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異世界揚げ物屋さん〜婚約破棄?追放?大歓迎ですの!私、そんなことより!揚げ物を食べたいんですわぁ!〜  作者: 坂東太郎
第二部『第四章』

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第三話


 このところ、ベリンツォの街で注目されている揚げ物屋さん。

 その奥、同じ敷地内にある邸宅のリビングに、アレナたちが集まっていた。


「『からあげ、からあげが食べたい……高級なヤツじゃない、母さんが作ったからあげが……』これが、ときどき初代さまが書かれた『からあげ』への渇望の一節ですわ!」


「まるで初代さまが乗り移ったかのような臨場感でした。さすがです、お嬢様」


 失敗に終わった第一回からあげ試作会ののち、アレナの日課となった『異世界転生日記』の朗読会である。

 揚げ物屋さんの営業が終わった夜だけ、読み上げているのは「からあげ」について書かれた該当箇所だけ、にもかかわらず、朗読会はすでに三夜目を迎えていた。

 マリーノ家の初代はどれだけからあげが食べたかったのか。


 ちなみに、朗読会に最近入った奴隷の少女と店員の兄妹は参加していない。

 まだ幼い兄妹はすでに就寝して、奴隷は「入ったばかりのわたしが、マリーノ家の秘中の秘を知るわけにはいきません」と辞退して、お店や邸宅の掃除に励んでいる。


「『母さんが作った』ですか……つまり、家庭料理、もしくは一般庶民だった初代さまの家で手に入るお肉……」


「ダリア。初代さまの故郷は、このあたりとずいぶん違うようです。肉や野菜は、産地も季節も関係なく手に入ったと言われています」


「けど、お値段はやっぱり違いますよね?」


「あら? 牛の肉もオークの肉も、馬も羊も山羊もたいして値段に変わりないのではなくって?」


「ぜんぜん違いますよ、どこのお大尽さまですか!? あっ、お嬢様は建国の雄、マリーノ家のお姫さまでしたね…………」


 アレナのナチュラル金持ち発言に、ダリアががっくり肩を落とす。

 子狼のカロリーナがダリアのヒザに上がって慰め——いや、これは多種のお肉に興味を示している顔だ。カロ、うしとうまとひつじとやぎは食べたことない! と尻尾をパタパタさせている。


「手に入るって言っても、やっぱり稀少だったら高いと思うんです。そうすると、一般庶民が気軽に買えるお肉って、鳥じゃないですか?」


「けれど、それなら『からあげ』ではなく『とりあげ』になるのではないかしら?」


「えっと、通称、とか……? そ、それにほら! 『からあげ』は柔らかくってじゅーしーっていう文もあったじゃないですか! 牛や山羊、羊は硬いですし、鳥はあり得ると思います!」


「羊は柔らかいですわよ?」


「お嬢様、侯爵家で食べる羊は仔羊です。一般的に、羊は成長すると肉が硬くなる傾向にあります」


「うう……なんでしょう、お嬢様と話していると心にダメージが……これが格差…………」


 貧乏貴族で冒険者として糊口を凌ぎ、のちにお家取り潰しとなってマリーノ侯爵家を頼ったダリアとしては、お嬢様のブルジョワ発言は古傷をえぐられるらしい。

 それでも、生い立ちや育ちを呪うことはない。

 マリーノ侯爵家に受け入れてもらえたこと、御家再興のため貴族教育を受ける弟のことを思えば、いまの境遇は充分以上に幸運なのだから。


「決めましたわ! ひんとがないのですもの、次の『からあげ』は『とりの肉』を試しますわよぉー!」


「わふっ!」


「試行錯誤を恐れない前向きな決断、さすがです、お嬢様」


「ベルタ先輩はお嬢様を全肯定しすぎじゃないですかね……」


「ところで……トリニクって何の肉なのかしら?」


「それはもちろん、鳥の肉じゃ」


「なに鳥の? 『から鳥』はいませんわよ?」


「あっ。い、いろいろ試してみるとか……」


「山鳥、鳩、軍鶏、フクロウ、マギミミズク、刃燕(エッジスワロー)、ナイトホーク、暴走駝鳥、コカトリス、鳳凰、不死鳥(フェニックス)、鳥、あるいは鳥型モンスターは枚挙にいとまがありません」


「一部おかしいの混じってませんかベルタ先輩?」


「たいてい空を飛んでいますもの、狙って仕留めるのも手間ですわよねえ……」


「仕留められるんですね。お嬢様、『身体強化』と『魔力障壁』しか使えないのに」


 ダリアのツッコミは主従には届かない。

 考え込んだアレナとベルタをよそに、ダリアはカロリーナのヨダレを拭いた。そのまま顔をむにむにしている。


「から、空、殻、カラ……そうですわ!」


 ブツブツ言いながら考え込んでいたアレナが、バッとソファから立ち上がった。


「火のレッドドラゴン、水のブルードラゴン、風のグリーンドラゴン、土のブラウンドラゴン、光のホワイトドラゴン、闇のブラックドラゴン」


「どうされましたか、お嬢様?」


「ただのドラゴンと区別するために、属性が明確なドラゴンを『()()()()』と言いますわね?」


「えっ。その、おとぎ話や伝説では聞いたことありますけど……まさか、で、でもでもお嬢様、さっき『とりの肉』を試すって」


「『異世界転生日記』にこうありますわ! 『ドラゴンってトカゲなのか鳥なのか。飛べるってことは鳥なのかなあ』と!」


「えっえっ。あ、あれは魔法で飛んでるだけで、形だけ見たらトカゲっぽいような」


(わたくし)、決めましたわ!」


 リビングの中心で、アレナが拳を突き上げる。

 叫ぶ。



「『()()()()』を倒しに行きますわよぉー! 初代さまが渇望した、『カラ揚げ』のために!!」



 史上一番しょうもない理由での『ドラゴンスレイヤーになる』宣言である。


 それも通常のドラゴンではなく、属性持ちの『カラード』ドラゴン狩りである。

 カラードドラゴンを倒したとなれば、マリーノ侯爵家の初代さえなしえていない、歴史上で数例しかない英雄の所業だ。


 ちなみに過去の数例は数百数千の犠牲を出して、「気まぐれに人間の街を襲ったカラードと戦わざるを得なかった」「(伝えられるところによると)神の試練でカラード討伐を求められた」「カラードが守る秘宝を得るため」、カラードドラゴンは倒された。


 まさか「鳥っぽい」「『異世界転生日記』に書かれた『から』と『カラード』の語感が似てる」というヒントでさえないヒントだけで狙われるとは、ドラゴンさんも思ってもみなかったことだろう。


「で、でもお嬢様! 『カラードドラゴン』って、人が知ってる住処は数が少ないような、だから諦めるしかないかなあって」


「安心なさい、ダリア。ダンジョン『魔の森』の奥地にはグリーンドラゴンが生息しているそうです。ゆえに、山地にいるモンスターが山を下りることはなく、山を越えてくるモンスターもいないのだと」


「わ、わあ! それは安心ですねえ!!! そうかあ、近くにいるのかあ、じゃあお嬢様は止まらないんだろうなあ……」


「わふぅ」


 アレナに恩を感じている。アレナのためなら死ぬ覚悟はある。と言っても、誰が好き好んでカラードドラゴンに立ち向かうのか。

 ダリアのもっともな抵抗は、ベルタによりあっさり論破された。

 落ちた涙をカロリーナがそっと舐めとった。



「おあつらえむきですわねえ! では! グリーンドラゴンを倒しに行きますわよぉー! 『カラ(ード)揚げ』のために!」




次話は28日(金)の更新予定です!

週2〜3更新ペースを保ちたいところです(願望

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― 新着の感想 ―
からド(ラゴン)揚げw
[気になる点] とんかつ編で終わっておけば良かったのに。 さすがに無理筋でドン引きだ。
[一言] ダリアちゃん、ドラゴンがトカゲなのか鳥なのか初代が悩んでる時点で少なくともから揚げに使ってた肉ではないことに気付けばお嬢様止められたかもしれないのに……
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