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立花 京子  作者: ぐんた
6/13

立花 京子6 山下大介

「おはよー」


「おん」


翌日、京子は以前のように待ち合わせ場所にいた。


2人で揃って学校へ向かい、2週間の間に起きた学校での話を京子なりにしてくれた。


同じクラスの男子から聞く話と、違うクラスの女子から聞く話ではまた違った視点がある。


2人で登校して、校門辺りではその様子を見た互いの友人たちが一言二言、茶化して来たが、元の仲の良い幼馴染の関係に落ち着いたことが伝わって、それ以降は以前と同じような扱いになった。




その後、2回ほど京子の家と俺の家に互いに行き来し、京子先生による勉強の遅れを取り戻すための勉強会が行われた。


休日に図書館でも行われたので、勉強会は3回か。


京子の教え方は予想通り抜群に分かりやすく、俺は2学期の成績は、だいたい100人強の中で28番だった。


たった3回の勉強会で、2週間休んでいた遅れを取り戻すどころか、俺史上ダントツで最高の成績を取ることができて驚いた。


京子が俺の先生でい続けてくれたら、きっと俺は優等生の仲間入りだ。


だが、なんの負い目もなく京子に教わるのは俺のプライドが許さないので、これっきりだ。


京子はその回も、難なく学年1位だった。





こうして、ヒノモモ祭りでの騒動もひと段落し、俺と京子の日常は元に戻った。





山下大介が、京子の恋人となった以外は。












あれから1年半、今も京子と山下大介は付き合っている。


あの当時付き合い始めたカップルはもうほとんどみんな別れたのに、よりによって京子と山下大介のカップルは別れずにずいぶんと長く続いている。



俺は3年間で京子と同じクラスになることはなかったが、山下大介は、1年時と3年時で京子と同じクラスだ。




俺は、初めの頃こそは山下大介にも好意的に関わろうとしてきた。


3人で出かけたりしたことも、一度だけあった。


だが、関われば関わるほど、俺は山下大介に嫌悪感を感じるようになっていった。





確かに山下大介は、純粋で良いやつではあった。俺に対しても、一度も嫌なことを意図的にしてきたこともない。例えば、山下大介が京子と付き合うということは、俺にとって最上級に嫌なことだが、それは別に、山下大介が俺になんらかの思想を向けて行っているわけではない。


俺に対してだけでなく、山下大介は近くで見る限り、決して他人を傷つけず常に温厚で仏のようなやつだ。


山下大介が怒っているところを見たことがない。



きっと、山下大介が京子の彼氏でなかったら、まず憎んだりはしなかっただろう。



ただ、京子の彼氏とするには、あまりにも山下大介はカスすぎるのだ。


せめて、京子の彼氏がササコウとか、最悪でも駿太クラスだったら、もっと俺も殊勝な気持ちになれた可能性があったともいえるかもしれないと言っても言い過ぎではない。


いや、やはり仮にササコウでも許せないかも知れないが。



とにかく、山下大介は、あらゆる点において能力が低いのだ。


背も低くガリガリで弱々しく、顔もパッとしない。


勉強は100人強の中で50番くらいで俺と変わらないのだが、山下大介はテスト期間中はいつも京子に勉強を教わっている。京子の教え方が上手いから50番くらいなだけで、山下大介の学力は本来もっと低いはずだ。俺も京子に教えてもらった時には、2週間学校を休んだ後でも20番台を取ったのだから。



山下大介は確かに優しいが、優しいというよりアホなのだ。どうしても放課後に用事があると言う級友の頼みを聞いて、係の当番をしょっちゅう変わっていると聞くが、そんなのは優しさじゃない。怒らないのではなく、怒れないであるなら、それは弱いだけだ。


優しいと言う言葉を隠れ蓑にしてる雑魚虫だ。


こんな情け無いやつが京子の彼氏だと思うと虫唾が走る。




中学2年生の頃にはもう、俺はあからさまに山下大介への嫌悪感を示していたので、京子も俺と山下大介を近づかせないようにしている。


京子曰く、山下大介も俺に敵視されていることを感じているので、俺に対して怯えているらしい。


もともと、臆病で弱いやつなのだから。


一度、山下大介への俺の当たり方について京子に強く叱られたことがあった。


それまでは京子も、俺の気持ちについて重々承知しているのであまりキツくは言ってこなかったが、その時は結構厳しいことを言われた。


「啓太。大介のこと、これ以上酷いことするならもう啓太とは口聞かない」


俺はショックでその日夕飯も食べれなかった。


その時は中2の夏休み前だった。確かにその頃の山下大介への俺の嫌がらせはピークを迎えていて、俺は友人達を率いて山下大介へ野球のボールをぶつけたり、山下大介の自転車を木の上へ引っ掛けたりした。その他にも典型的なイジメのような行為を繰り返していた時期だ。



ちなみに、木の上に引っ掛けられた自転車は、京子が助けに来てくれて、京子が一人で木に登って自転車をおろしてあげたらしい。



かなり苛烈にしていた時期だったので、京子もみかねて俺に強く言ったのだろう。


まさか、京子から三行半のようなものを突きつけられるとは夢にも思っていなかったので、俺は思わず京子に謝罪してしまった。


「・・悪かったよ・・分かったよ・・」と、舌打ち混じりで京子に伝え、それからはイジメのようなことは止めた。


もともと俺の友人達は俺に付き合って山下大介をからかっていたので、俺が何もしなければ山下大介は平和に過ごせるのだ。



あの時の京子の脅しは、どれほど本気なのだろうか?


俺をとの縁を切ってでも、山下大介との時間を大切にしたいのだろうか?



それとも、俺が折れることを見越して言ってみただけだろうか?

 

俺はずっとモヤモヤしていた。





京子にキツくは言われてからは大人しくしていた俺だったが、最近では軽い嫌がらせくらいはかます。中2の頃のように激しいことはしないが。





京子と山下大介、2人が恋仲としてどれくらい進展したかは誰も知らない。


キスをしたのか、それとも、さらに奥へと進んだのか。


考えるだけで俺は頭がおかしくなりそうなので、なるべく考えないようにしていた。




中2以降で、俺と京子2人でいる時には、あまり積極的には山下大介の話はしない。


先の通り、京子が必要に迫られて俺を嗜めるために山下大介のことを話すことはあるが、基本的には触れないようにお互いしている。



ちなみに、中1のときの、俺が休んでいた2週間分の遅れを取り戻すために行われた勉強会で京子の家へ行ったのを最後に、俺はこの一年半は京子の家の中へは入っていない。


京子が風邪とかで休んだ日に、玄関先まで課題とかを届けたくらいだ。


ただ、京子が俺の家の中へ遊びに来たことは、中2以降でも2度ある。一緒にDVDを見たのと、ウチで夕飯を食べたときだ。純粋に、いつも通りの幼馴染としてだ。


逆に、俺と京子の関係性を山下大介はどう感じているのだろう。



いっそ、向こうから因縁をつけてきてくれたら京子に言い訳をして山下大介をイジメられるのに。










「高校、どこ行くの?」俺は登校中に京子に聞いた。


「第一菅山受けると思う。」京子は答えた。


予想通りだった。第一菅山高校は、俺たちが属するエリアの中でダントツの難関校である。俺が100回受けても、100回落ちるだろう。俺以外の受験生が全員、逆立ちをしながら受験してくれるならやっと俺にも勝機はあるかもしれないが。


きっと京子は受かるだろう。仮に第一菅山高校でなくとも、俺と京子が同じ高校に行くことは学力差的にはありえない。


俺と京子の通学も、残り10カ月を切っているのだ。



「医者んなるの?」両親が医者である京子に聞く。昔はあまり深く考えてないと答えていたが、進路を決める時期に差し迫った今だとどうだろう。


「まだ分かんないけど、医者になれる選択肢は残してくかも。やっぱ、なるのかな?」京子はそう答えた。


山下大介とはどうするのか、と聞きたかったし、聞きたくもなかった。


「啓太はどこ行くの?」今度は京子が尋ねてきた。



「剣道で推薦が来たらどこでも。来なかったら、その後勉強頑張る。」自分の言葉を自分で聞いて、推薦をもらうため夏の大会も頑張ろうと改めて思った。



「どこでもって、県外とかでも?」


「県外から推薦来るのは、結構化け物だよ」俺には来ないだろう。



一緒に登校するのも終わりだな、と言おうか言うまいか悩んだが、それはもっと卒業式が近づいたらにしようと思い言うのをやめた。










学校の廊下に、絵が張り出されている。


美術部の絵だ。夏のコンクールに向けての試し書きのようなものらしい。


どれも上手な絵だ。さすが、美術部。


山下大介の絵もある。それなりに上手だ。


というか、その絵は楽器を吹いている女の子の絵なのだが、多分、モデルは京子だ。



なんだかむしゃくしゃした。



その日の放課後、剣道部の稽古場に行く前に、俺は美術部の部室にもなっている、美術室へ向かった。


美術部員がいる中で美術室に入っていくのはちょっとキツイなと考えていると、ちょうど良い感じに、美術室へと向かう山下大介を見つけた。


「おい、山下」山下大介を廊下の奥から呼びつける。


山下大介は名前を呼ばれこちらを振り向き、俺を見て、心なしか、嫌そうな顔をしたように見えた。


「こっち来て」俺は山下大介を手招きする。


やはり、明らかに山下大介の顔は曇っている。


「廊下の絵、京子?」ストレートに聞いた。


「・・・・ん・・・まぁ」歯切れが悪そうに山下大介は答える。


「京子はやめろよ。他の子にしろよ。」俺は理由もなしに強制する。


「他の子って・・・俺、楽器できる子で他に被写体頼める子いないし」


パシッ



俺は山下大介の頬を軽く平手打ちした。


「じゃ、テーマ変えろよ。書道する子とか。絵を書く子とか。それなら、美術部同士で被写体頼めるだろ。おい?」


パシッ 


パシッ


俺は軽めの平手打ちを山下大介に連続で浴びせた。


「分かったから、やめて、やめて」山下大介はやむ無く承諾した。



怯える小さな山下大介を見て俺はさらに口を開き


「なぁ・・・・」


京子と、キスしたの?と、聞いてみたかったが、恐ろしくて言葉に詰まってしまった。


「・・・・・?」山下大介は突然固まった俺をいぶかしんだ。


「良い絵かけよぉ」小馬鹿にするように俺はそれだけ言うと、剣道部の方へと向かった。






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