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「お姉様だけ素敵なドレスを着てずるいわ! 私にちょうだい!」


 半ば以上予想はしていたけれど、やはりいつもの台詞を喚きだした妹を私は白けた目で眺めた。


 私はフェザンディック公爵家の長女アデル。


 二つ下の妹であるリリアンは、私の持ち物は何でも「ずるい」「ちょうだい」の言葉で奪っていく。

 両親は妹を溺愛しており、妹の願いはなんでも叶えるため私に与えられた物は次の瞬間には妹の物になるのだ。

 誕生日プレゼントとか、私の手に渡されて包装を解いたら、妹の手に渡るっていう流れだからね。

 わざわざ私を経由する意味ってある? もう妹に直接渡せばいいんじゃない? 本当に不思議だわ。


 されど、いつものパターンならここで両親の「姉なんだから妹に譲ってやりなさい」が入るんだけど、今夜はさすがにちょっとは両親も粘るんじゃないかしら。


 何せ、今夜は私のデビュタントで、リリアンが欲しがっているのは私の白いドレスなのだから。


 春までに16になった貴族の令嬢が初めての夜会に出かけ、国王陛下からのお言葉を賜る一生に一度の行事だ。


 貴族の娘ならば、よっぽどの事情がない限り必ず参加せねばならない。


「リリアン。今日はアデルのデビュタントなのよ。だから……」

「そんなの知らないわ! お姉様だけずるいわ! お姉様のドレスが欲しいの! くれないなんて酷い! お父様もお母様も嫌いよ!」


 私だけずるいって、私のドレスを作る時に関係のないリリアンもドレスを作ったじゃないの。しかも二着も。

 忘れちゃったのかしら?


「しかし、デビュタントをさせない訳には……」

「お父様! いい考えがあるわ! お姉様が行かない代わりに私がデビュタントに行くわ!」


 ……とうとうイカレたことを言い出したな。


 リリアンはまだ十四歳。夜会に行ける年齢ではない。

 だいたい、姉の代わりに妹が来ました、なんてそんなことが許されるはずがないでしょう。


「そうね。アデルは病弱だから、夜会に参加出来ないわ」

「リリアンは姉想いだからな。健気な気持ちを陛下も理解してくれるだろう」


 両親も十分イカレていた。


 そんな道理が通るわけないでしょう。


「わかったでしょうお姉様! 早くドレスをちょうだい!」


 ……こういう生活を十年以上も続けていると、なんかもう怒りとか憎悪とか通り越して既に憐れみしか感じないのよね。


 私は冷たい目で両親を見た後に、その場でドレスを脱ぎ出した。

 いきなり下着姿になった私に両親はぎょっとしていたけれど、私はかまわずにリリアンにドレスを叩きつけて、靴も脱いでその場を立ち去った。

 背後でぎゃあぎゃあ何か喚いていたけど、もう聞きたくない。

 ずっと側に控えていた侍女が一人、すっと後をついてきた。




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