立花 京子9 文化祭
もう、京子とは昔のようになることはないのだろうか。
そう思いがら、俺は残りの学校生活を消化していった。
親や、友人たちや、先生に、俺は英京へ行くと伝え、俺は引退した剣道部や地元の剣道クラブへ顔を出したりした。
小一から俺を指導してくれていた館長も、俺が推薦で英京へ行くことを喜んでくれた。
このとき初めて、館長が英京OBであったことを知った。
京子も吹奏楽部を引退した。
京子の吹部の引退は10月の中旬だった。
吹奏楽部は引退が遅い。一応、3年生の引退時期は自主申告制なのだが、ほぼ全員この10月までやり通すらしい。
同調圧力もあるのかも知れない。
俺は全く音楽のことは分からないが、小学生の頃に京子のピアノの演奏会を一度見に行ったことがある。京子の演奏はとても上手で、カッコよく見えた。
中学生活が終焉へと向かって行く。
俺は考え抜いて、腹をくくった。
山下大介に、謝ろう。そして、赦しを乞おう。
もう、十分だ。山下大介に完敗だ。
俺と山下大介が和解して仲良くすれば、京子もまた俺と仲良くなってくれるだろう。
山下大介はもともと優しい良い奴だ。
俺の方に問題があっただけで、俺がその気ならもう一度仲良くできるはずだ。
この間のヒノモモ祭りのとき、睨み合う俺と京子の間に割って入り京子を守ろうとした姿も痺れたぜ。
やる時はやるんじゃねぇか。
この考えにようやく至った俺は、休み時間に廊下を一人で歩いていた山下大介をたまたま見かけ、声をかけた。
「おい、山下大介。」
俺に呼び止められた山下大介は相変わらず不安げな表情だ。
「ヒノモモ祭りの日、悪かった。手、大丈夫だった?腹も。」俺は優しく山下大介に語りかけた。
俺に優しげな言葉をかけられた山下大介は、怪訝な表情だ。
「うん・・・大丈夫だよ・・・・」戸惑った様子で返事をする。
「今度、遊び行こ。今週の土曜とか?」俺は積極的に山下大介にアプローチをかけた。
飯か、映画でも見に行くか。
「う〜ん・・・ごめん・・・・土日はどっちも用事がある・・・」山下大介が恐る恐ると言った様子で答える。
ホントに用事かどうかは、分からないが・・・。
そうだよな。そもそも、いまさら俺と仲良くしたくないだろうな。
山下大介も、人間だ。これまでのことを考えると当然だ。
「そっか・・・。分かった。」俺は答えた。
「本当に、ごめんね。」山下大介が本当に申し訳なさそうにしている。無垢なやつだ。
「来週の文化祭は、京子と周る?」俺は山下大介に尋ねた。
「・・・うん・・・・」山下大介は、非常に答えたくなさそうに答えた。俺が京子に熱烈な愛を抱いていることは、さすがに山下大介も承知しているだろう。
「そっか・・・楽しめよ」俺はそう吐き捨てると山下大介から離れ、教室に戻った。
文化祭が迫っていた。
卒業までの学校行事は、この文化祭が最後だ。
11月の頭にある。
俺はこの文化祭が嫌いだった。結局、中学の文化祭を楽しむことは一度もないまま、中学生活は終わりそうだった。
体育祭と違い、文化祭はどうしても恋人のいるなしで楽しさが大きく変わってくる。
京子は過去2年間の文化祭を、山下大介とと共に過ごしていた。
2人はあまり人前では恋人らしいところを見せないのだが、この文化祭ではさすがに恋人らしく行動を共にしている。
文化祭を周る2人の姿を見て、山下大介と立花京子が恋人同士と知った奴も多い。
今年も、2人で周るとのことだ。
癪に触る光景が待っていそうだし、休んでしまおうか?
とはいえ、それも情けないか。せっかくの文化祭なのだから、京子のことは忘れて純粋に楽しめればいいか。
山下大介のことも、俺の中でいくらかマシに思えてきたし・・・・・。
そう思いながら迎えた文化祭だったが、やはり俺は京子のことは気になった。
先日の進路相談の登校以来、目も合わせていないのに、俺の中は京子でいっぱいであった。
文化祭では各クラス様々な出し物をしていた。
ウチのクラスではバルーンアートの出し物をした。
交代の当番制で、自分の当番が終わったら自由に校内を周れる。
自分の当番を終えた俺は友人達と文化祭を周りながらも、チラチラと京子を探していた。
しかし、見つからない。
京子なんて、いればすぐ分かるのに。
山下大介もいない。
見つからないとなると、無性に気になってくる。
2人で、何をしているのか?
俺はいっしょに周っていた友人達に、少し体調が良くないから休むと伝え、一人で、とりあえず美術室へ向かってみた。
もしかしたら、2人で山下大介の絵でも見ているのかも知れない。
そもそも、この文化祭で美術室に何が展示されているのか知らないが。