから先はご馳走の楽園だった。


 匂わずともわかるほどの濃い肉と血の匂い。

 自分の食欲を刺激する圧倒的な存在感がこの場所にはあった。

 さっきとは違うけど何処か似ている気がする液体に自分はいる。今すぐ、此処を泳ぎたい獲物を狩るために、この食欲を満たす場所に俺は行きたい。

 そう飛び出そうとした瞬間に尾を誰かに掴まれた。

 それは自分より遥かに大きい同種だった。目が慣れてきたら分かった同種の生物が此処には沢山いる。

 そして、今、俺の尾を掴んで離さないのは自分の母だと本能が言っていた。

 なんとなくだが、言っている事は分かった。

 危険、動くな。

 多分こんな事を言っている。

 だから、そのまま留まることにした。よく見たら俺と同じくらいのサイズの同種もいた。


 じっとその場で待っていると別の個体が近づいてきた。一瞬でこの個体が父だと直感した。

 父の身体は母より一回り小さかった。どうやら、俺の種は雄より雌の方が大きいらしい。

 そのせいなのか、俺以外で生まれてくる個体は雌の方が多かった。

 最後に生まれた個体が雄だったが、30頭程生まれて雄なのは俺入れて3頭のみである。

 生まれた数が雄が十分の一なのにこの群れにいる雄の数は雌の約3分の一である。

 俺はこの大きい液体の中で生きていく厳しさを本能ではなく知識として理解した。

 それでも、俺は俺自身が死ぬとは思えなかった。


 父が持ってきた餌は食い応えがあったが、味は俺にとってはイマイチだった。

 俺が黙々と食べて終わったら、父達の様子が変だった。

 どうやら、俺が一人で餌を食べきった事を驚いているようだ。

 周りを見ていると誰一人として餌を食い終わってないどころか、硬くて食いづらそうにしていた。

 この餌は俺たち子供の噛む力を鍛える目的と素早く柔らかいところを食べれるように食べれる場所を教えるのが目的だったらしい。

 それを俺は難なく食い切ってしまった為、父達は俺の子供とは思えない力に驚いていた。

 一番硬かった骨という部分は大人の個体でも食べない事が多いと言っている気がする。


 まぁ、そんな事どうでも良かったのでのんびりしようと思ったら、急に息が苦しくなった。周りを見れば他の生まれてきたばかりの個体も急いで上に行っている。

 俺は本能的に上に向かうとしたら群れの最深部にいる俺と同じ雄の個体が明らかに泳ぐのが他より遅く直感的に間に合わないと確信した。

 それは気まぐれだった。俺が助けなくても大人が助けていただろうが、気がついたら俺は急速潜行していた。

 真っ直ぐ自分に向かって来ていると分かったのかその雄個体は息絶え絶えながらびっくりしていた。

 俺はそんな奴を通り過ぎてそいつの尾に噛みついて上まで引っ張って行った。

 そんな事をしていたから天辺まで着くのに時間がかかった。途中で他の雌どもをごぼう抜きした事で自分が他の個体より泳ぐのが速いことに気がついたが、こっちも息がもたなくなって来ていたのでより加速して泳いだ。

 そして、なんとか水面から顔を出すことが出来た。

 俺はこの時初めて呼吸というものを知った。

 隣では俺が引っ張って来た雄が自分の尾を気にしながら俺にお礼を言っているようだった。

 それを感じた瞬間分かった。この雄は空気を読ませるのも読むのもかなり苦手だと、なんかこいつの母がやたら戸惑った雰囲気を出していたのはこいつと意思疎通が出来にくすぎたからだと理解した。


 そんな事をしていると先に着いていたもう一人の幼い雄個体が近づいて来たというより流れに身を完全に任せているためこっちに流れて来たと言った方が正しかった。

 そのまま俺にぶつかったかと思うと気持ち良く眠っていたのに何するんだよってこっちを見て来た。

 いや、お前の方がぶつかったんだろうと俺はそいつをキレかけていた。

 そんな俺たちを見て何を思ったのかさっき俺が助けた雄が俺たちの二人の間に割って入った。

 なんか音を発しているが何を言いたいのかさっぱりわからない。

 それは寝ぼけている雄も同じだった。

 あいつが何を言いたいのか分からないと通訳をしろと俺の方を見てきた。

 俺はこいつの保護者じゃねぇ!と言いたいが、本当の保護者である母親もこいつには困惑していた事を思い出した。


 ……あぁ、なるほどそう言うことね。

 こいつが何を伝えたいのか、分かった。コイツは俺達が喧嘩するのを止めようとしているようだ。

 解読するのに数秒かかったが、今のでコイツの癖とかも分かったし今度はもっと早くに理解できそうだ。

 おい、分かったぞ………って、寝てる。

 そっちから喧嘩をふっかけてきたのに数秒も待たずにまた寝ている。

 止めようとしていたコイツも呆れているじゃないか。

 そんな気持ちのいいものなのか?睡眠?

 そうこうしていると、他の雌や大人の個体も浮上してきた。


 最後尾で浮上できていないか確認していた大人の個体が浮上してきた途端に母が音を発した。

 それにつられて他の大人の個体も音を発生させていった。


「ウォォォォォ!!オォォォォォォ!!!」


 さっきの雄とは違ってこっちは何がしたいのか遺伝子に刻まれている本能で分かった。

 俺たちの誕生を祝って歌っているのである。

 それが分かった途端、俺たちも歌い始めた。さっきまで寝ていたアイツも喧嘩止めようとしていた不器用なアイツも歌ってこの日を祝った。

 それにしても、アイツ、泳ぎや空気読みは下手なのに歌は得意なんだな。

 産まれてきた個体で不器用なアイツだけが大人以上に歌うのが上手かった。

 直感的に思った。

 これからは楽しくなりそうだ。

 俺達は日が明けるまで歌い続けた。

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