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立花 京子  作者: ぐんた
2/13

立花 京子2 体力測定

「おはよー」


今朝も京子が明るく微笑む


「おはよ。」


互いの家の中間辺りにある、駄菓子屋の脇に立つポストが、俺たちの待ち合わせ場所だ。


たいてい、京子の方が先に待ってる。


何日か前のときのように、京子の方が遅れてくることは稀だ。


「服、届いた?」


「うん。これ。分かる?」そう言いながら、京子は自分の制服を撫でた。


「うん。やっぱ、今の方がサイズあってると思う。前のは、少し小さく見えたかも。」


話しながら、俺たちは出発した。


「今日、体育、体力測定あるって言ってたな。」


「そうだね。」


「勝負な。」


「いいよ。」


京子は、運動は嫌いだが得意なのだ。


体格が圧倒的だから、普通に動いてるだけで基本的に好成績になる。


毎年、いつからか覚えていないが、多分小学校高学年くらいから互いの体力測定の記録を競い合ってると思う。





「じゃ、ペアを作ってそれぞれ各種目計測して周れ!」小柄だが声の大きい体育教師が俺たちに指示を出す。


普段俺と京子は別のクラスだが、体育は複数のクラスを合同で行う。


「じゃ、どこから周る?」「なら、適当に立ち幅跳びから行くか。」


俺は、クラスメイトの駿太とペアになって計測に周ることにした。


京子も、自身の仲の良い友達とペアを組み周っている。




「ほっっ!!!」「お!結構飛んだじゃん、去年より結構伸びてる」



「次は‥‥あっち空いてるし、あれやろうぜ」「長座体前屈、自信ねーなー。俺、体硬いから。」



「もっとイケる、イケる」「ムリムリ、これ以上曲げれね。測って測って。」





「腹筋、先にお前やれよ。俺が足抑えるよ。駿太の、毛の濃い足。」「分かった、しっかり抑えとけよ。」




「反復横跳びの線、ちゃんと踏めよ。カウント厳しいよ、俺。」「おう、ちゃんと数えてな」



順調に種目をこなしていく俺と駿太。


「次は‥‥握力測定は今混んでるみたいだし、外を先に周るか。」


俺と駿太は体育館から校庭へ出た。


まず、校庭の端っこで行われている50m走の測定場所に向かった。


「おぅーい。お前ら、来るならコイツらと一緒に走れ!」50m走のスタート地点で体育教師が俺と駿太を呼ぶ。


50m走は生徒同士の測定じゃなく、生徒何人かが一斉に走らされ、それを体育教師と体育係の生徒が測定する。


待っていた生徒達と俺たちは一列に並べられた。


今回の組みは、俺と駿太を含めて6人。



ヨーイ、、、、ドン!


タッタッタッタッ


ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ



測定の結構、俺は8秒2。駿太は、6秒6だった。


「駿太、はえーな。名前負けしない。」「んー、スタートで少し足が滑ったから、もっかいやりてーな。」


駿太は不服そうだった。


ちなみに、おれは6人中最下位だった。駿太は一位だ。



50m走の測定を終えた俺たちは、次に、校庭の中央部で行われているハンドボール投げところへ向かった。


すると


「お、京子」「あ」


京子がいた。京子と、その友達の伊藤。伊藤ひろ美。


「今から投げんの?」「うん。これから。」

「おっけ。負けねーぞ。」


俺が京子を煽る。


「立花、やっぱデカいな笑 めっちゃ投げそう笑」


駿太が悪態をつく。京子は特に反応も取らない。


「京子ー!頑張れー!」伊藤ひろ美が京子にエールを送る。


伊藤ひろ美には、あまり運動が得意な印象はない。


身長も150センチちょっとの、少し小柄な普通の女子だ。


京子といるといっそう小さく見える。



京子は、ただ、ヒョロリと背が高いわけではない。


なかなかに骨太だ。肩幅もがっしりとしている。かなり大きいサイズの体操服も、京子の身を包むのに必死らしく生地が張り詰めている。


手首も、身長が高いことを差し引いても太めで逞しく見える。


手のひら自体も背丈相応に大きく、大きなハンドボールも、今、少し小ぶりに見えるくらいガッチリと京子に掴まれている。


ボールを掴む前腕にも筋肉がはっきりと浮かび上がり、


下半身についても、半ズボンの下方でふくらはぎの筋肉が力強く隆起している。


京子の薄着を見るたびに、俺はいつも、


‥‥あれ? 京子、こんなに逞しかったっけ?


と、感じさせられる。


体育の授業や、夏とかに一緒にプールへ遊びに行ったりするとよく思う。


今日も、改めて京子をみると、かなり筋骨隆々だ。


普段は制服で、スカートから覗く足こそガッシリとしてるなとは思っていたが、上下半袖半ズボンの体操服姿だと、全身の迫力が凄い。



足が極端に長いから、視覚的には足の太さが軽減されているが、それでもそれなりの太さがある。


半ズボンの体操服で太ももの状態はよく分からないが、お尻は物凄く大きい。


かなり大きいサイズの体操服を着用しているはずだが、それでもお尻の形に半ズボンが押し上げられてる。



俺は、自身の下腹部が熱くなるのを少しだけ感じてしまった。



「じゃ、あたしから投げる?」


ボールを持つ京子が俺に尋ねてきた。


ふとみると、いつのまにかに駿太が既に投球地点に立っており、


「啓太〜!!!いくぞ〜〜〜!!!!」


俺に計測を促してきた。


「あ、駿太が今から投げるっぽいから、ちょっと待って。」


と俺が京子に伝えると、


ひろ美も

「私適当に投げちゃうね」


と、京子に話し、投球地点へとボールを抱えながら走っていった。


ひろ美がハンドボールを持つと、ボールが大きく見える。


俺と京子が計測エリアに入っていく。



「うらぁっっ!」駿太が大遠投をする。


「47m!!!!」俺が大声で記録を駿太に伝える。


凄い、47mはかなり好記録だ。



シュッ 伊藤ひろ美も静かに投げる。


だが、あまりやる気は無さそうで、ほとんど助走もつけず棒立ち状態からの軽い投げ方だった。


「13メートル!!」


京子が記録を大声で伝える。


伊藤ひろ美の記録は、まさに、か弱い女子と言った記録だろう。


山本駿太は野球部のレギュラーで、小学校低学年の頃から野球一筋だ。


背こそ低いが、筋肉団子みたいな体をしてる。


166cmで、70kgくらいだったかな?服を脱ぐとまさしく球児ボディ。日焼けとゴリゴリの筋肉が頼もしい。丸刈りの頭もよく似合う。


運動は、なんでもこなす。50m走の記録や、この好投もさすがと言える。


伊藤ひろ美は、京子と同じ吹奏楽部に所属している。


運動は純粋に、嫌いだし苦手なのだろう。


駿太の投げたボールを拾い、次は俺が投げる為に投球地点に向かう。


「すげーじゃん。47は。校内一じゃね?」


好投を見せてくれた駿太に賛辞を送る。


「どうだろな。ササコウもいるし。」


佐々木孝太 愛称ササコウ 違うクラスの、体育も合同ではないクラスの生徒だ。


俺たちの学年は4クラスあって、3年1組と3年3組で合同体育。3年2組と3年4組で合同体育なのだ。


俺と駿太は3年3組で、京子と伊藤ひろ美は3年1組だ。


ササコウは3年4組になる。


ササコウはうちの中学の野球部のエースピッチャーで、身長187か、8くらい。スポーツ万能で、学年一の人気者だ。確かに、ササコウなら47メートルを超えてくるかもしれない。


「あと、お前もいるしな笑笑」


駿太がケラケラ笑いながら俺に激励を送る。


「おう、50m超えるから、しっかり下がっとけよ笑笑」


もちろん、超えるわけがない。


はっきりいって、先程の50m走でも8秒オーバーで最下位だったように、俺はあまり運動が得意ではない。


俺の身長は168cmで体重58キロ。一応、中肉中背だろうか?身長はまだまだ絶賛成長期なので、目指せ170cmだ。



体格的にも運動センス的にもパッとしない俺だが、俺にも意地を張りたくなるところはある。


俺は、小学校1年生の頃から剣道をやってきているのだ。


小学校時代は週4回で地元の剣道クラブに通い、中学ももちろん剣道部。


さすがに小一からしてるだけあって、剣道の実力はそこそこだ。剣道の大会でも、いつもそれなりのところまで勝ち進めるし、多分、高校もなんとか推薦で行けるだろう。


野球と剣道、種目は違えどスポーツというくくりでは同じだ。


小さい頃から鍛えてきた自分の体に少しは期待したいし、プライドもある。


剣道で竹刀を幾度となく振ってきた俺の肩周りの筋肉は、決して貧弱なものではない、はず。


実際、剣道部のやつらはみんな遠投はそこそこ良い記録をいつも出してるし、俺も、体力測定の中ではハンドボール投げが得意種目の認識を自分に対して持っている。


駿太が計測エリアの奥の方に着き、こちらに手を振ってる。


“投げていいぞ”の合図だ。


俺は十分に助走を取り、かなりダイナミックに振りかぶってハンドボールを投じた。


誰が見ても、全力投球。


振りかぶり方とか、ボールを手から離すタイミングとか、球技未経験の俺は何も分からないから、ただガムシャラな力の限りの一投だ。


ボールはぼちぼち伸びて‥‥‥ポトン。


「34m!!!!!!」駿太が叫ぶ。さすが駿太、野球部、凄い大声だ。よく聞こえる。


悪くはないけど、取り立てて良い記録でもない。可よりの、可もなく不可もなくな記録だ。


そして、それを見て京子がいよいよ投球に入る


「34は無理!啓太、肩強いもんね」


学校一の長身と肩幅を誇る京子が言う。


多分、見た感じだと肩幅も一番広く見える。


野球部エースのササコウこそ、実はヒョロリとして肩幅はあまりないのだ。


一方で京子は顔も小さく、多分12頭身はある。そのせいでなおさら肩幅が広く見える。顎と頭の幅に対して肩幅が広すぎる。


京子のことは小さな頃から毎日見ているのでもう慣れたつもりだが、それでも時折強烈な違和感を覚えさせる体格だ。


足も腕もやはり、かなり筋肉質に見えるが、これでも34メートルは投げれないのか?


女子と男子は骨格や筋肉の質が違うのだろうか?


見た目だけなら、それこそ、50m超えそうな迫力だが‥‥


「〜〜!」遠くで伊藤ひろ美が手を振りながら何か叫んでる。吹奏楽部で肺活量はある方だろうが、少し声が小さくて何を言ったかは聞き取れない。


ただ、投げても大丈夫の合図だろう。


京子がおもむろに長く逞しい腕を振りかぶり、


タタッ


軽くステップを踏んで、


シュッ


投げた。




ボールは高く高く舞い上がり、あまり前方向には伸びていないように見える。




ポトン


「にじゅうはち!!」 多分、伊藤ひろ美は28メートルと言ったと思う。


ボールを拾いひろ美が戻ってきて、


「28メートルだったよ!さすが!」


ひろ美が興奮気味に京子に伝える。


「うん。ありがと。」


京子がはにかんで答える。


そして、京子は俺の方を向いて、


「やっぱ、ボール投げは啓太には敵わない」


俺へ敗者の弁を述べた。


「まぁな」


学校の体育程度しか運動経験のない京子に、ハンドボール投げで負けるわけにはいかない。



「田辺くん、男子だし運動部じゃん。京子は女子だし、普段あんまり運動もしてないんだから。」


伊藤ひろ美が今更なことを言う。


だが、至極真っ当な意見なので、少し俺はバツが悪い。俺は気恥ずかしさから愛想笑いのようなものを浮かべた。


見ると、京子もなんとなく気恥ずかしそうな表情をしている。


京子的にも、そこを突かれると女子なりにどこかむず痒い思いがあるのだろうか?


「二回りも大きい相手に立ち向かってるんだから、むしろ勇猛果敢だろ笑」


駿太が軽口を叩く。


この駿太の言葉には嫌味や悪意はなく、中学生特有のむき出しの本心のようなものだ。


大人同士だと、デリカシーがあるとかないとかというのだろうか?


「言い方。山本、デリカシーなさすぎ。」伊藤ひろ美が刺々しくに言う。


中学生同士でもやっぱりデリカシーあるとかないとか言うみたいだ。


女子は、マセてるってやつか?


「はははっ‥‥」 京子は苦笑いしていた。


「でも、京子、女子同士だとたいてい相手にならねーじゃん。授業に張り合い持てて良いだろ。」


俺が伊藤ひろ美の言葉に、ささやかに意見してみる。


事実、おそらく京子の女子で28メートルという記録は、学年で1〜2位を争う好記録だろう。


むしろ、京子の投球はかなり上方向へのベクトルが強かったから、もう少し角度を下げて前の方へ投げれば30メートルにも届いたんじゃないかと思う。


“まぁ、いいけど”と言ったよう言わなかったような、ひろ美の微かな独り言が聞こえた気がした。


「立花達は、もう計測全部終わったの?」駿太が尋ねる。


「握力はまだ測ってない。混んでたから」京子が答える。


「俺たちも握力まだだよ、そっち行こうぜ」俺が言う。


4人で体育館に戻り、握力測定の場所へ向かった。




握力測定のところにはもう人がほとんどおらず、順番も待たずにすぐに測定に入れた。


「じゃ、俺から測ろうか」俺がテーブルに置かれている握力計を手に取る。


よく見る、赤色のデジタル式のものだ。


剣道部ということもあり、握力もまぁまぁ自信はある。


ここらで、駿太にも一矢報いれたらと思う。


握力計をグッと握る。俺の前腕に筋肉の筋が入り、腕もプルプルと少しだけ震えた。



そして、十分に力を込めた後、力を抜いて握力計の電子表示を見た。


47kg


中学3年生にしては、きっとまずまずなのだろうが、駿太には勝てないだろうな。



俺は握力計をリセットし、「ゴリラ」と言いながらそのまま握力計を駿太に手渡した。




そして


「クゥッ」


と、駿太が息を張り詰め、俺の時と同様に腕に筋がたつ。


そして、握り終え継続画面を見て駿太は、


「52」


やっぱり、敵わなかった。それでも駿太は


「んー‥‥」


なんだか不服そうだ。


すると、駿太は握力計をリセットし、再び握り直し始めた。


「んっ‥!」


先程と同様に、駿太の腕に筋が入る。


そして、


「ダメだ、やっぱり52。52.4」


ほとんど変わらない結果だったらしい。


十分だと思うが、確かに、駿太の他の記録と比べるとやや物足りないかも知れない。


「俺、手が小さいから握力あんまなんだよなー」


なるほど、確かに駿太は背丈こそ小柄だから手も小さい。握力測定は体力測定における、豆タンク駿太の苦手種目だったんだな。




「ふぎぃー」 隣では、伊藤ひろ美が空いてい別の握力計で既に測定を始めていた。


イキみ声の一方で、握力計を握るか細い白い腕は普段となんら変わりなく見える。


本当に力を入れているのか?


「じゅう‥‥ろくてんなな!」


可愛い記録だな。


「ハハ、可愛いな。」駿太が伊藤に言う。


「京子、はい。」


最後に、伊藤から握力計を受け取った京子が、そのまま握ろうとする。


「調整しろよ。伊藤と立花はそのままじゃねーだろ。」駿太が止める。


確かに、150センチちょっとの伊藤と、2メートルに迫る京子の手のサイズ差は凄まじい。そのまま握るのは無理があるだろう。


「握りやすい幅って、あんま分かんないけど」そう言いながら、京子は適当にグリップ幅を広げていく。


そして、なんとなく握りやすさに納得した様子を見せると、京子も腕をブラリと下げて


「‥‥」


多分、京子は今力を込めて握ってる?少し前傾になって膝が曲がってるような‥‥。


表情も心なし、力んでるような、そうじゃないような。


腕も少しだけ筋がピクリと一瞬だけ見えたような。


女子の測定は、みな、お淑やかなこと。


そして、京子は測定を終えたらしく握力計を覗き込み


「36」


「つよ〜〜」


「「本気出せよ」」


俺と駿太の言葉が被った。


伊藤は感嘆していた。


「本気だって。めっちゃ強いでしょ。」


京子が反論してくる。


「いや、60くらい出るだろ?ほんとは。手大きいから有利だろ、」


自分にない武器を持つ京子に、駿太が突っ込む。


「でないって。」


そう言いながら、京子は握力計をもとあったようにテーブルへ戻した。



とにかくこれで、俺たちの計測は全て終わった。


ふと横を見ると、ガリガリのチビが握力計を手に取っていた。


山下大介だ。


山下‥‥‥大介‥‥。


俺の、この世で一番嫌いなやつだ。


山下大介に俺が気づいたように、京子も山下大介に気づいたようだ。


そして、山下大介もこちらに気づいた。


にこりと、優しい微笑みを浮かべている。


ムカつくやつだ。


俺は意地悪で、悪意を持って尋ねた。


「山下、どれくらい?」


「俺、弱いよ」


「握ってみて」俺は山下に促した。俺からの命令だ。


山下は何も言わず、言われた通り握力計を握り始めた。


山下の横では、根暗で大人しい勝本悠人が黙って山下の測定を見ている。山下のペアなのだろう。


グググっと山下が力を込めている。


京子が、少し不安そうに俺と山下を見ている。


そして、山下が力を込め終わったのを見て俺は山下の握力計を奪い取った。


「28!お前、京子より弱いじゃん」俺はイヤらしく言う。


「だから、俺弱いって」山下は困ったように言う。


山下のペアらしい勝本悠人は何が起きてるか分かっていないように、ボケっとしてる。こいつまで、どことなくイケすかなく思えてくる。


この状況の意味を、伊藤ひろ美などは女子らしく正しく理解しているため、先ほどからずっと笑いを堪えるので必死な様子だ。


さぞ、面白いだろう。我ながら情け無いほど、女子が好きそうな場面を作ってしまっていると思う。


駿太も、嘲笑の表情を薄ら浮かべてる。


なぁ、誰に向けての嘲笑なんだよ、駿太。


「啓太‥‥」京子が嗜めるように俺の名前を呼ぶ。


俺は意に介さず続ける。


「お前の他の記録も見せてよ。」山下大介の、テーブルに置かれている体力測定の記録用紙を指差しながら言った。


きっと今の俺は、意地の悪い笑みを浮かべてるだろうよ。


「俺、たいしたことないから‥‥」山下大介が悪意丸出しの俺の様子にたじろいでいる。


「いいから、見せろって」俺は先ほどの握力計同様、山下大介の体力測定の記録用紙を無理矢理奪い取ろうとした。


「啓太、やめて。」 京子がさっきより強い口調で俺を諌めた。


京子の声色がかなり冷たく、俺はビクリとしてしまった。


伊藤ひろ美も、あららー、と楽しそうな表情だ。


山下大介も不安そうに京子を見る。




「測定も終わったし、戻ろうぜ。残りの時間は自由時間らしいし、俺たちもあっちのバスケ混ざろうぜ。」


2拍ほどの静寂を切り裂いて駿太がそう言いながら、向こうで全ての測定を終えてバスケに興じている集団を指差した。


俺たちの様子を、見かねたのだろう。


「‥‥ぁあ」


こんなことをしていても虚しいだけだ。


バスケでもして、汗を流そう。


山下大介は、まだ不安げにオドオドしている。


京子から、はぁ、とため息が聞こえた気がした。


伊藤ひろ美はニヤニヤしている。




京子達と離れ、駿太と2人でバスケグループに向かう途中、駿太が笑いながら言ってきた。


「お前のこういうとこ、笑えるくらいダセーよな。あからさま過ぎてこっちが恥ずかしいぜ笑」 


まったく、駿太の言う通りだよ。


「‥‥‥。」


図星だが、否定も肯定も絶対にしたくなかった。




心の渦を払うように、俺は下手なりにバスケに没頭した。



山下大介 14歳 9月生まれ 現在中学3年生

身長160cm 体重44キロ 美術部


3年1組で京子と同じクラスでありーーー京子の彼氏だ。



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