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異世界揚げ物屋さん〜婚約破棄?追放?大歓迎ですの!私、そんなことより!揚げ物を食べたいんですわぁ!〜  作者: 坂東太郎
第二部『第四章』

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第四話


「ごきげんよう!」


「おひさしぶりです、アレナさん」


 アレナがドラゴン討伐を宣言した翌朝。

 アレナはまっすぐダンジョン『魔の森』に向かう——のではなく、冒険者ギルドに立ち寄った。

 もはやアレナ担当となった受付嬢が声をかける。


「受け取りですか? 種吹樹シードショットオリーブの油はあまり溜まってません。オークも、最近は近場では見かけなくなって……」


 とんかつを再現して以降、肉や油、卵といったモンスター素材はアレナがすべて狩ってきているわけではない。

 冒険者ギルドに依頼を出して、冒険者たちに集めさせているのだ。

 使われるのではなく使う側の思考である。なにしろ貴族なので。


「いいえ、違いますわ! 揚げ物屋さんはしばらく休業しますの!」


「そうですか、ではどんな用件で……あっ、なんだろ、嫌な予感する」


「ダンジョン『魔の森』の、確認した限りの最奥に生息する、『グリーンドラゴン討伐』の依頼を受けるのですわぁー!」


「ああ、そういえば領主様が出した依頼がありましたね。えーっと」


 そこまで言って、受付嬢の手がピタリと止まる。

 冒険者やギルド職員の間の通称、塩漬け依頼。

 難易度が高い、報酬が見合わない、などで長期間解決できなかった依頼をそう呼んでいる。

 なんとか解消しようとあの手この手を駆使するのがギルド職員の腕の見せ所なのだが、アレナが受けようとしている依頼に関しては事情が違う。


 ダンジョン『魔の森』でカラードの一種であるグリーンドラゴンが発見された。

 その報告を受けたこの地の領主は、冒険者ギルドに討伐依頼を出した。

 だが、莫大な成功報酬が提示されたその依頼を受ける冒険者はいなかった。

 単なる「ドラゴン」でさえAランク、Sランク冒険者が束になって戦うものなのに、「カラード」である。

 領主も「街に被害が出ない場所なら無理に倒す必要もない。だが、場所を知った以上は、討伐する者がいないのはわかっていても、いちおう」と出した依頼だ。

 塩漬けになっても問題のない、「ダメで元々」「ポーズとして見せておく」というケースだった。


「え、ええーっ!? グリーンドラゴン討伐!? カラードですよ!? ほ、ほんとに受けるんですかぁ!?」


「ほーっほっほっほ! そうそう、それそれ! いい反応ですわぁ!」


 いつもにこやかな受付嬢がわたわたと慌てる様子に、アレナはご満悦だ。

 ベルタは無言で控え、ダリアはその気持ちわかりますぅーとばかりにうんうん頷いている。

 カロリーナはギルド併設の酒場兼食堂でオヤツをもらって、くわえたまま戻ってきた。


 カロリーナを見送った冒険者たちがざわつく。

 なんだあのお尻と尻尾、かわいすぎる、ではなく。

 受付嬢の驚きの声を聞いて。


 「グリーンドラゴン討伐だって? 正気か?」「カラードに挑戦するとかマリーノはやっぱやべえ」「けどマリーノだぞ? ほかより可能性あるんじゃね?」「おっしゃ! 俺討伐隊に参加するわ!」「マジかよ。……俺は荷物持ちで分け前にありつくかなあ」「くふふっ、我の魔法が火を吹く時が来たようだ」


 グリーンドラゴン討伐。

 ベリンツォの街の最難関依頼への挑戦者が登場したのだ。

 それも、国境に近いこの街では『悪いことしたら()()()()が来るよ!』とまで言われた恐怖と理不尽の象徴、『ロンバルド王国の破壊神』、マリーノ家による挑戦である。

 ざわつくのも当然だろう。


「そ、それで、アレナさん。討伐隊は何人規模を想定していますか? 募集する役割は決まっていますか?」


「あら、そんなの必要ありませんわよ。ここに来たのは依頼を受けるためですわ!」


「えっ? ま、まさか、単独パーティでの『グリーンドラゴン討伐』を目指して……?」


「違いますわぁ!」


「そ、そうですよね、そっか、アレナさんは『マリーノ』ですもんね、冒険者を集めるんじゃなくてマリーノ家から人員を出して討伐を」


「グリーンドラゴンと戦うのは(わたくし)一人! アレナ・マリーノだけですわぁ!」


「うぉーんっ!」


 アレナが拳を突き上げる。

 カウンターに乗ったカロリーナが、すごいすごい! とばかりに吠え上げる。

 今度はベルタがうんうん頷いて、ダリアは頭を抱えている。


 そして、酒場兼食堂には静寂が訪れた。

 ドラゴンのソロ討伐でさえ難題なのに、さらに上位種の「カラード」ドラゴンのソロ討伐。

 この場にいた、生まれも育ちもベリンツォな多くの冒険者——稼げる狩場に向かわない向上心のない冒険者たち——にとって、想像の埒外であったらしい。


 しばし静まりかえったのち。


 驚きば爆発する。


「おおおおおおお!?」「マジか! マジかよ!」「ヤベえなマリーノ!?」「俺、ロンバルドと戦争になったら逃げるんだ」「俺なんて自分だけじゃなくて子供にも教えてやるよ。マリーノにはぜったい歯向かうなって」「ソ、ソロ討伐はさすがに無理じゃないか?」「どうだろうなあ……」


 酒場兼食堂は、朝から喧騒に包まれた。

 何を思ったかさっそく酒を頼む者、賭けを仕切りだす者まで現れた。


「ほ、ほんとですか? ほんとにグリーンドラゴン討伐を、それも、ソロで?」


「もちろんですわ! 私に二言はありませんのよ!」


「いくらアレナさんでも、マリーノでも、やめておきましょう? せめて人数を揃えて」


「あら? ランク制限なしの依頼ですわよね?」


「そ、それは、大軍で挑むケースも想定してですね……ほ、ほら、たまに街を通り過ぎるAランク冒険者もSランク冒険者もこの依頼に手を出さないんですよ? 負けちゃうからって」


「くふふっ、では討伐したらランクアップ間違いなしですわねえ!」


「それはそうかもしれませんけど、でも……」


 受付嬢は無駄にゴネているわけではない。

 いかにマリーノ家の令嬢といえど、最速でDランク冒険者になったアレナ・マリーノといえど、カラードドラゴンを相手にしたら死ぬかもしれない。

 職員も冒険者たちも盛り上がるギルドの中で唯一、アレナのことを心配しているのだ。

 だが。


「受けさせてやれ」


「ギルド長、でも!」


「冒険者は自己責任だ。だよな、アレナさん?」


「その通りですわ! 冒険の果てに私に何かあったとしても、それは本望ですのよ!」


「だよな? マリーノ家のみなさまもそう思ってくれるんだよな?」


「もちろんですわ! それが初代さまの教えですもの!」


「それがわかってるなら問題ないだろ。制限なしの依頼にしたのは俺たちだ。受けるって言ってるなら止められねえ」


「はい……」


 冒険者ギルド長に諭されて、渋々と受付嬢が事務処理する。

 これで、アレナたちは「ダンジョン『魔の森』に生息するグリーンドラゴンの討伐」依頼を受けることができた。

 アレナはギルド長に「話がわかりますわねえ」と言い置いて、ベルタは無言で、ダリアはぺこりと頭を下げて、カロリーナはふんふん鼻息荒く先頭を歩いて。



「さあ! 私の英雄譚、その一幕のはじまりですわぁー!」



 アレナは、意気揚々と冒険者ギルドを出て行った。


 ダンジョン『魔の森』の奥地に生息するグリーンドラゴン討伐、その旅路のはじまりである。


 すべては「カラ(ードドラゴン)揚げ」を作るために。



 なお、冒険者ギルドに残されたギルド長はお腹を押さえて顔をしかめていた。

 アレナが来て以降、胃の調子は悪くなるばかりである。


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― 新着の感想 ―
[一言] あまりにも胃が痛すぎて、お腹ではなく胸をおさえてしまった。
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