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立花 京子  作者: ぐんた
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立花 京子5 ヒノモモ祭りの後

俺は、2週間学校を休んだ。


ヒノモモ祭りの日の翌日、月曜日に休むとき、当然俺の親は休むことに反対した。


ヒノモモ祭りに行った俺が、帰ってきてから元気がなく、学校を休みたいと言い出したので、俺の親はとても心配して事情を聞こうともした。


しかし、俺は頑なに何も話さなかった。


その後、なにやら電話で学校にも相談していたようで、俺が休んでいる間、友人たちが何度かウチへ尋ねにきた。


しかし、俺は誰とも会わず、トイレ以外では部屋から出なかった。


食事は、親が部屋の前に置いていってくれている。


俺が飛び出した後、京子はどうしたのだろう。


学校では、俺についてなんと言われているのだろう。




ある晩、夢の中で、京子が出てきた。夢の中の京子とは、昔のように幼馴染らしく、健やかに遊んだ。


心地良い夢のあと、目が覚めたとき、俺はまた暗い気持ちになった。


しかし、同時に、いつも以上に、京子は今どうしているのだろうと感じた。


ヒノモモ祭りの日、京子にはなんの落ち度もないまま、凄惨な目にあったのだ。


俺以上に、ショックを受けているかも知れない。


いや、幼馴染同士で、こんな風になって、苦しくないはずがない。


今後、京子と俺の関係がどうなろうと、とにかく、ヒノモモ祭りの日のことは、しっかり俺から謝らなければならないはずだ。


実のところ、学校を休んでいる2週間の間に、友人や学校の先生が尋ねてきてくれたとき、そのうち京子が尋ねに来るのではないかと期待していた部分があった。


期待と恐れ、半分ずつくらいの感情であったが、ついに今日まで、京子が尋ねてくることはなかった。


もしかすると、京子も家で閉じこもりながら、事情は誰にも言わず、俺が来るのを待っているのかもしれない。


この2週間の間に、あの日の後悔は数えきれぬほどした。


あの日に留まり続けるのも、あまりにも苦しい。


もう一度、京子と向き合おう。




俺は学校へ行くことを決意した。







2週間ぶりの登校で、俺は時の人となった。


登校を伝えた時、俺の親は心から安堵し、改めて事情も聞いたりせず、無理せずにとだけ言って俺を玄関で見送った。



登校の際に、京子との待ち合わせ場所の駄菓子屋のポストのところへ行ったが、誰も待ってはいなかった。


一人で登校し、校門までいくと、露骨に注目を浴びた。


俺とそこまで仲の良くないやつらが、ヒソヒソしながら俺を見ている。


俺と仲の良かったやつなら、すぐに声をかけてくるのだろうが。


と、思っていると、


「啓太!!」友人の遠山聡太が俺を見て駆け寄ってくる。


「啓太・・・お前・・・・なんで・・・」

遠山聡太が、聞きたいことがありすぎると言った様子で言葉を詰まらせている。


なので、


「俺のこと、みんななんて言ってた?」俺の方から尋ねてみた。


「立花と、ヒノモモ祭りで喧嘩になっちゃったって。」


おおむね、その通りだ。


どんな風に、伝わっているのだろう。まさか、状況事細かに伝わっているのだろうか?あんな、みっともない話。


「・・・・京子は、普通に来てるの?」



「今は来てるけど、立花もヒノモモ祭りの後、3日間休んでた。どんな風に喧嘩したの?相思相愛だったじゃん。立花が登校してくるまで、2人で駆け落ちしたってまで言われてたんだぜ。」


あまり、詳しくは知られてないみたいだ。


きっと、京子は俺のことで質問攻めにあっただろう。


「なんか・・・・上手くいかなかった。」そう言いながら、涙が滲んできて、後半の"上手くいかなかった"は涙声になってしまっていた。


ポロリと頬を、涙が一筋伝う。


「おいおいおい。とりあえず教室行こ」突然泣き出した俺に遠山聡太は驚いていた。


教室に行くと、一気に囲われて、質問攻めにされた。


俺は、立花と掛け合いが合わず喧嘩して、ショックで寝込んでいたと説明した。


どう説明しても無様なので、思い切ってやや道化気味に話した。


概ね、俺の不登校の理由は噂通りであり、みんなの予想していた理由でもあったため、それ以上はみんなも掘り下げず、"今度啓太を励ますために遊びに行くか"のような雰囲気になり、俺の学校復帰は無事達成された。



ただ、その朝のホームルームまでの時間の間に京子についての話にもなり、その時に、


俺は、俺が休んでいる間に京子が山下大介と付き合い始めたという事実を知らされた。


クラスメイトの1人がその話をし始めた時に、ホームルームが始まり、話は中断され、そこから俺は、一限が終わって休み時間になるまで何も頭に入ってこなかった。



休み時間に入り、俺は噂好きクラスメイトの田中翔太にこの件について尋ね、簡単な経緯を知った。



ヒノモモ祭りの後、3日休んで学校に来た京子は、そこから数日もの凄く元気がなかったそうだ。


そんな時、京子のクラスメイトである山下大介が、京子と仲良くなり始めたらしい。


その時、たまたま京子の隣の席であった山下大介は、京子の休んでいた3日分のノートを見せたり、課題を教えたり、行事連絡をしてくれたらしい。


この時の京子は、周りから俺についてのことやヒノモモ祭りでの質問ばかり向けられるか、もしくは、腫れ物のように扱われるかのどちらかだったらしく、精神的に辛い状態だったようだ。


俺の不登校が続いている以上、京子にとってもまだ、事態は解決していないと伝えられているようなものであったろう。


自身も辛いのに、ストレスのかかる周りの対応の中で、山下大介は、何も聞かず京子のタメになることだけをしてくれたらしい。


山下大介は確かに内向的で大人しい性格なので、学年のゴシップや色恋沙汰などにも疎く、京子に対して気を回したというより、本当に何も知らずに自然体で京子へ対応したのだろう。



その自然体が、弱った京子の心を打った。


山下大介は、誰かさんのように半端に高いプライドを持ったり、極端な意地を張ったりせず、いつも京子を褒め、常に、素直な優しさを周りへと振り撒いていたらしい。



俺に足りなかったものを、山下大介は持っていたのだ。



そして、普段は京子から男子へ積極的なアプローチなどしないのだが、この山下大介に対しては、なかなか推し強めでアプローチをかけていたとか、いなかったとか。



基本的に待ちの姿勢で臨んだ俺とのことが散々になってしまったので、京子も行動的になったのか、それとも、苦しい日々にいてもたってもいられなかったのか、または、俺のことを吹っ切るためか、


とにかく、京子は山下大介と京子のお誕生日会を行い、2人は恋仲になったそうだ。




田中翔太からの話を聞き、俺は頭をゴーンと鐘つき棒で突かれたような衝撃を受けた。




京子との思い出がグニャリと歪み、目の前も歪み、立っていられなかった。



呆然と授業を受けた後、休み時間に俺は京子のクラスへ向かった。



京子とどんな風に対面しようかとずっと悩んでいたが、先ほどの話を聞いて、まずはとにかく京子に会いたかった。


俺の知っている京子が、俺の知らない京子になってしまう気がしていた。




ガララと、京子の教室に入り、京子を見つける。


京子ほど、視覚的に探しやすい人物はこの学校にいない。


そして、京子の方も俺に気がついた。俺を見て少し、ビクっとしたように見えた。



また、教室に、時の有名人である俺が突然入って来たので、京子以外の、教室内の他のみんなも俺の方を見ている。



ヒノモモ祭り以来の、京子と俺の対面はきっと、互いの友人やクラスメイトから見たら格好のゴシップだろう。


きっと、京子も教室の真ん中でそんな渦中に立ちたくはないだろうが、俺にはゆとりがなかった。



教室に入って来た俺を見る京子は、石像のように硬直している。



何を言おうか、どうしようか、頭の中をグルングルン回して、俺の口から出た言葉は、


「ごめん。俺が悪い。」


京子に向かって俺はハッキリそう言った。


ギャラリーの奴らが目を輝かせながら、息を呑む。


「う・・・・ん・・・」京子は目を伏せて、俺の目は見ずに気まずそうに、返事をした。



俺は手応えのない京子の反応に対し、次の言葉が分からず、懸命に何を言おうか考えていると、


「後で、後からちゃんと・・」京子が今度は俺の目を見つめ返しながら、言い聞かせるように、または、消えていくかのような声で俺に言葉を発した。


「あぁ・・・・じゃ・・後で・・」


俺は京子の言葉を聞き入れ、観衆の中、教室から退場していった。


後って、いつなんだろ。


俺が教室から出て、ドアを閉めた時、教室の中からヒソヒソ声が聞こえ出した。


ヒソヒソ声の音源が多すぎて喧騒のようだった。





京子の言う、後とははいつなのだろう。


次の休み時間か、昼食後か、放課後か・・・・


俺は、大人しく京子から何が合図が来るのを待った。


京子が後からというのなら、折を見て何かしてくれるのだろう。



授業が終わり、休み時間に入り、また授業が始まり、給食の時間になり、昼休みになり、また授業が始まり、やがて、放課後になった。


午前中こそ、久々の学校で授業も意味不明で戸惑ったが、無事1日を終えられた。


俺は2週間ぶりの部活へと向かった。


顧問や先輩に、挨拶と休んでいたことを詫びて、練習に混ざった。


かなり体が鈍っていたが、勘を取り戻していこう。



そして、部活も終わり、俺は帰宅した。


家に着いて、しばらくぼんやりとしていた。


親が2週間ぶりの学校について尋ねて来たので、大丈夫だから、明日からもちゃんと行くよと伝えたら、すこぶる安堵していた。



すると、家のチャイムが鳴った。

 


俺は、こうなってくれることを願っていたので、母親よりも早く玄関に出るため階段を転がり降りて、玄関のドアを開けた。


背の高い、ややあどけなさの残る、絶世の美女が立っていた。


「あ・・こんばんは・・・」美女は、きっとチャイムでまずは俺の親が出てくると思っていたのか、いきなりの俺の登場で少し驚いているように見えた。


「京子・・・・」俺も勢いよく出て行きはしたが、何を言うべきか整理できてはいなかった。


すると、


「ねぇ、今日ウチにご飯食べに来ない?」京子から意外な提案が出た。


「え・・・・」京子も、和解のためにいろいろ考えたのだろう。わだかまりをなくすために。 


「もう、食べちゃった?もしかして、今日部活行ってない?」面食らって反応の悪い俺に気を揉む京子。


「いや、部活帰りで飯もまだ。さっき帰って来たとこ。・・・じゃ、家、行っていい?」


「うん。一緒に食べよ。」


俺は母親に京子の家で食べることを伝えて、京子の家へ向かった。




俺の家からは3分も歩かずに、京子の家へと着く。


綺麗で大きな家だが、借家だそうだ。


いくらくらいで借りているのだろう。


京子と京子の両親のサイズに適した、巨大な玄関をくぐる。


京子の家族の前は、北欧出身の外国人が住んでいたらしい。


リビングに行くと京子の母親がいた。


テーブルの上には夕飯が用意されていて、ポテトサラダやコンソメスープのようなものと、大きなステーキが並べられていた。他にも、サラダやトマトのスライスと、ライスと、魚のムニエルのようなものまである。


すげー豪勢だなと思った。


確かに京子の家の食事はいつも豪華だった気がするが、中学生にもなるとこれがどれくらい豪勢か、小学生の頃よりしっかり分かるようになる。



「こんばんは、啓太くん」京子のお母さんが俺に微笑む。


「はい。こんばんわ」俺もはにかみながら挨拶する。


京子のお母さんはとても美人で、改めて見るとやっぱり大きい。


「啓太、席座って」京子がイスを引いてくれる。


俺が座ると京子も座り、いただきます、と2人で言って食べ出した。


「啓太くん、おかわりもあるから遠慮しないでね。京子は、啓太くんの前なんだから、あまり食べすぎないようにしなさいね。」京子のお母さんは穏やかにそう言った。


「啓太の前なら、大丈夫だよ。」京子はそう返した。先日の、中学に入ってからウチで食べた時の京子の恥じらい方は、よそ行きのための母親からのしつけでもあったのかもしれない?


京子は、その返事の通りモリモリと食べ進めている。


俺も、パクパクと食べる。


京子の家の料理はもの凄く美味しい。来る度に思う。


味付けももちろん絶妙だが、素材も上等なものを使っていそうだ。



勢いよく食べ進めていると、


「おかわりちょうだい」京子が母親にライスの皿を渡していた。


相変わらず、恐るべきスピードだ。


「京子・・・」京子のお母さんは何か言いたげな様子を見せながらも、京子のおかわりをよそった。



俺も負けじとモグモグと食べ進めた。


「啓太くんは、中学でも剣道頑張っているの?」京子の母が俺に尋ねて来た。


「はい、剣道部に入りました。」頑張っています、と言いたいところだが、今日まで2週間休んでしまったので、なんとなく言葉にしにくい。


「カッコいいわね。京子も、啓太君を見て剣道したいって言ってた時期があったんだけど、その頃ピアノのお稽古も大変な時期だったから、お母さんが反対しちゃったの。ね?」そう言いながら、京子のお母さんは京子に話を振った。


「んー」京子はご飯を食べ進めながら、鈍い反応を示した。


「へー。それは、聞いたことなかったです笑」その話は初めて聞いた。小学生の頃の京子は、ピアノと英会話教室に通っていた。剣道をする京子は、あまりイメージ沸かない。




「中学だと剣道部、女子2人しかいないし、やってても中学は吹部入ったかも。」京子はこの話をあまり長引かせたくないようにも見える。


「やってたら、強そうだけど。」俺は言う。パクパク


「女子で強くても。」京子が返す。モリモリ


「女子で剣道が強いのも素敵よ。大人になったら分かるわ。なんでも、夢中になれることがカッコいいの。反対したお母さんが言うのもなんだけど笑」京子のお母さんは笑いながら言った。


この時に俺もご飯が空になったので、おかわりを求めた。


京子のお母さんは、男の子は中学が一番の育ち盛りだからいっぱい食べてね、と、おかわりを盛りつけてくれた。


その後も3人で俺と京子が小学生の頃の話をしながら食事を続け、俺と京子の前の皿が空になったところで、ご馳走様をした。


大きなステーキは見た目通りかなり食べ応えがあり、こんなのを京子はいつも食べているのかと、だからこんな体格なのかと、そう思った。


他のおかずも多かったので、正直言って俺は腹がはち切れそうであった。


京子は俺よりさらに一回多くライスをおかわりしていた上で、それもぺろりと平らげていたので、まだまだ余力はありそうだった。腹、8分目くらいであるかのように見えた。


食事を終えて、俺と京子は、2人で京子の部屋へ向かった。


京子の部屋は2階にあり、この部屋も天井高く、綺麗な部屋である。


半年ぶりくらいに来た京子の部屋は、半年前に比べるとやや女子っぽさが増しているような気がした。


ベッドのシーツや床のマットの色が変わったのか?どこが変化してその女子っぽさを醸し出しているのかはハッキリとは分からなかった。


「ご飯、ありがと。」俺は夕食のお礼を言った。


「ううん。」そう言いながら京子はベッドの縁に座って、俺をジッと見た。


お互いが立っている時より、俺が立って京子がベッドの縁に座っているときの方が、2人の目線は近いかもしれない。


京子は足が長く座高は低いので、さすがに立っている俺の方が目線は少し高い。


「・・・・」



「・・・・」


黙って見つめてくる京子を俺も黙って見つめる。


先ほどの、夕食の席ではヒノモモ祭り以降の話は一切していない。


「京子・・・・ごめん・・・」俺は京子に今一度謝った。


「2週間、何してたの?」京子は俺に尋ねた。


「ずっと自分の部屋にいた。」


「もう、学校には来ないのかと思った。このままずっと来ないか、転校でもしちゃうのかなって。」


そう言われて、俺は転校という選択肢を一度も考えなかったことに気がついた。


なんだかんだ俺は、結局のところもう一度京子と向き合うことを最初から心に決めていたのだ。


「このまま転校していってくれないかなって思ったよ。」京子は言った。


胸がギュッとなった。


俺は2週間も引きこもる中、京子は4日目には登校したのだ。


4日目の俺なんて何もできずグッタリしていたのに。



心の強さまで京子には敵わない。


自身は4日で学校に来たのに、2週間も引きこもる俺に対してきっと、苛立ちも感じただろう。


「でもやっぱーーーー」そこで言葉を止めて、改めて京子は俺をまっすぐに見つめ、



「ちゃんと来てくれて良かった。」




「ごめん・・・・ごめん・・・グスッ」俺はまた泣き出してしまった。謝罪の言葉しか出てこなかった。



「もう啓太になんか会いたくないって2週間思ってて、家にも行かなかったんだけど、このままどっかに行っちゃってって思ってたんだけど、今日教室で啓太見たとき、めっちゃ嬉しい気持ちになってビックリした。訳わかんなかった笑」 そう言って笑った京子の目はめっちゃ涙目だった。



「・・・グスッ・・京子・・・・俺と付き合ってくれ」俺は突然口走ってしまった。もうずっとこの2週間、京子には謝罪の言葉と愛の言葉をイメージの中で伝えすぎていたので、昂った感情に引っ張られ口から出てしまった。


「・・・・・」さすがに京子は一瞬で強張った表情になった。


思うに、相手の女の子の部屋でプロポーズって、女の子側は非常に断りにくいのではないだろうか。


「・・・・・・」


「・・・・・・」 


「・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・」


かなり長い沈黙が流れた。


俺にとっては、10年近く募らせていた想いを伝えたのだから、どれだけでも返事を待つつもりであった。



「・・・・あたし・・・今、同じクラスの子と付き合ってる・・・・」長い静寂の淵で、京子は答えた。



「誰・・・・?」山下大介なのだろうが、すでに知った上で告白したように思われるのは嫌だったので、知らぬふりをした。というか、本当に山下大介なのか?



「山下大介っていう・・・啓太、分かんないかも」京子は後ろめたさがあるのか、非常に小さな声で答えた。


やはり、噂は本当だった。


そして京子の言う通り、山下大介がどんなやつかも、今日山下大介と同じ小学校だった俺のクラスメイトに尋ねるまで知らなかった。


「・・・そなんだ・・いいやつなの?」俺も思わず声が小さくなった。


「うん・・・・」京子の肯定に迷いがなかったことに、少しムカついた。


「良かったじゃん・・・分かった・・・」俺の心は虚無だった。


「・・・ごめん・・・・」京子の言葉は掠れてほとんど聞き取れないほどだった。


「・・・・・」


「・・・・・」


再び沈黙が俺と京子を包んだ。


「・・・じゃ、そろそろ帰るよ」もはやなす術がなかったので、俺はそう伝えた。


京子はそれを受けて、固まり、何か言いたげな表情を見せた。


今にも京子から、励ましの言葉と追加の詫びの言葉が出て来そうで恐ろしかった。


そんな言葉を京子からかけられたくはなかった。


まるでキッチリとトドメを刺されるような感覚だ。


京子も何をどう言うべきか分からず、逡巡しているかのように思える。


「・・・・明日からは普通に登校するから、ポストのとこで、前と同じ7時15分ごろ。」俺は何か言いたげな京子の口を塞ぐように、集団登校の再開を確認した。


「・・分かった。ちゃんと、来てね?」京子の声がかなり不安そうだった。


確かに、このまま俺は再び不登校になるか、失踪してしまいそうな雰囲気だ。


「ちゃんと行くよ笑」京子の不安そうな声があまりに露骨で、なんだか滑稽だったので思わず笑みが溢れた。


「笑」 俺が京子の言い方で笑ったのを見て、京子も少し笑った。


階段を降り、京子が玄関先まで見送ってくれた。京子のお母さんも、また来てねと玄関口で声をかけてくれた。




玄関先に出て京子と別れる際、京子は勉強分かんなかったら聞いてね、と言った。


俺は今まで京子に勉強を教わったりはしなかった。


学年で一番の京子ならきっと教えるのも上手だろうが、京子に対抗心の強い俺はそれに抵抗があった。


だが、今回の"教える"は2週間休んだ遅れ由来のものだから、能力差による指導とは違うので、俺的にも抵抗感は少なかった。


「うん。ありがと。」と返して、俺は家へ向かった。




その日の夜は、心がガランとしていた。


ずっと京子への想いを溜めて来て、それをぶつけたが、空振りに終わったからだ。


空振りというか、玉砕か。


今夜、俺の家にデカい隕石でも落ちてこないかなと思いながら、俺は眠りについた。


その日、夢は見なかった。





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