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「あのう、ジョーゼフ様……」
ディアンヌが席を立った隙に、私はこそっとジョーゼフ様に訊いてみた。
「ジョーゼフ様は、カレンス家についてご存じなのですか?」
「ええ。父から聞いたことがあります」
「そうなんですね」
なるほど、だからカレンス家と聞いて、ディアンヌにことさらに丁寧に接していたのか。
「ディアンヌは大変ですよね。いくら第二王子殿下のためとは言っても、八年間もこの家で過ごしているだなんて」
十歳から十八歳だなんて、お洒落をしたりお友達と遊びに行きたい年頃なのに。
「ああ、でも、もしかしたら第二王子殿下の呪いが解けたら、ディアンヌが殿下の婚約者になるのかも。だって、ディアンヌはあんなに美しいし! 殿下への献身も評価されるべきだわ!」
そういえば、ディアンヌは私がちゃんと生活出来るように取りはからってくれると言っていた。
もしかしたら、ディアンヌが王子妃になることが内定しているのかもしれない。そして、ディアンヌは私を侍女として雇ってくれるつもりなのでは?
そうだったらいいなーと夢見ていると、ジョーゼフ様が突然噴き出された。
「え?」
「いや、申し訳ない。アデル嬢、カレンス家の呪いについてはカレンス様からお聞きしたのですね?」
「は、はい……」
「なるほど。わかりました」
何がわかったんですか、ジョーゼフ様?
ジョーゼフ様を見送った後で、ディアンヌはしばらく機嫌が良くなさそうにふくれっ面をしていた。
どうしたの? と何度も尋ねて、やっと口を開いてもらった。
「……アデルは、フルブライト侯爵令息と婚約したかったかしら?」
「え?」
「それか、他に想う殿方がいらして?」
私はぽかんと口を開けた。
これって……
恋バナ? 恋バナって奴ね?
そっか。ディアンヌは恋バナがしたかったんだ。だけど、ちょっと照れくさくて、ぶっきらぼうになっちゃったのね。
私、恋バナしてもいいと思われるくらい、ディアンヌと仲良くなれたのね。嬉しいわ。
「ジョーゼフ様は立派な方だけれど、私は恋とか考えたことがないわ」
「本当?」
「ええ。本当よ」
なにせ、家のことで悩みすぎて、恋愛なんてしている暇がなかったから。
そう答えると、ディアンヌはほっと息を吐いて表情を緩めた。




