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 飲み物を手にディアンヌ様と壁際に立っていると、見覚えのある男性が人の間を縫って近寄ってきた。


「アデル嬢。ひさしぶりだね」

「ジョーゼフ様」


 ジョーゼフ・フルブライト様は、件の私に婚約を申し込んでくださった侯爵家の御嫡男だ。


「貴女の姿が見えないから心配していたよ」

「ありがとうございます。お騒がせして申し訳ありません」

「君は悪くないのだから謝ることはない。ところで、こちらのご婦人はお知り合いですか」


 ジョーゼフ様が目を向けると、ディアンヌ様は優雅に微笑んだ。


「カレンス家のディアンヌと申します」

「カレンス家の……そうでしたか」


 ジョーゼフ様が何かに思い当たったようにハッと強ばった表情になった。

 どうやらジョーゼフ様はディアンヌ様の家を知っているようだ。

 私もカレンス家に聞き覚えがあるのだけれど、どうしても思い出せない。


「失礼いたしました。私はフルブライト侯爵家のジョーゼフと申します」

「あら、礼などよして。我が家は爵位を持っていないのですから」


 意外なことに、ディアンヌ様は貴族ではなかった。しかし、堂々とした態度といい気品といい、どう見ても高位貴族の令嬢にしか見えない。


 三人で会話を楽しんでいると、


「あっ! ジョーゼフ様!」


 聞きたくもない声が割り込んできた。


「お久しぶりです! 会いたかったです!」


 リリアンはジョーゼフ様の腕に勢いよくしがみついた。


「フェザンディック公爵令嬢。離れてください」


 ジョーゼフ様は温度のない声で告げる。


「えへ。ジョーゼフ様に会えたのがうれしくてぇ」

「そうですか。離れてください」


 リリアンは頬を赤らめて目を潤ませて見上げるが、ジョーゼフ様は頑なな態度を崩さない。


「もう一度だけ言います。離れてください。淑女が異性の身体にみだりに触れるものではありません」

「そうよ。リリアン、ジョーゼフ様に失礼よ。離れなさい」


 ジョーゼフ様に申し訳なくて、リリアンを窘めた。だが、リリアンはきっと私を睨みつけてますますジョーゼフ様にしがみついた。


「何よ! お姉様は私にジョーゼフ様を取られたから嫉妬しているんでしょう!」

「なんてことを……っ」


 私は唖然とした。フルブライト家との婚約話は無効になったというのに、そもそも申し込まれたのは私なのに、なんでこの子はジョーゼフ様が自分のものであるかのように話すんだ。


 ジョーゼフ様が少し乱暴にリリアンを引き剥がした。


「きゃっ……ひどーい!」

「ひどいのはどちらですか。私とアデル嬢への侮辱ですよ」

「もっ、申し訳ありません! ジョーゼフ様」

「アデル嬢が謝ることではありません」


 私が頭を下げると、ジョーゼフ様は優しく言ってくれた。


「ここで騒ぐつもりはありませんから、私はこれで失礼します」


 ジョーゼフ様が去っていったので、私はリリアンが彼を追いかけないように前に立ち塞がった。


 リリアンが何か言おうと口を開いたその時、会場に陛下の声が朗々と響きわたった。




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