第4話
瑞希を家まで送り届けた後、自分も家に帰ろうと歩いていると電話がかかってきた。この番号はマキが以前にかけてきた番号。今度は何だって言うんだ?
「もしもし?」
電話に出るとやはりマキの声が聞こえた。
「今日のデートは楽しかったのか?」
なぜ知っている? そのことを知っているのは俺と瑞希、周に穂乃香ちゃんくらいしか知らないはずなのに。
「プレゼントは喜んでくれたか?」
「なんでプレゼントしたことまで知ってるんだよ!」
つい三十分前の出来事だぞ!
「いや、前にいたから」
デジャブですよ。前にもこんなことあったぞ!
「お前つけてたのか?」
穂乃香ちゃんとミキはグルだったのか?
「まあ、そんなことはいいじゃないか!」
よくねぇーし!
「そういう事で、明日は一日空けておけよ。じゃーな」
「どういう事だよ。おい! 待てや!」
プープープー。
電話は既に切れていた。時間も場所も内容も聞いてないけどいいのか?
「お嬢様、こちらです」
誰かの話し声が聞こえる。
「ここが奏音の部屋ですか」
「こんな狭くて汚いところにお嬢様をお連れするのが心苦しいのですが」
勝手なこと言っていいじゃねぇよ!
「奏音、寝てますね。こうして見るとかわいいかもしれません」
「かわいいですか? お嬢様、こんな奴にそんな言葉は似合わないと思いますよ」
「それにしても、お嬢様を待たせるなんてこいつは! 今すぐ叩き起こします!」
次の瞬間、腹に衝撃が走った。
「ぐはっ! 何すんだよ! ……、お前らここで何してんの?」
まず、紅葉が20cmの距離で俺の顔を覗き込んでいるのが目に入る。この距離で見ても、一点の曇りもない白い肌や透き通った瞳、サラサラとした髪は美しく、シトラスのいい香りに包まれる。俺は何も考えることができなくなり、紅葉と見つめあうまま固まってしまった。
「おい!」
がはっ!
もう一度腹に衝撃が走り、顔を上げたせいで危うく紅葉に当たりそうになってしまう。
「お嬢様にそれ以上近づくな!」
俺に馬乗りになっているミキが怒って、俺の腹をサンドバックの様にぼこぼこ殴ってくる。痛い痛いから! それに、紅葉に近づくなってこの状況じゃ無理だろ! 先に紅葉をどけろよ!
「マキも何か言ってやれよ!」
ミキはそう言うがマキは部屋の隅でうずくまっている。
「どうしたんだ? 調子でも悪いのか?」
「まだ、この漫画最新刊読んでなかったから」
俺がこの前買ってきた漫画を読んでいた。その漫画の良さが分かるとは、結構趣味が合うのか?
「とりあえず……、紅葉とミキはどいてくれないか?」
少し名残惜しい気もする。
「仕方ありませんわね。ミキも降りてあげて」
「はい」
ミキは最後に一発殴ってから俺から降りた。
「それで、今日は何の用なんだ?」
「お嬢様が河原林様にお屋敷に招待されたんだ。だから、お前も連れて行こうということだ」
それ、別に俺は関係ないよね? 俺は行かなくてもいいと思うけど?
「俺は呼ばれてないんだよね?」
「お前みたいな庶民が呼ばれるわけがないだろう!」
「じゃあ、勝手に行ってきてくれ。俺は寝る!」
もう一度布団に籠ろうとすると、ミキの飛び蹴りが腹にヒットした。ぐっ! これは効く。
「お前は、お嬢様があいつのところに行くのが心配じゃないのか?」
「心配? あーあー、心配ね。心配だよ。でも、お前らがいれば大丈夫だろ? その蹴りなら男にだってひけはとらないって」
「わかりました。では、私たちだけで行ってまいります」
紅葉は子犬のような潤んだ瞳で俺に熱視線を送ってくるし、ミキは俺を睨みつけてくる。マキはというとまだ漫画を読みふけっている。最初の内は無視していたが、五分以上もそのまま固まっているので仕方なく俺が折れた。
「分かった、行けばいいんだろ。行けば!」
「そうですか、奏音? 無理に行かなくてもいいんですよ?」
どの口で言うか!
「いいよ、行くよ。じゃあ、着替えるから部屋を出てってくれ」
「わかりました。ではミキを置いていきますから、着替えてくださいね」
ミキを置いていく? どういうことだ?
「ほら、手伝ってやるからこっちに来い」
「はぁー! 自分でできるからはよ出てけや!」
こいつらは何を考えてるんだ?
「一人で着替えってできますの?」
紅葉は俺が着替えを一人でできないと思っていたのではなく、着替えという行為そのものが一人ではできないものだと思っていたらしい。お前はどこまでお嬢様なんだよ!
「出来るんだよ、いいから出てってくれ!」
紅葉達が出て行ったのを確認してからため息をつく。今日は大変な一日になりそうだ。
紅葉の黒塗りの高級車に乗って一時間。さっきから右側はずっと高い塀が続いている。
「もしかして、ここが玲央の家なのか?」
「そうですわ、前に一度お父様に連れられて来たことがありますの」
こんなにでかい土地は家としていらんだろ!
「池宮城邸ほどではないけどな」
紅葉の家の方がでかいのかよ! でも前行ったときはそんな風にはおもえなかったけど?
「お前は離れにしか行ったことがなかったよな? 本館はあんなものではないぞ」
えー! 百部屋以上あってあれで離れですか?
その後も壁づたいに車で走って行くと、巨大な白い門が現れた。運転手が門のとこに立っていた人に話しかけると、ゆっくりと門が開きまた車を走らせた。門をくぐっても中にはまだまだ道が続いている。周りは森になっていたり、庭園になっていたり、駐車場になっていたりする。ここはどこぞのテーマパークですか? こんなに駐車場はいらんでしょ!
そうしているうちにやっと屋敷が見えてきた。屋敷の門の前に車をつけて車から降りると、スーツのかなり似合っている、いかにも執事と言って感じの人が立っていた。執事は紅葉を見ると一礼する。
「いらっしゃいませ。長旅御苦労さまです。中でおぼっちゃまが待っております。案内させていただきます」
そう言うと、また一礼して門を開けて中へ歩いていく。紅葉達がその後ろをついていくので、俺も続いた。中に入ると赤じゅうたんで埋め尽くされた床があり、高い天井からはシャンデリアが吊るしてある。屋敷は西洋の古城を思わせる造りで、こんなものが日本にあり、なおかつ住居として使われていることが信じられなかった。
シンデレラがガラスの靴を落としそうな階段を上り、それからしばらく歩くと突き当たりに他より一回り大きい扉が現れた。
「こちらがおぼっちゃまの部屋でございます」
扉が開くとそこに広がっていたのは体育館くらいのかなり広い部屋だった。その部屋の真ん中辺に装飾のたくさん付いた椅子があり、玲央はそこに腰かけている。
「やあ、いらっしゃい。紅葉さんとそのお付きの方々。ん? 奏音、お前みたいな庶民は呼んだ覚えがないぞ?」
呼ばれた覚えもねぇーよ。
「ごめんなさい。どこで聞いたのかわからないのだけれども、奏音が自分と行くと言い出してしまいまして」
おい! いつ、俺がそんなこと言ったんだよ!
「紅葉さんは気にしなくてもいいんですよ。悪いのは全部奏音なんですから! さあ、奏音! 自分が紅葉さんに迷惑をかけているとわかっただろう? さっさと帰って行ったらどうだ?」
「帰っていいのか? じゃあ、送ってくれよ!」
早く帰って睡眠の続きをせねば!
「は? 何を言っている? お前のような庶民を乗せる車など河原林にはないぞ。早く帰りたまえ!」
あの距離を歩いて帰れと言うのか! 今日中には家に着けないだろ!
「奏音はどうしてもこの様に立派は河原林邸を見てみたかったのでしょう? 河原林様、奏音も一緒にいてもよろしいでしょうか?」
いやいや、別に見たくもありませんし。
「紅葉さんがそう言われるのなら仕方がありませんが……。奏音、少しでも邪魔をしたら直ぐに追い返すからな!」
「はいはい、わかりましたよ」
「では、気を取り直して。紅葉さんこちらへどうぞ」
玲央はさっき座っていた椅子とは別のテーブルに紅葉を連れて行き椅子に座るように薦める。ミキ、マキは紅葉の後ろに立っていたが、俺は紅葉の隣に座った。
「紅葉さん、紅茶はいかがですか? それともコーヒーにしますか?」
「では、紅茶でお願いします」
玲央が手を二回叩くとさっきとは別の執事が現れた。
「紅茶を頼む」
「はっ!」
その執事は扉に向かって歩いていき、扉を出たのと同時にメイドさんがお盆にティーカップを乗せて入ってきた。メイドさんは俺たちと同じくらいの年の娘だった。
「玲央様、紅茶になります」
紅茶は玲央と紅葉の前のみに置かれる。
「俺のがないんだけど」
「お前に飲ませるような紅茶などない!」
「まあまあ、そんなこと仰らずに。奏音としたらもう一生味わえないかもしれないのですから、一度くらい飲ましてあげてもよいのではありませんこと?」
ひどっ! お前ら庶民をいじめて愉しんでるだろ!
「それもそうですね。こいつにも紅茶を頼む」
「かしこまりました」
メイドさんは一礼して扉に向かって歩いて行き、扉をくぐったのと同時に別のメイドさんが現れた。あの扉の向こうはどうなってるんだ?
「紅茶になります」
俺の前に紅茶を置いたメイドさんはまた扉の向こうに帰って行った。
「それで、紅葉さん。紅葉さんの部屋はどのような部屋がいいのですか?」
「はい? 私の部屋とはどういうことですか?」
玲央の話に紅葉はついていけないようだ。俺からしたら玲央が言わんとしてることはわからんでもないけど……。
「もちろん、紅葉さんが住む部屋の話ですけど。結婚したらこちらに住むのでしょう?」
やっぱりな。玲央の脳内では紅葉と結婚することになってるんだな。
「しかし私は奏音と付き合っていますし、河原林様と結婚する予定もないのですが……」
「ふふふ。今はこんな奴と付き合っていてもいいですが、最終的には私と結婚することになりますよ」
何を持ってそんなことを言っているのだろうか? さっぱりわからん。
「まあ、紅葉さんはこの屋敷の事はわからないでしょうから、決めようがありませんよね。では、今日は屋敷案内でもしましょう!」
そう言って俺たちは河原林邸を見学することになった。なぜ俺まで付き合わねばならんのだ!
結局屋敷内はもちろんのこと、庭園まで案内されて飯まで御馳走になりやっと家に帰してもらえることになった。紅葉はなんでこんな奴の家に来たのだろう? 不思議に思ったのでマキに尋ねた。
「お嬢様だって好きで河原林様のところに来ているわけではないぞ。お嬢様クラスのお家になると家庭の事情もいろいろあるんだ。お前とは違うんだよ」
最後のは余分だろ!
「河原林様、今日は本当にありがとうございましたわ」
「いえいえ、気にしないでください。今度も招待しますのでまたいらしてください」
俺に向かってお前は来るなよと言い足してくる。別にもう来たくねぇよ!
「はい、ではさようなら」
そう言うと車を走らして河原林邸を後にする。
「ふう、疲れましたわ」
最後に紅葉の本音を聞いてしまった。
月曜日がやってきた。昨日は帰ってきた後ベットで横になっていたら、もう外は明るくなっていた。夕飯のときくらい起こしてくれてもいいだろ! 朝起きて母親にそうやって文句を言ったのだが、「えっ? 帰ってきたの? むしろ帰ってこなくてもいいよ」とか言われて本当に悲しくなってきた。
別に優しくしてくれなくてもいいから、もう少し気にしてくれてもいいのでは?
そんな愚痴をつぶやきながら通学していると、後ろから肩を思いっきり叩かれて前のめりに倒れそうになった。
「何すんだよ!」
後ろを振り返るとそこには、いつも以上にキラキラをした笑顔を振りまきながら挨拶してくる瑞希がいた。流石に一昨日プレゼントしたイヤリングは着けていなかったが、なぜか今までとは違う印象を受けた。
「どうしたんだよ? 何かいいことあったのか?」
「そんなの決まってるじゃん! 一昨日は最高の誕生日祝いを貰ったからね!」
余程イヤリングが嬉しかったらしい。でも、そんなに嬉しそうな瑞希を見ていると意地悪を言いたくなってきた俺はひねくれているのかな?
「最高と言うのは値段の話か? 流石に俺の懐に大打撃だったしな」
「確かに金額的にも最高だったかもしれないけれど……。私はそういうことを言いたいんじゃなくて!」
なんか、俺まで楽しくなってきたぞ?
そんなことをやっている間に、この細い道を何台もの高級車が通り抜けていく。あの学園は本当に送り迎えしてもらう奴が多いな。しかし、遠目で眺めていた俺の背筋に寒気が走った。ぶるぶるぶる。うー、寒! まだそんな季節じゃないはずなのに……。
キィー!
俺の背後でものすごい音がした。振り返るまでもない! 俺の後ろギリギリのところで車が急停止したのだ。さっきの寒気はこの前ぶれだったのか?
「おはようございます、奏音」
振り返ると、俺を引きそうになった車から降りてきた紅葉がいた。
「池宮城さん! 危ないじゃないですか! もう少しで奏音ちゃん引かれるところだったんだから!」
「それはありませんわ。私の運転手の運転技術を甘く見ないで下さりませんこと?」
「いくら運転がうまくても、もしもってことがあるかもしれないじゃないですか!」
この二人は会うといつも言い合いになっている気がする。二人ともこんなに人に当たる性格じゃないんだけどな? ケンカするほど仲がいいってことかな?
「まあまあ、二人ともそれくらいにして。瑞希、俺にけががなかったんだからいいじゃないか! 紅葉はもうこんな危ないことは二度とするなよ! そういうことで皆で学園に行こうじゃないか!」
「そういうわけにはいかないよ! 前から言いたかったんだけど池宮城さんは奏音ちゃんに迷惑をかけすぎだよ!」
「それはあなたにも言えることじゃありませんこと? 一昨日プレゼントをいただいたそうですね? 奏音に無理やりプレゼントさせたのではありませんか?」
「そ、そんなことないもん! 奏音ちゃんは迷惑じゃなかったよね?」
急に振ってくるなよ! ミキにマキも止めに入ってくれよ!
結局瑞希と紅葉の言い合いは続くし、ミキ、マキは止めに入らないしで学園に遅刻しそうになってしまった。
放課後になり、今日はもう何にも巻き込まれずに帰るぞ! と宣言したとたん、マキに捕まってしまった。教室を出ようとして、誰もいないか廊下をのぞいていた時のこと。
「おい、何やってるんだ?奏音、かなり挙動不審だぞ?」
俺の努力も虚しく、マキに見つかっていたのだ。
「お前、何時からそこに?」
「そうだな、奏音が席を立つときから後ろにいたぞ」
怖ぇー! これからはまず、後ろを確認しないといけないのかよ。
「それで、今日は頼みごとをしに来ただが……」
「お前が口を濁すなんて珍しいな。言いにくいことなのか?」
「ここではな。だから、ちょっと着いてきてくれないか?」
字面だけ見ると謙虚そうに見えるが、マキときたらそう言いながら俺の腕を引っ張っていく。振りきれないほどの力で引っ張られているわけではないが、よくわからない威圧感があり着いていくことしかできなかった。
連れてこられたのは図書館のテーブルだった。そこには紅葉とミキが座っている。
「それで、そろそろ何故連れてきたのか教えてくれないか?」
俺が聞くと、ミキ、マキが顔を落とした。そんなに悪いことなのか? 俺が何かしたとでも言うのか?
「言いにくいことなのだが……、実はお嬢様はあまりお勉強がお得意ではいらっしゃらないのだ。だから、テストも近しい意外にも勉強のできるお前に勉強を教えてもらおうと思う」
えっ! なんで決定事項なんですか? 俺の意思は?
「それで今日は、お嬢様に数学を教わっていただこうと思っています」
「えっ! 数学ですが? 今日は少し気分が乗りませんね」
今、少し焦りましたよね?
「それなら、英語にしましょう!」
「英語はまだやらなくても大丈夫ですわ」
「では、世界史を……」
「世界史は暗記しかすることがないでしょう?」
おい! やる気ねぇーだろ!
「紅葉はどれくらい勉強が苦手なんだ?」
俺はマキを手招きして呼び、紅葉に聞こえないように聞く。
「そんな、苦手と言うほどでもないぞ? いつも学年一位か二位といったところだな」
「俺より頭いいんじゃねぇの? 教えられねえよ」
俺の最高順位はこの前の5位だからな。
「それが……、下から数えて……な」
「まじかよ」
この学園は、金持ちが多く通う学園であるため、まったく勉強せずにここまで来てしまった奴らも多い。逆に英才教育で頭が異常にいいという奴らもいるから、かなり上下の差が激しい。
そんな中の下から一位? ヤバいんじゃないの?
「進級できるのか?」
留年になるんじゃねぇの?
「それは問題ない。お嬢様は全く授業に出席しなくても卒業できるぞ!」
「なら、勉強する必要はないんじゃないの?」
「それでも、勉強はお嬢様の将来の役に立つと思うんだ」
そこまで、紅葉の事を考えてるのかよ。じゃあ、俺も答えるしかないな!
「よし! 紅葉、始めるぞ!」
「本当にやるんですの?」
子犬のような潤んだ瞳で見つめてくるがそんなことは無視して始めることにした。
そしてテスト前日。一週間くらい紅葉の勉強を見たが一向に進歩が見えない。それは紅葉の頭が悪いわけでも、俺の教え方が悪いわけでもない。なぜならば、紅葉の学力は中学校で止まっているからだ。一週間ではテストにはどうにもならない。
「お前、もう少し早くから勉強を始めようとは思わなかったのか?」
「勉強など私には必要がありませんでしたから。会社を経営するわけでもありませんし、まして就職など考えたこともありません。私はただお父様がお決めになった殿方と結婚して、その方についていけばいいだけですから。ですので、私は好きなことのみをやっていてもいいのですよ」
紅葉は明るくそう言うが、俺にはその笑顔が本心からきているものであるかは分からなかった。
「じゃあ、何でこの一週間勉強をしたんだ?」
この質問に対して紅葉は顔を一瞬曇らせたが、すぐに元の笑顔に戻した。
「奏音が一生懸命に教えようとしてくれたからでしょうか? 自分にもよくわかりません。気まぐれだったのかもしれませんね」
紅葉は人と話すとき、必ず相手も見るようにしていたと思う。しかし、このとき紅葉の目は俺のはるか後ろで焦点を結んでいた。どこか遠くを見つめるような紅葉の視線の先には何が見えているのだろうか? 会話はそこで途切れてしまった。
それからも勉強会は続いたのだが、俺は勉強に身が入らなかった。紅葉に教えている内容も違うことを言っていることに気付かず、マキやミキに何度か注意された。
「さて、これくらいで終わりにしましょうか? 明日は本番ですし、奏音も自分の準備をした方がいいでしょう。奏音、どうしました?」
気付くと目の前には紅葉の整った顔があった。何度かこのくらいの近い距離で見たことはあるが、何度見ても慣れることはない。俺の顔を映し出している透き通った瞳に、ぱっちりとしたまつ毛。何物にも触れたことのないような卵肌。どれもが俺の心を煩わせるには十分すぎる代物である。
「あ、ああ……」
俺があいまいに返事を返すと、紅葉は満面の笑みを浮かべ顔を離した。
「さあ、外ももう暗くなっていますし送って行きましょうか、奏音?」
紅葉が通学にいつも使っている車で送ってくれるということなのだろう。俺は紅葉にもう少し触れ合っていたいと思いつつも、この場から早去りたいと言う気持ちに支配された。俺が紅葉の申し出を断ると、紅葉は残念と口に出してつぶやいた。
結局俺は紅葉達が車に乗り込むのを見送った後、帰路に着いた。家に帰っても勉強になど集中できないとは分かっていたが、この場で行動に起こせるほどの俺はいなかった。
「はい、やめっ! テストは番号順になるように前に送ってね」
最後の英語のテストが今終わり、やっと今回のテストも終わりを告げた。テストなんてやっても無駄じゃないか! テストなんかしたって寸前になって詰め込むだけで、終わってしまえば全部忘れてしまうのが席の山だしな。テストなんて生徒が苦しむ姿が見たい陰湿な教師が作ったに違いない! こんなに苦労するのは、普段から勉強をしていないからだってことはわかっているんだよ? でも、そうとは分かっていてもテストもないのに勉強なんてする気にならない。ってことは、テストは意味をなしているってことになるのか?
「奏音ちゃん、テストはどうだった?」
瑞希が後ろの席から首を伸ばし話しかけてきた。
「二番の最後がわからなかったな」
「そこも、分からなかったけど五番の三個目の意味が分からなかったの」
五番は確か英語の諺を日本語に戻す問題だっけ?
「どんなやつだった?」
「えっとTime flies. だよ。時間跳躍?」
「はっはっは! 時間跳躍はないだろ! どんな諺だよ」
俺が大笑いすると、瑞希は少し怒ったようだ。
「そんなこと言ったって、分からなかったんだもん! 他の諺は直訳すれば意味が何となく取れたけど、それだけは良くわからなくて……」
「そうか? イメージ出来ないこともないと思うけど?」
そんな難しい諺じゃないしな。
「えー、じゃあ答えは何よ? 教えてよ!」
「さてと、テストも終わったし遊びに行くぞ、周」
「無視しないでよ~!」
瑞穂が泣きべそをかいていたかのような顔で言ってきたが、知らんぷりをして周と話す。
「どこかいい場所はないか?」
「悪い、奏音。今日は先客がいて無理なんだ」
周は教室の後ろの入り口を指差す。
「先客だと? 誰だよ? あっ! わりい、気付かなかったぜ」
周の指差した方を見てみると、そこには穂乃香ちゃんがいた。俺が軽くからかい気味に言ったのに、周は反応せずに穂乃香ちゃんと一緒に帰って行った。慣れって怖いね。
周が立ち去ったことで、ここに残されたのは俺と頬を風船のように膨らましている瑞希。面倒くさくなりそうだ。
「周君、帰っちゃったね」
「そうですね、瑞希さん」
ここは瑞希の怒りに触れないように丁寧に扱うのが重要だ。
「それで、奏音ちゃんはどうして私を無視したのかな?」
満面の笑みを浮かべ俺を問い詰める瑞希。笑っているはずなのに、俺は一歩後ずさりしてしまった。
「どうしてかな?」
瑞希は追い打ちをかけるように、その一歩を縮める。そんなことを繰り返しているうちに、教室の隅まで来てしまった。俺にはもう後がない。ど、どうすればいいんだ!
その時ガラガラと大きな音を立てて教室のドアが開かれた。
「おい、奏音はまだいるか?」
そこにいたのはマキだった。俺はマキに気を取られている瑞希から、必死に逃げマキのところまで行く。なんていいタイミングだっただろう。俺の日ごろの行いがいいからかな?
「どうしたんだ、そんなに慌てて?」
今来たばかりのマキには状況が理解できず、頭の上にハテナマークをいくつも浮かべている。
「なんでもない、なんでもない。それで俺に何か用か?」
このとき瑞希が後ろから接近してきたことに気付いていたが、平常心を装う。
「お嬢様が奏音に勉強を見てもらったお礼に、一緒にどこかに行かないかってお前を誘われているのだが、用事はないか?」
ここで用事はないかと聞くところを見ると、これは俺に選択肢を提示しているわけではないらしい。もし用事がなければ強制連行だろうし、あると言ってもどんな用事か聞かれて大した用事でなければまたもや強制連行。だから、用事があると嘘をつくのも無意味だとわかってしまう。
「ああ、何もないよ」
まあ、折角の紅葉からの誘いを断る必要はないんだけどね。
「ちょ、ちょっと待ってよ。私が奏音ちゃんを先に誘うつもりだったのに!」
横からそんなことを言ってきたのは、疑いようもなく瑞希だ。
「『つもり』だったんだろう? なら、先に約束をしたのは私だ。残念だったな」
不敵な笑みを浮かべているマキが、紅葉を煽るように言う。やめてっ! 今の瑞希を刺激しないで!
「だって、奏音ちゃんが私の話を聞いてくれなかったんだもん!」
「それは奏音に嫌われているんじゃないのか?」
「そ、そうなの奏音ちゃん?」
瑞希がかなり不安そうに俺を見つめてくる。俺ってそんな風に見えるか? 確かに素気なく接することはあったかもしれないけど、さっきだって無視とかしたけど。
「それはないんじゃないかな?」
「何で他人事みたいに話すの?」
そう言われれば何でだろう? 俺は瑞希の事が嫌いなのか? いや、そんなはずはないと思うけど? じゃあ、好きなんだろうか……?
「そんなことはどうでもいい。奏音、急いで行くぞ! お嬢様はもう待ってらっしゃるのだから!」
「私はどうなるの?」
「知らん、また今度誘えばいいだろう!」
マキにそんなことを言われ、下を向いてしまった瑞希。なんだかかわしそうになってきた。
「じゃあ、俺たちを一緒に行くか?」
「いいの?」
うつむいていた顔を上げ、潤んだ瞳を向けてくる。
「いいだろ、マキ?」
「だめだ、だめだ! お嬢様に断りもなく、そんな勝手な判断はできん!」
「じゃあ、紅葉がいいって言えばいいのか?」
それならば、今から紅葉のところに向かうのだ、一緒に行って聞けば済む話だと思う。
「だめだ、お嬢様は奏音を誘ったのだぞ? 他の奴を連れていくなんてできない」
「別に構いませんよ?」
マキの後ろから声がして、三人とも声のした方に視界を向けた。そこには紅葉とミキの姿が。
「で、ですが!」
「私が構わないと言ったら構わないのです。それとも私に意見するつもりですか?」
初めて見た紅葉の相手を威圧するような瞳。それが今、普段あんなに仲がいいマキに向けられている。紅葉と目を合わせたマキはぼそっと申し訳ございませんと言うとそれから何も言わなくなってしまった。
「申し訳ありませんでした、衣川さん。もしよろしかったら私たちと一緒に行きませんか?」
紅葉は先ほどマキに向けていた瞳とは似ても似つかぬ、こちらを心の底から安心させてくれる頬笑みで瑞希を見た。
「私なんかが着いていって、本当にいいのですか?」
瑞希は恐る恐る紅葉に尋ねた。
「私としては、来てくださった方が嬉しいですわ」
「じゃあ、一緒に行かせてください!」
こうして五人で出かけることになった。
さて、皆で出かけることになったのはいいのだけれど、いつもながら何をしたらいいのだろう? 普段あまり外に遊びに行かない俺としては、今回の様に急な外出の予定が出来てもどこに行けばいいのか見当もつかない。この前瑞希と出かけた時も二人してどこに行けばいいかわからず、さまよってたっけ。
「今日は行く場所は決まっているのか?」
「一応考えてはいるが、何か案があれば聞いてやってもいいぞ?」
ふう、決まっているのか。じゃあ、俺が心配する必要はないな。
「いや、特にないからそこでいいよ。それでどこに行くんだ?」
「紅葉様がテスト勉強を頑張られて疲れていらっしゃるだろうから、甘味処に行こうと思ってる。瑞希さんもそれでいいかな?」
マキは先ほどケンカしていた瑞希に対して、ケンカしていたことが嘘かの様に親しげに聞く。マキは切り替えが早いんだな。確かにこれからずっとツンケンされても気分悪いし、いいんだけどね。こっちはそういうわけにはいかないのかなぁ。
瑞希の方に目を向けると、マキの言葉に対して頷いただけで何も言わない。さっきまであれだけ言い合っていたのだ、瑞希の反応が普通だと思う。
「そ、その甘味処はここからどのくらいなんだ?」
このままでは沈黙の時が始まりそうだったので、何とか会話を続けようと再びマキに振る。
「車で二十分くらいかな。校門のところに車を止めてあるから、それに乗って行くんだ」
「私がいつも行く甘味処です。衣川さんもきっと気に入ってくださると思いますわ。」
紅葉は先ほど瑞希を誘った時のままの笑顔でいる。ずっと同じ顔をしていて疲れないのだろうか?
校門まで来ると、さっきマキが行っていたようにいつも紅葉が乗っている黒塗りの高級車が止まっていた。ミキが車の後ろの扉を開けて紅葉をエスコートする。
「紅葉様、足元にお気をつけください」
「ありがとう。でも私はそんなにそそかしいつもりはないのだけれど?」
「そんな、私は消してお嬢様がそそかしいとなどは思っておりません!」
紅葉にからかわれたミキは顔をぶんぶん振ってそれを否定している。
「ふふふ、冗談よ。ミキは私の事を心配して言ってくれたのですものね。感謝こそすれ、怒ったりなどはしないわ」
紅葉は口元に手を持っていき、ふふふと上品に笑っている。それにつられて俺とマキが笑いだし、最後には瑞希も一緒になって笑った。
この出来事で俺たちの雰囲気はガラッと変わった。さっきまでのどこか暗い雰囲気はなくなり、明るく楽しい感じになった。紅葉が天然で雰囲気を変えたとは考えずらい。多分、故意にやって見せたのだろう。俺は改めて紅葉のすごさを知った気がした。
それから暫くして、目的地である甘味処に着いた。しかし、そこは甘味処というよりは高級料亭といったほうがあっている気がする。
「ここがそうなのか? 実は隣の小さなお店ですとかって言うオチはないだろうな?」
「いいえ、ここですわ。ここはぜんざいが有名で、各界の著名人の方々もいらっしゃるのですよ」
流石は紅葉の行きつけの店といったところだろうか。俺たちの予想の斜め上をいっている。
「でも、ここ。値段が張るんではないですか?」
瑞希の質問を聞き、俺はとっさに財布の中身を確認する。中には野口さんが二名。果して足りるだろうか?
「そんなこと気にしなくてもいいのですよ。ここは私が持ちますから。奏音もお財布の中を確認しなくてもいいですから」
紅葉はまたふふふというお得意の上品な笑いをしている。なんか、今日の紅葉はいつもより明るくないか? 確かにいつも笑ったりもするけれど、今日はちょっとおかしい気がする。
「えっ! でも、悪いですよ」
「気にしないでください、私が招待したのですから。さあ、立ち話をしていないで中に入りましょう?」
紅葉の先導で店に入ると、従業員一同のお出迎えが待っていた。
「「「いらっしゃいませ。池宮城様」」」
俺と瑞希は驚き固まってしまった。誰が甘味処に入るだけなのにこんなことになると思うか? そんな俺たちをよそに、女将さんらしき人が現れた。何故甘味処で女将さん? とは思ったが、もうここまで来ると何があってもおかしくない気がする。
「池宮城様。いつも御贔屓にしていただきありがとうございます。お部屋はこちらになります」
女将さんの言葉に俺は先ほど紅葉が言っていたこの店に来る各界の著名人の中に紅葉も入っていたことに気付かされた。
部屋に通された俺たちは机の周りに置いてある座布団に座った。紅葉が女将さんに人数分のぜんざいを注文すると、女将さんは部屋から出ていく。そうすると部屋には俺たち五人になってしまう。俺はどうすればいいのか分からず、部屋を見渡した。
部屋の中もとても豪華な造りなのだが、何よりも目に止まるのは窓の向こうに見える日本庭園だろう。石、砂、植栽を使った庭で、かなりしっかりと手入れされている。白砂を使って水の流れを表しているのですよと紅葉に庭の説明をしてもらっていると、女将さんが五つのぜんざいを持って現れた。
俺の前に置かれたぜんざいを見ると何故か金粉がふんだんに使われている。いつも思うのだけれど、体の中で分解することのできない金をどうして食べるのだろう? 豪華に見えるからだろうか?
「おいしー!」
そんなことを考えているうちに、皆食べ始めていて瑞希がスプーンを片手に声を上げていた。俺も口に含んでみると、今まで食べてきたぜんざいはなんだったんだろうと考えさせられてしまうくらいおいしかった。こんなにおいしいなら俺も常連になりたいと思うが、悲しきかな、金銭的に無理であろう。男として悲しいけど、また今度紅葉に連れてきてもらおう。
次の日、呼び鈴によって俺は起こされた。別に俺に用事がある人が来たわけではないだろう。今日は日曜だしまだ寝ていてもいい時間だ。再び布団に潜った俺の耳に俺の部屋に近づいてくる足音が届く。ああ、幻聴であったらどんなにいいだろうか。現実逃避をしている俺をよそに俺の部屋の扉が開いた。
「奏音、迎えに来たぞ!」
それはマキの声だった。
「なんだ、まだ寝てるのか? 後三秒で起きなかったら叩き起こすからな! さん! にー! いちっ!」
「わかった、起きるから!」
身の危険を感じた俺はとっさに上半身を起こす。すると、そこには俺に飛びかかろうとしているマキの姿が……。なんでまた強引に起こされなければならないのだろうか? 召集は昨日あったのだから今日はゆっくりできると思ったのに。
「それで、今日は何の用だ?」
無理やり起こされた俺は機嫌が悪く、ぶっきらぼうにマキに聞く。
「お嬢様が奏音をお食事に招待されたのだ。もちろん行くよな?」
「いや、今日は一日寝るという予定が……」
「そうか。じゃあ、残念だがお嬢様には断られたと伝えておくよ」
「ちょ、ちょっと待てよ! いつもは俺が何と言っても強引に連れて行くのに、どうして今日は引き下がるんだ? 」
俺は帰ろうとしているマキを慌てて止めに入る。
「用事があるのだろう? 仕方がないじゃないか。私も暇じゃないんだ、ここを通してもらえないかな?」
「悪かった、俺が悪かったから。紅葉からの誘いなんだろう? すぐに支度するから待っててくれ」
しょうがないなと待つことにしてくれたマキを見て、俺は安心してため息を吐いた。どうして俺はこんなに慌ててしまったのだろう? 今までは紅葉からの誘いもただ面倒くさいと思っていたのに。今だって面倒くさいと思って用事があるとか言ったのに、どうして俺は紅葉からの誘いを受けることができて、こんなにも安心しているのだろう?
「おい、何ぼーっとしてるんだよ。早く準備しないと置いていくぞ!」
そう言って部屋の外に出ていくマキ。
「わかった、今行くから!」
俺は急いで支度をしてマキを追いかけた。
今回の食事は紅葉の家で食べるらしい。前に紅葉の家に行ったのは結構前の気がする。本当はそんなにたっていないのだけれど、最近はいろいろありすぎて一日が長い。充実していると言ったらそうなのかもしれないが、俺はゆっくりと休める日が恋しい。
池宮城の屋敷の食堂に入るとそこには椅子に座った紅葉と、後ろに立っているミキが目に入ってきた。そこにいる紅葉は膝の上できれいに重ねている細く長い指先、すっとまっすぐに伸びてた背中、白く透き通ったきめの細かい肌、朱くふっくらとした唇、秋に澄んだ水のような瞳、それから横に長く引かれた美しい眉で俺が来ることを待っていた。
紅葉は入ってきた俺に気付くと、誘いを受けたことへの感謝の言葉を悲しい笑顔と一緒に俺にくれた。
「今日はどうしたんだ? 昨日も一緒に出かけてじゃないか?」
「私も昨日で十分だと思っていたのですが、今日になったらまだ足りないと思ってしましまして……」
何が十分で何が足りないのだろう?
「だから、食事に招待してくれたのか。そう言えば最初にあった日にもここで食事したんだったな。今の紅葉を見ていると、あの時の紅葉とはまるで別人だな」
俺はハハハと笑う。だってそうだろう? 俺はあの時ここで椅子に縛られてたんだぜ?
「恥ずかしいですわ。でも、あのときは手段を選んでいる余裕などありませんでしたので」
顔に紅葉を散らして言う。この一文は駄洒落のつもりじゃないからな!
「あの時は頭の中がごちゃごちゃで料理の事は全然覚えてないから、こうやってまた食事に誘ってもらえたことは素直に嬉しいよ」
「そう言っていただけると私も嬉しいですわ。前回の事を覚えてらっしゃらないという事は少し引っかかりますが」
紅葉と話し込んでいると料理が運ばれてきた。テレビでしか見たことがないような高級食材をふんだんに使った料理が真っ白のお皿にちょこんと置いてある。いつも思うのだが、こういう料理はどうしてこんなにも量が少ないのだろう? 値段はかなり張っているのだから量を増やしてもいいだろうに……。
「それでは足りませんか? でも大丈夫ですよ。これからまだ料理はたくさん来ますわ」
確かに紅葉の言葉通り、そのあと十種類ほどの料理がやってきた。もちろん紅葉は食べきることはできないので、一口食べただけでほとんど下げてもらっている。
「もったいないな~。料理の数を減らして全部食べきれる量にしたらどうだ?」
「何を言っている! お嬢様は奏音にいろいろな種類の料理を食べてもらいたかったからこういう食事になさったのだぞ!」
「いいのです、マキ。確かに食べ物を残している私は大変粗末なことをしているのですから」
紅葉は俺に掴みかかってきそうなマキをなだめるように言う。
「俺が悪かったよ。紅葉は俺の事を考えてこうしてくれたんだな。ありがとう」
この食事会は前回とはうって変わって、いい雰囲気で終えることができたと思う。このときにはもう紅葉の気持ちは固まっていて、俺の気持ちは傾いていたけれどこのときはただ楽しかった。




