表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
立花 京子  作者: ぐんた
8/13

立花 京子8 進路

翌朝、俺と京子の待ち合わせ場所である、駄菓子屋横のポストのところに、京子の姿はなかった。



俺は一応、5分ほど待ち、



念のため京子の家にも行った。


すると京子の母親が玄関先の掃除をしていたので、京子はまだ家ですか?と尋ねると


あら?京子はもう行ったわよ?と不思議そうにしていたので、


あれ?入れ違いになったのかも?と俺は意味不明な誤魔化しをして学校に向かった。







京子は、本気で俺と絶交しようとしている。



俺は無論ショックだった。なんだかんだ、朝の登校では一緒になれると淡い期待を抱いていた。


"話しかけないで"という京子の言葉、あれはあの場でではなく、金輪際ということだろうか?



学校に着き、俺は暗い気持ちで教室に向かった。



そうなのだ。実際のところ、集団登校の強制など、努力義務のようなもので、各登校班がちゃんと集団登校を行っているかどうか誰も見張ったりはしていない。


もちろん、班に小学生の子がいたり、大人数での登校班だったなら、しっかり行っていないとバレて指導が入るかもしれないが、


中学生2人のところの班など、各々勝手に登校してもバレもしない。



俺が学校に、京子が集団登校を守りませんなんて告げ口したところで、ことの経緯が明るみになれば俺も恥をかく、どころか、イジメのような実態があるので、剣道の推薦も危うくなる。



そもそも、集団登校をいまさら京子としたところで、きっと、何の意味もないのだろう。



全ては、終わったのだ。




俺も、もう、苦い初恋は人生の肥やしにして、高校生活などに新しい恋を期待するべきなのかもしれない。







俺は授業中、京子に掴まれた手首のアザをみた。


血が止まり骨が軋み、手が痺れるほどの力で握られた手首。


クッキリとアザになっている。手首を女性に掴まれたアザなんて、まるで怪談だ。


しかし、こんなにもアザがクッキリと、36の握力でなるのか?




俺は休み時間、駿太に俺の左手首を思い切り握って貰った。



駿太は俺の頼みに気色悪そうにしていたが、全力で握ってくれた。


ギュウ


確かにかなりの圧力が手首にかかるが、京子の握りはもっともっと強かった気がした。


特に、俺が山下大介を左手で叩いた後、京子がいっそう俺の手首を骨が軋むほど握ったとき、


あの時の感覚は、まるで機械に手首が挟まれてこのまま切断されるんじゃないかと錯覚するほどの圧力だった。



「駿太、本気?」俺は違和感強く、俺の手首を握る駿太に全力か確認した。


「本気だって。俺握力あんま強くねーもん」力み声でそう言いながら俺の手首を握る駿太の手の指の関節には白みがかかっており、駿太なりに精一杯握り込んでくれているのが伝わった。



これで、握力52か・・・・。








その日の休み時間、俺は廊下で京子を見かけた。


人がどれだけいる場でも、京子はすぐ見つけられる。


その時京子は友人達といたので、昨日のことと、今朝集団登校をせずに1人で学校に来たことをその場で問いただすのは抵抗があった。






だが、このまま今の状況が続き、そのまま卒業となってしまうのはあまりにも寂しすぎたので、俺は放課後、剣道部へ行く前に京子のクラスへ向かった。


放課後ということで、京子の教室にも人は普段の半分ほどしかおらず、そこに京子の姿はなかった。


俺は急いで、放課後には吹奏楽部の部室にもなっている音楽室へ向かった。


そして、音楽室へ向かう途中で、友人とともに部活へ向かう京子を発見できた。



京子は同じクラスメイトであり部活メイトである伊藤ひろ美と共に歩いていた。


京子1人ではなかったが、外野の友人が1人くらいならばと俺は意を決して京子に追いつき、



「京子!」俺は前を歩く京子に後ろから声をかけた。


京子と伊藤ひろ美は俺の声で立ち止まって振り返り、京子は俺を見て、それは冷たい視線だった、何も言わず前を向き直り再び歩き始めた。


伊藤ひろ美は状況が分からず戸惑いながら、京子が俺を無視して歩き始めたので、慌てるように京子へついて行った。


まさかガンシカされるとは思っていなかったので、俺は走って京子を追い抜き京子の前に立ちはだかり、


「無視すんな!!」と京子に吠えたが、


京子は今度は俺の方すら見ずに、廊下に立つ柱を避けるように俺の横をすり抜けて行こうとした。


「おい!!」京子のあんまりな対応に俺は腹が立ち、俺の横をすり抜けて行く京子の持つ黒いトートバッグを掴んだ。京子は部活へ行く時いつもこのトートバッグを持っている。中には、譜面や練習メニューなどの吹奏楽部で渡されたレジュメが入っている。



ビッ!


すり抜けて行く京子の肩に掛けられたトートバッグが俺に掴まれて、嫌な音がした。


俺も京子もビクリとし、俺は思わずトートバッグから手を離した。そして互いに動きが止まった。


トートバッグは、見た目には異変はないがどうだろう。嫌な音はハッキリとしていた。


「無視すんなよ・・・」弱々しく京子を咎める俺。トートバッグを掴み不穏な音をたたせてしまったことは、俺だけの責任じゃないと言い訳するかの様にナヨナヨと声を出した。



京子は黙ってトートバッグを見つめた後、再び前を向き歩き始めた。俺がトートバッグを引っ張ってからの一連の流れの中で、京子が俺の方に視線を向けることはなかった。


俺はもう、どうすることも出来なかった。


俺と京子の会話のないやりとりを見ていた伊藤ひろ美も、京子が歩み始めると再び小走りで追いつこうとしていた。


俺から逃げるように歩く京子はとても早歩きで、"足の長い京子の早歩き"に小柄な伊藤ひろ美は小走りでなければ追い付けないようであった。





俺は惨めな気持ちで剣道の部活動へと向かった。






そこからの日々はとても軽い毎日だった。



朝は1人で登校し、京子とは廊下ですれ違っても視線を合わさず、


ただ、授業と部活を繰り返す学校生活だった。


日常が色を失ったような感覚があった。




最近、立花とあんま一緒にいるところ見てないな、なんて友人に言われたりもしたが、お互い受験期だから、あっち第一菅山目指して勉強頑張ってるから、と適当に濁した。


中3の秋にもなるとみんな、周りの人間関係よりも各人の進路の方に気が行くので、俺と京子のことはあまり話題に上がらなかった。





2学期も中盤、生徒たちは皆、先生達と進路面談をしていった。俺にも担任と進路面談があった。



そして、




「田辺、剣道で推薦来てたぞ。2つ。東高梨と英京だ。」


俺は晴々しい心になった。京子と仲違いしてからずっと真っ暗な学校生活であったが、久々に喜びという感情と再会した。



東高梨高校は県立高校で、英京高校は私立の高校だ。


どちらもパッとする学校ではないが、俺が頑張って来た剣道を、世の中が認めてくれたような感じがして嬉しかった。


やったな、と担任も言ってくれた。今後の生活態度もいっそう引き締めていけと、言葉を足された。


言われなくても、推薦を取り消されないように真面目に過ごすつもりだ。



また、東高梨と英京、どちらに行くか。


東高梨の学力は、正直、俺が自力の勉学で入れないこともない程度だ。剣道も、あまり強いという話を聞いたことはない。公立高校だし。



一方で、英京はモロ剣道の強豪だ。剣道に限らず、スポーツ全般強い。毎年うちの県からの甲子園出場や花園も争っている。通う学生の学力もピンキリだ。特別進学クラスもあれば、スポーツ特待クラスもある。まさに、私立の高校という感じだ。


うーん・・・。学費は当然、英京の方が遥かにかかるし・・・・。でも、せっかく小一から剣道してきたのだから、強豪にも行ってみたい気持ちはある。



ちなみに、俺の剣のライバルである砂田圭一も英京から推薦が来たが、圭一は勉強ができるので、一般受験で公立の進学校である西藤広高校を目指したいと言っていた。剣道も、西藤広は強豪ではないがそっちの部活で続けてくらしい。




俺は、どうしようかな。



親にも相談しよう。




友達とも進路の悩みを打ち明けあいたい。




そして、誰よりもーーーー



京子に、



この話を聞いてもらいたい。







「推薦すげーじゃん。やったじゃん。」


「どっち行くの?」


「英京の剣道部エグそう。レギュラー争いもしんどそうだし、東高梨なら絶対スタメン、もしかしたら主将とかもあんじゃね?練習もキツくなさそうだし。」


「東高梨なら、啓太、普通に一般でいけね?」



友人達が口々に俺の進路に意見してくれる。大人達のアドバイスと違って、気の置けない言い分が身に染みる。


そうなのだ。現実的に、俺が英京に行ったらベンチウォーマーになりかねない。大人は張り切る剣道少年にそんなことをはっきりと言わないだろうが、友人達は違う。等身大の世界観で考えてくれる。俺に対して失礼なのではなく、親友だからだ。




親にも相談してみた。


学費的な面で言うなら公立の東高梨だろうが、親は金銭の心配は一切せずに、行きたい方へ行けと言ってくれた。


ただ、ぶっちゃけどっち行きたいかマジで自分でも分からない。






京子に相談したい。



京子なら、なんとなく、どんな時でも俺の悩みを晴らしてくれそうな気がする。







俺は京子の家のインターホンを押した。




京子と仲違いしてから、これはしてこなかった。


いきなり家へ行くということ。


相手の親もいる状況で、京子がどう対応するのか怖かったのだ。


俺のした愚劣な行為や京子と仲違いしているという事実を、京子の親には知られたくなかった。


京子の親なら、きっと俺と京子の不和にも多少は気づいているかもしれないが、それも精々、思春期特有のぎこちなさくらいに思ってくれていて欲しい。




「はい」インターホンの向こうで、京子のお母さんが返事をする。


「田辺です。京子ちゃんいますか?」


俺ということが分かり、京子のお母さんはちょっと待ってねと言い、京子を呼びに言ってくれた。



しかし、数分後ドアを開けて京子のお母さんが出てきて、



「ごめんね、啓太くん。京子、今日は勉強に集中したいみたいだから・・・・」俺に対して悪そうに京子のお母さんは言った。




京子は、どのようにお母さんへ言づてしたのだろうか。



本当に勉強したいがために、俺と会わないわけではないだろう。



「分かりました・・」俺はそう言って家へ帰った。







翌朝、俺は早めに家を出た。


いつもより15分も早めだ。


俺が通学するとき、京子は姿すら見えない。



なので、5分や10分でなく、15分も早く家を出た。


すると、さすがに通学路に京子の姿が見えた。



時間をずらしたところで、学校へ向かう道は同じなのだから、その気になれば会える。


2人きりで。



俺は信号待ちをしている京子に追いつき、


おはよう、と声をかけた。


京子は、声でうすうす分かってはいただろうが、チラリと横目で声の主を目視して、やはり俺であることを確認し、ツンとした態度で俺を無視した。



「京子」俺はなお呼びかける。


京子は無視を続けるが、信号が赤なので、その場には留まり続けている。


「俺、推薦決まった。けど、どこの高校行くか、マジで悩んでるから京子にも相談乗って欲しい。」


俺の遥か頭上にある京子の耳に向かって、俺はやや叫ぶように言った。


この時京子は、体が少し反応したように思えた。ピクッと、したような。


そして、歩行者用の信号が青になったが、京子は1秒以上動かずに、2〜3秒ほど立ち尽くしてから横断歩道を渡り出した。


京子は俺の方を見向きもせず、ただずっと歩行者用信号を凝視していたので、信号が変わったことに気づかなかったはずがない。


最近の京子なら、信号が青に変わった瞬間、長い足を活かした高速歩行で逃げるように俺を置き去りにしただろうが、今の京子は動きにキレがない。


横断歩道を渡る足取りも、普通だ。もっとも、京子基準の普通ではあるが。京子は足の長さも相まって一般人よりはもともと早足気味なのだ。



ここ最近のにべもない様子とは違う雰囲気を感じ、俺は歩く京子に並走しながら、


「東高梨と英京で悩んでるんだけど・・」と語りかけてみた。



「・・・・」


「・・・・」



京子から返事はない。こちらを見もしない。


だが、ただのガン無視というより、


京子なりに葛藤しているように見える。


幼馴染の進路なのだ。幼稚園から共に過ごしてきた、かけがえのない存在。


互いが互いにとって長い間、1番の友人であったはずだ。


いや、友人とも違うか?恋人でもない。家族でもない。


他とは比べるようなものでもない、それ単体の、特別な枠だ。


まさに、幼馴染なのだ。


その俺が、真剣に悩み相談している。


そこには、山下大介を介した痴情のもつれをわざわざ持ち込まなくてもいいのではないか?


何も、俺は今、そんな話をしたいわけではないのだ。



幼馴染として、進路の悩みを聞いて欲しいのだ。


俺のことを、最もよく知る人間の一人として。



俺がもし、京子から進路相談されたら必ず真剣に考え抜いて意見する。



それは京子のことが好きだからじゃなく、俺は京子のことをよく知っているという自負があるからだ。



京子にも、俺のことをよく知っているという自負はあるはずだ。



京子の中で、俺が東高梨と英京のどちらが適しているか答えが出ているなら、俺に伝えずにはいられないはずだ。


俺に伝えず、俺が間違った選択をするようなことは、我慢ならないはずだ。






京子は視線が下がっている。


悩んでいるように見える。




「なぁ、これ」俺は京子に包装されたシャーペンを差し出した。




京子は差し出されたシャーペンを不思議そうに見ている。



「これ、合格祈願のシャーペンらしい。話題になってるって、テレビでやってたから、通販で買った。」



「・・・・」京子は黙ってる。


「買ったっていうか、推薦取れたお祝いで親にお願いして買ってもらった。」


俺はバイトもしていないので、このシャーペンは親に買ってもらったのだが、親には自分で使うと言って、推薦のご褒美としてお願いして買ってもらったものだから、手に入れるのに苦労はしている。




「誕生日プレゼント」俺はそう言って包装を開けてシャーペンを取り出し、京子の制服の胸元に留めようとした。



京子の誕生日はもう、2週間ほど過ぎていたが、気持ちが届けばいいと思う。京子が、第一菅山に受かってくれればと願う。



お互いに歩きながら、京子の制服にシャーペンを留めるのは難しかった。


しかし、京子が手で受け取ってくれないのでどうしようもなかった。いまさら引っ込められないし。


胸元だったので、胸に手が触れてしまわないよう気をつけた。それはあまりにも寒すぎる。



「・・・・」京子は俺がシャーペンを取り付けようとするのを黙って見ていた。返事こそ何もないが、払い除けたり、露骨に拒否はしないことに、俺は安堵した。




その時、


「あぶない!」京子はそう言いながら俺を手で制止した。


間髪入れず、俺の真横を自転車が駆け抜けていく。



自転車は凄いスピードで、ブワッと風が吹く。



俺は京子の胸元にシャーペンを留めるのに夢中で、前は全く見ていなかった。



危うく、交通事故だった。



助かった。





それと同時に、これは一応、京子から俺に話しかけたことになるのか?



危ない、と言う掛け声ではあったが。



京子は通り過ぎて行く自転車を見送った後、自身の胸元に留められた、2週間遅れの誕生日プレゼントを見た。


そして長い指でシャーペンをクリクリと撫でた。




「どういう風に悩んでるの?」京子は静かに尋ねてきた。こちらは見ずに、シャーペンを見つめながら、シャーペンを撫でながら。



「東高梨は、多分推薦じゃなくても行けるし、あんま剣道も強くないけど、逆にそっちならきっと俺でもスタメンだし、鶏口牛後かなって。逆に英京は、めっちゃ強豪だけど、俺じゃついていけないんじゃないかなって。」俺は京子からのまともな問答に心が踊った。飛び跳ねそうだった。



「・・・啓太は、何歳まで剣道するの?」京子は少し考えるように黙った後、俺に尋ねた。視線はずっと、シャーペンを見つめたままだ。


俺たちは今、歩みを止めて立ち止まっている。本来より15分も早く出ているので、学校に遅刻することはないだろう。



「・・・・何歳・・・・」あまり考えたことがなかった。少なくとも、高校まではするだろう。


その後は?俺は大学へ行くのか? 高卒で働くなら、働きながら社会人として剣道を続けて行くのか?



俺の地元の剣道クラブには、大学でやっている人も、社会人でやっている人も、様々だ。そもそも館長も、普段はスポーツ関係の会社に勤めるサラリーマンだ。



いつかは、俺も剣を置くのか?


「あんま考えたことない・・・けど・・大人になっても、続けたいな。」素直にそう思った。小一からやっているのだ。もう、俺の人生の一部だ。俺にとって京子との歴史の次に、剣道の歴史も重い。



「英京の方が、いいんじゃない?英京でレギュラー目指しなよ。」京子の言葉は調子の良すぎる意見に思えた。


「うーん・・・取れるかな・・?」俺は沸切らない返答をした。京子はなんでもこなす。なんでもこなせる訳じゃない人間の気持ちには少し疎いのかもしれない。



「・・・・レギュラー、取れても、取れなくても、英京の方が必死になれそうだから・・・・・。大人になってからも続けるなら、高校は必死になれる環境のほうが、いいかも?」京子は、考えながら話すように、ポツリポツリ言った。



ハッとした。


剣道の目標は、なんだ?なんで剣道をしているんだ?なんで剣道が好きなんだ?



剣道の魅力は、汗臭さと泥臭さだ。防具をつけて武器を持って叩きのめし合う、大声を出し合って威圧しながらぶつかり合い、それでいて試合前後は礼儀正しく気品に満ちている。


野性味と高貴さをもつスポーツだ。


圭一と喧嘩しても、剣道でぶつかり合って叩きのめし合えば、全部水に流せる。


遥か格上で尊敬できる剣士が相手でも、戦う時は互いに全てを忘れてガムシャラになれる。


それは、試合の時以外は礼節を大切にする前提が、競技者に浸透している世界だからだ。




そんな剣道を精一杯やらない選択肢にどれだけの価値があるのか。



仮に、東高梨でスタメンになって、それがなんだ?


だって東高梨じゃないか。



仮に、今俺の目の前に、東高梨のスタメンだったOBと、英京の補欠だったOBが現れて、どっちが強そうかと言われても分からない。




ただ、英京の補欠の方が、たとえ補欠であったとしても、真摯な剣道をしそうではある。これは完全な俺の偏見とイメージだけれども。



もし、どちらかと戦えるなら、英京の補欠の方と試合したいな。






英京の補欠と東高梨のスタメンで価値に差をあまり感じないならば、せめて、英京に入って補欠上等でスタメンを目指して見たいものだ。


英京のスタメンになれたら、どんな世界が待っているのだろう。想像もつかない。





「啓太は、剣道してる姿っていうか、剣道を必死に頑張っている姿がかっ・・・・・似合うと思うよ。」剣道を必死に頑張っている姿がかっこいい、そう言い切ってくれれば良いのに。言い直さずに。


そういえば、凄く久しぶりに名前を呼んでくれた。



京子のお母さんも言っていた。夢中になれることがかっこいいって。俺が東高梨に進んでも、何も熱中することはないだろうな。勉強に力入れてる学校でもないし。




「英京行くわ。ありがと。」


「ちゃんと自分で考えてね?」シャーペンを見つめながら指先でいじっていた京子は俺の発言を聞いて、慌てたように俺の方を見てそう言った。


ようやく京子と、会話の中で目があった。


「いや、英京だ。やっぱ、京子に聞いて良かった」ハッキリと確信を持てた。もはや英京以外あり得なかった。京子に聞くまで悩んでいたのが不思議なくらいだ。


「しっかり、考えて・・・」京子は、自分の意見で幼馴染が進路を決断したことに不安を覚えているように見える。


そんなに不安がらなくても、俺自身の決断だ。


誰の責任にもならない。




「・・・・」



「・・・・」


話題が終わってしまった。


すると、京子は黙って学校の方へ再び歩き出した。



俺もついて行く。



「なぁ、京子・・・」俺は京子に声をかける。


「・・・・」京子から返事はない。


「もう、一緒に登校しない?」俺は尋ねた。


「しない」即答だった。


「・・・・・」


「・・・・・」



黙って2人で歩き続け、学校が見えてきた。


すると京子はこちらを向いて立ち止まり、胸元のシャーペンを取り、俺の胸元に留めた。


お互いに立ち止まっていたのであっという間であった。


「それは、自分で使って。まだ、受かってないんだから。」そういうと、京子は学校の方へ歩き出した。



「・・・・・」俺は黙って立ち尽くした。


誕生日プレゼントは突き返されてしまった。


このシャーペンを京子の胸もとにつけようとしたことが、会話のきっかけになったのだから無駄ではなかったが、寂しい。




そこから俺は京子の30mほど後ろを歩き、学校に到着した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ