表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界揚げ物屋さん〜婚約破棄?追放?大歓迎ですの!私、そんなことより!揚げ物を食べたいんですわぁ!〜  作者: 坂東太郎
第二部『第四章』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/48

第五話


 ベリンツォの街の冒険者ギルドを出て、その日の午後。

 アレナたちは、ダンジョン『魔の森』の中を進んでいた。

 おなじみのダンジョンだが、アレナたちの姿はいつもと違う。


「奥地まで行くって言うから、わたし、重い荷物を背負う覚悟をしてました」


「ふふん! 知りませんでしたの、ダリア? 貴族は重い荷物なんて持たないんですわぁ!」


「えっ。でもお嬢様、青毛熊(ブルーベア)を担いで投げ上げてたような……」


「そんな昔のこと、忘れましたわ!」


 侍女見習いであるダリアの当然の疑問を、アレナはふんすっと胸を張って受け流す。適当すぎる。


 これまでアレナがダンジョン『魔の森』を探索する際は日帰りか、1〜2泊程度の短期間だった。

 それも、森の浅い部分で、馬車が通れるところを選んでの道行きだ。

 けれど、今回は違う。


 目的は『カラード』であるグリーンドラゴン狩り。

 目的地は、確認されている中でダンジョンの一番奥地。

 当たり前だが、馬車が通れる道はない。


 野営の道具や消耗品、保存食。

 ダリアは、多くの荷物を背負って運ぶことを覚悟していた。

 さすが、元は貧乏貴族で冒険者経験があるだけある。


 だが、生粋の金持ち貴族で道楽冒険者のアレナは違った。


「そもそも(わたくし)魔法の袋(マジックバッグ)を持ってますのよ? なぜ重い荷物を背負わなくてはいけなくて?」


 アレナは見た目より物が入り、重さを感じさせない魔法の袋(マジックバッグ)を持っていたのだ。

 ちなみに国宝レベルに貴重で、普通の冒険者どころかSクラスの冒険者さえ持っていないし、高位の貴族でも持っていない家が多い。

 多少は慣れてきたとはいえ、庶民に近いダリアとアレナの常識の違いは大きい。


「それにしても……その、魔法の袋(マジックバッグ)と荷物の運び方が……」


 そう言って、アレナの斜め後ろを歩いていたダリアが、さらに前方に目を向ける。


 一行の先頭を歩くのは、子狼のカロリーナだ。

 まだ幼いとはいえ、そこは狼型モンスター。

 自慢の鼻と耳を役に立てるべく、鼻をクンクン、耳をピコピコさせて索敵しながら一番前を歩いている。


 ダリアが気になったのはカロリーナではない。

 カロリーナは荷物を背負わず、いつものごとく全裸だ。淑女らしくない。狼なので。オスだし。


 カロリーナのうしろ、アレナの前。

 ダリアにとって先輩の、侍女のベルタが問題だった。


「ベルタ先輩……? それ、ティートローリーですよね? お茶会に使う……」


「その通りです」


「自信満々……あの、ここ森の中、というかダンジョンの中なんですけど……」


「問題ありません」


「ええ…………?」


 侍女のベルタが押しているのは、お茶会用のティートローリーだった。

 下部に車輪がついて、押して運べるようになっているアレだ。

 さすが侯爵家のメイド、運び方も板についている。

 メイドとの組み合わせはおかしなものではない。


 ここが野外で、しかもダンジョンであることを無視すれば。


「心配はいりませんわ! トローリーの足まわりは、馬車と同じくマリーノ家の技術の粋を集めた特製ですのよ!」


「心配していたわけじゃなくてですね…………あっ。お嬢様、馬車のすごさに気づいたんだ」


 ほーっほっほっほと高笑いするアレナに、ダリアの呟きは聞こえない。

 お嬢様は細かなことを気にしないのだ。


 ちなみに、マリーノ家特製トローリーは四輪で、車輪にはモンスターの皮に特殊な加工を施した「タイヤもどき」が巻かれている。

 本体に対して大きな車輪にすることで走破性も高い。

 さらに衝撃を吸収すべく工夫もこらされているらしい。

 引き出し部にはベルタの私物がしまわれて、一番大きな棚には魔法の袋(マジックバッグ)が入っている。

 最奥までの探索に必要な野営道具や消耗品、食料はその魔法の袋(マジックバッグ)の中だ。


 つまり、長期間のダンジョン探索にもかかわらず、アレナは手ぶらであった。

 武器も己の肉体なので。


 ということで、ダンジョン『魔の森』を歩くのは、子狼が一体、乗馬服っぽいお嬢様が一人、メイド姿の侍女に、それより簡素なメイド服の侍女見習い、三人と一体だ。

 荷物らしい荷物はなく、侍女はティートローリーを押している。


 いくらダンジョンの浅い場所とはいえ、ほかの冒険者が見かけたら目を剥くだろう。

 あるいは、「やっぱりマリーノはやべえ」とそっと距離を置かれるか。


 どう見てもこれから「グリーンドラゴン討伐」に向かうとは思えない一行であった。


「うぉんっ!」


「どうしました、カロリーナ。なるほど。お嬢様」


「殺ってかまいませんわよ?」


「かしこまりました」


「えっ? わた、わたしいま失礼なことを、あれ?」


 アレナのGOを受けて、ティートローリーを押していたベルタの右手が(かす)む。

 唐突な主従の会話にビビるダリアだったが、ダリアに何かあったわけではない。


 カロリーナが見上げる先。

 上空を飛んでいた鳩らしき鳥が、とつぜん()()()()()落下した。

 ガサガサと木の葉を揺らして落ちた鳩を確保すべくカロリーナが駆け出す。


「…………えっ、えっ? いまベルタ先輩が右手でぴゃって何か投げて、それで空にいた鳩が、えっ?」


「あら。アレが見えるとは、なかなかやりますわね、ダリア!」


「ありがとうございます? あの、ベルタ先輩?」


「棒手裏剣、という投擲具です。侍女の(たしな)みですね」


「そうなんですか!?」


 いかにマリーノ家といえどそんなことはない。

 マリーノ家の侍女の嗜みというより、初代の適当な言葉によって作られた「ニンジャ部隊」の嗜みだろう。


 カロリーナを追いかけて歩くことしばし。

 一行は、仕留めた鳩のもとにたどり着いた。


 先行したカロリーナは、きちんと「待て」している。

 やって来たアレナ(主人)を、カロ、待てできたよ! えらい? とばかりに見上げる。口から垂れたヨダレはご愛嬌だ。


「ふふっ、カロリーナは賢いですわねえ。それと、まだ食べてはいけませんわ」


「くぅーん。わふ?」


「いいえ、夜にも食べませんわよ」


「わ、わおんっ!?」


 驚くカロリーナを前に、アレナは堂々と胸を張った。



「『カラード』を狩って! 街に帰って! 『カラ(ードドラゴン)揚げ』『鳥揚げ』祭りを開催するのですわぁー!」


 ダンジョン『魔の森』に、アレナの食欲にまみれた宣言が響く。


 カロリーナは、ヨダレを垂らしながらもぶんぶん尻尾を振って賛意を示した。長期間の「待て」ができる賢い子である。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>カロリーナは荷物を背負わず、いつものごとく全裸だ。淑女らしくない。狼なので。オスだし。 坂東太郎さんぽい言い回し。
[良い点] カロ君は待てができておりこうですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ