立花 京子1
ガラララ
「おはようございまーす!」
俺は玄関を開け、玄関から伸びる廊下に向かって声を上げた。
ドタドタと、家の奥から慌しい音がする。
そして、廊下の奥から大きな人影があらわれた。
「おはよー」
照れ笑いと共に俺に向かって挨拶しつつ、大きな体を揺らしながら、その人物は玄関の方へと近づいてくる。
「おせーよ」
歩み寄るその人物に向かって、俺はその人物の遅れを咎めた。
「ごめん!服着る時少し破れちゃって、直してた」
遅れた言い訳をしながら彼女は、玄関に置いてあった大きな靴を履き、いそいそと外へ出てきた。
「お待たせ笑」
「うん」
そして、玄関前で待つ俺と揃い、共に学校へ向かう。
立花 京子 14歳 10月生まれ 現在中学3年生 それが彼女だ。
田辺 啓太 15歳 5月生まれ 現在中学3年生 俺だ。
今は6月だから俺は15歳で京子は14歳だが、同学年のタメだ。
俺たちは家が近所で、小さい頃からよく一緒に遊んでいた。いわゆる、幼馴染というやつになる。
そして、うちの学区では集団登校というものを実施している。
これは、朝の登校は近所の学生同士一緒になって来いというものだ。
おもに小学生を対象とした防犯のための習慣だ。
この集団登校は小学校の入学時から中学校を卒業するまで義務付けられている。
なので京子と俺はもう、10年近く、毎朝こうして一緒に学校へ通っていることになる。
「遅れそうかな?少し急ぐ?」
「いや、そこまでじゃねーだろ。普通に行けば間に合うだろ。」
少子化のせいか、この学区には現在、俺と京子しかいない。
なので、いつも2人で登校している。
4年前までは近所の歩美お姉ちゃんもいたが、歩美お姉ちゃんが中学を卒業してからは俺と京子の2人登校だ。
中学生2人ならわざわざ集団登校しなくても良さそうなものだが、一応、それが規則になので、従っている。
登校中は、近所の人に会うこともある
近所に住んでる主婦のおばちゃんとか、畑仕事してるおじさんとか。
こちらを見かけると挨拶をしてくれるので、俺たちも返す。
「おはよう」
「「おはようございます!!」」
逆に、目があったらこちらから挨拶することもある
「おはようございます!」
「おはようございます!」
「お!おはよう!!」
平和な毎朝の集団登校だ。
集団登校の待ち合わせ場所と時間は決めてあるのだが、今日は珍しく時間になっても京子が現れなかったので、俺が直接家まで呼びに行った。
お互い、基本的には待ち合わせには遅刻しない。
体調を崩して休む日なんかは早めの時間に電話などで連絡が来るか、親が待ち合わせ場所に伝えに来る。
「服、縫ったの?」
「うん、背中の方。急いで縫ったから、言われて見れば分かると思う。」
見てみると、確かに背中の真ん中辺りに縫ったような横線がある。
なんとなく、背中が破れるなら縦線が入りそうだが、実際は横線が入るのだな。
「また、大きくなったってこと?」
「絶対そう。最近、服キツくなってきてたから。」
そう言いながら、京子は自分の肩周りをを優しく撫でた。
「また、服注文しなくちゃ‥‥」
「サイズ、次は何になるの?」
「5XL‥‥」
「すげぇ‥‥京子の両親も、大きいもんな。」
「うん‥‥」
京子の身長は、中3になった進級直後の、4月の計測では194cmだった。
京子の父は2mを超え、母親も185センチ以上ある。
京子は身長において、完全にサラブレッドだった。
「高校行ったら、なんかスポーツしろよ」
「運動嫌いだって」
京子は、吹奏楽部なのだ。
「もったいねーじゃん」
「音楽が、好きだし」
「なら、しゃーないか。」
「うん」
そうこう話しているうちに、今日も学校に着いた。
学校では、俺と京子は違うクラスだから下駄箱のところでお別れだ。
校門をくぐり、下駄箱のある玄関口まで来ると他の生徒もたくさんいる。
「啓太、うっす!」「おう。」
「きょうこ〜〜!」「わっ、美奈、おはよっ。」
俺も京子も、下駄箱でそれぞれの同性の学友達と混じり合い、それぞれの教室に向かう。
これが毎日の朝の流れだ。