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 婚約?

 私が、殿下と?


 そんな……そんなの……


「無、無理です。だって、私、私が、親から愛されていないの、皆、知っているし……」


 ぱたぱたっ、と、知らぬ間に涙がこぼれていた。


「ボロボロの服を着て、履く靴すら無くて、平民よりひどい格好で、そんなみすぼらしい私が、殿下となんて……」

「アデル」


 ディートリフ殿下はそっと私の涙を拭った。


「どんな粗末な格好をしていても、アデルの輝きは失われていなかった。貴女の強さ、たくましさ、明るさ、すべてが私を引きつけてやまないんだ。それに、貴女が婚約してくれないと困るんだ」


 ディートリフ殿下がイタズラっぽく笑った。


「父上にも母上にも、夜会でアデルをエスコートして婚約発表すると言い切ってしまった。貴女に振られると、私はかなり格好悪いことになる」

「……」

「私に、恥をかかせるつもり?」

「……そんな言い方は、ずるいです」


 私が俯くと、ディートリフ殿下は顔を覗き込んできた。


「アデル。貴女はまだ私を好きでも何でもない。だから、戸惑っているんだろう。アデル、今はまだ友情でかまわない。「親友」として、で構わないから、婚約してくれないか」


 親友として。

 私は、私はまだ、殿下を好きとかはよくわからないけれど。


 でも、あの時の約束を守ってくれた殿下と、まだ一緒にいたい気がする。


「……「親友」として、なら」


 私は涙を拭って微笑んだ。





 そうして始まった夜会で、第二王子と共に登場した私に会場中の視線が突き刺さった。

 さらに、陛下が私とディートリフ殿下の婚約を発表すると、もっと大きな騒ぎになった。


「アデル嬢はこのひと月、私を献身的に支えてくれた。今日、この場に立てたのは彼女のおかげだ。故に、アデル・フルブライト嬢を私の婚約者とする!」


 え?

 殿下の宣言を聞いて、私は思わず殿下の顔を見上げた。

 フルブライト?


「アデル。実は今日を持って貴女はフェザンディック公爵家とは絶縁している。そして、フルブライト侯爵の養女となっている」


 私は呆気にとられた。


 そういえば、私がこんなに目立っているというのに、今日はまだ妹の金切り声が聞こえてこない。

 思わず会場中を見渡したが、両親の姿も妹の姿も見つけられかった。

 騒がない、ということは、来ていないの?


「今日だけは邪魔されたくなかったからな。公爵夫妻には「遠慮」してもらった」


 そう言って、殿下はニヤリと悪い笑みを浮かべられた。その表情はやっぱりディアンヌにそっくりだ。


 何をしたのかはわからないけれど、きっと、あの両親と妹に言うことを聞かせられるぐらいには恐ろしい説得をしたのだろう。


「ありがとうございます……」


 肉親がいないということに、こんなにも安堵する自分に気付いて、私は苦笑した。




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