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「ふう……」


 自室に戻って、私は息を吐いた。


「……信じられません! お嬢様を何だと思ってるのでしょうか!」


 黙ってついてきていた侍女のエリィが憤懣やるかたないといった表情で怒り出す。

 私の扱いに、使用人達が見かねてお父様やお母様に苦言を呈することが昔はよくあったのだけれど、私の味方をするとリリアンが「いじめられた」とか言い出して首にしてしまうのだ。

 だから、お父様達の目の前では私を庇わないで、と使用人達にお願いしてある。


「まあ、予想はしていたし、今さら驚かないわ」

「ですがっ……こんなこと許されませんよ!」


 私はベッドの上に畳んであったいつもの服を身につける。服、といっても私が十三歳の時から着ている年季の入ったものだ。つまり、両親から与えられて妹に奪われなかった最後の服というか。

 しかし、当然サイズは合わないので、侍女がなんとかかんとか端切れを継ぎ足して着れるようにしてくれている。つぎはぎだらけなので見た目ははっきり言ってボロである。私が豊満な肉体の持ち主じゃなかったからなんとか着れていたけれど、さすがにもう限界だ。


「お嬢様……これはもう着れませんよ」

「そうよね。キツいわ」


 しかし、これが着れないと下着か寝間着で過ごさないとならないんだけど。


 服はなんとか布を継ぎ足してサイズアップしてもらって着ていたけれど、靴はそうもいかない。

 なので、侍女からもらった布を縫い合わせて厚紙で底をつくり、不格好な靴を作って履いている。いや、布で足を包んで紐で縛っているだけなので、靴とは呼べぬ代物だけれど。


 でも、以前、私がサイズのキツくなった靴で苦しんでいるのを見かねた使用人が自分の身銭を切って靴を買ってきてくれたことがあった。平民の店で買った、普通の貴族が履くような物ではなかったけれど、そんな明らかな安物さえ妹は奪っていったからね。

 申し訳なさすぎて、使用人に頭を下げたわ。私が。


 着る物も履く物も手に入れられない環境で暮らすのはもう限界だ。

 なんとかして、自分で稼いで、なおかつ妹と両親から離れて暮らす方法を考えなければならない。


「やっぱり家出するわ。平民になって働く」

「お嬢様……本来なら命を投げ出してでもお止めするべきなんですが、この家での扱いをずっと見てきた私どもは、この家にいるよりは外に出る方がお嬢様のためなんじゃないかと思ってしまいます」


 それにしても、妹のあの異常な物欲はなんなのだろう。いくら甘やかされたからって、あそこまでになるかしら。普通。

 妹のこともおかしいと思うけれど、私がそれ以上に異常だと思うのは両親だ。

 だって、今の育て方は絶対に妹を幸せにしない。


 さっきの通り、お母様は社交の際によく私を「病弱」ということにして連れて行かず、リリアンだけを着飾って連れ歩くのだけれど、情報が命の社交の場でそんなお粗末な嘘で騙されてくれる夫人や令嬢がいるはずないではないか。

 どんなに防ごうとしても、漏れるものなのだ。情報というものは。

 本当に防ぎたいのなら、当事者を始末した上で、情報のプロの手で確実に証拠を消さなければならない。つまり、この場合は私という存在と、私を知っている使用人達だ。


「あら。本当に出かけていくのね。またご婦人方のお茶請けをわざわざ提供しにいくだなんて……」


 馬車が出ていくのを窓から見下ろして、私は溜め息を吐いた。




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