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異世界揚げ物屋さん〜婚約破棄?追放?大歓迎ですの!私、そんなことより!揚げ物を食べたいんですわぁ!〜  作者: 坂東太郎
第二部『第四章』

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第二話


 ベリンツォ近くのダンジョン『魔の森』でのからあげ試作会は、「卵の『殻』揚げ」だけでは終わらなかった。


「これが、ダリアおすすめの『からあげ』ですわね?」


「はいっ!」


 明らかに食べ物とは思えなくても、「卵の殻」に挑戦することを決めたのはアレナだ。

 ベルタやダリアに抵抗の余地はない。

 まあ、アレナ信奉者であるベルタが反対することはなかっただろうが。

 あとカロリーナも。どれだけ賢くとも、カロリーナは子狼なので。人語は喋れない。人化もしない。


 失敗だった3種の「卵の殻」揚げに続けて、ダリアが持ってきたのは、ふたたび黄金色に揚げられた謎の揚げ物だった。


「えっと、クズ芋って、庶民の間では『無の味がする』って言われてるんです。それで」


「無の味、つまり『(から)の味』。ゆえに、揚げれば『からあげ』だと」


「そうです、ベルタ先輩!」


 アレナの前にふたつの揚げ物が置かれる。

 ひとつは、クズ芋に衣をつけてまるごと揚げたもの。

 もうひとつは、クズ芋を乱切りして揚げたもの。

 湯気を立てるそれは、さきほどの卵の唐揚げよりはるかに美味しそうな匂いを放っている。

 なにしろ食べ物なので。


「空揚げ。うーん、初代さまが言うカリカリじゅわっ、とは違う気がしますけれど……ともかく食べてみないとですわね! いただきます」


 また美味しいもの? と目を輝かせるカロリーナを置いて、カットされた『から(芋)あげ』を口にする。

 残った方から衣がぽろっとこぼれ落ちる。すかさずカロリーナがはしっとキャッチする。口で。


「どうでしょうか、お嬢様?」


 ダリアの問いに答えることなく、アレナは『まるごとから(芋)揚げ』にバクッとかじりつく。

 カロリーナが見上げるも、今度は衣は落ちてこない。尻尾がへにょっと垂れる。


「あの、お嬢様?」


 再度問いかけられると、アレナは閉じていた目をくわっと見開いて——


「こんなの『からあげ』ではありませんわぁー!」


 ——叫んだ。


 のち、ベルタに塩を振りかけさせてフォークを止めずにパクパク食べまくる。


「えっ?」


「ダリア。お嬢様はこう言っています。『「からあげ」ではありませんわね、けれどホクホクしてて美味しいですわ。可能性を感じますのよぉー!』と」


「えっえっ? ベルタ先輩、いまお嬢様そんな長文喋ってませんよね? ほんとにそう思ってるんですかね?」


 ジト目でベルタを見つめるも、ベルタはいそいそと愛しのお嬢様の世話をするのみだ。アレナも無視して——いや、侍女と侍女見習いの会話に口を挟むことはなく、『から(芋)揚げ』を食べ進める。

 試食用に少量が盛られただけの皿は、あっという間にカラになった。だからといって揚げはしない。


「ごちそうさまでした」


「くぅーん」


「あら、カロリーナも食べたいんですの? ふふ、美味しいものはみなで分かち合うのが冒険者の流儀ですわ! ダリア!」


「はい、いま追加を揚げてきますね」


「ベルタとダリアの分を用意してもよろしくてよ?」


「さすがお嬢様、その優しさは天使のようです」


「ベルタせんぱい……? えっと、とにかく作ってきますね!」


 先輩への不信感が拭えないながらも、ダリアはさっそく調理場に戻っていった。

 カロの分もあるの? とご機嫌に尻尾を振るカロリーナとともに。




「美味しかったですぅ……」


「まさかお嬢様が言った『ポロポロ剥がれやすいですしさすがにコッテリしすぎですし、いっそ「衣」なしにしてしまえばいいんですわぁー!』が正しいとは思いませんでした」


「ほーっほっほっほ! 揚げ物への探求心は誰にも負けませんわよぉー! 初代さまを除いて、ですけれども!」


「ベルタ先輩? いまさらっと悪口じゃなかったですか? 皮肉ってませんでした?」


 昼前からの『(卵の)殻揚げ』、『から(芋)揚げ』の試食会を終えた一行は、お茶を飲みながらまったりしていた。

 以前のとんかつ試食会の反省を活かして、今回はベルタとダリア用のイスも持ってきている。

 背もたれもなく座面は布を張っただけだが、それでも地面に座るより格段に上品だ。たぶん。

 なおカロリーナは気にすることなく地面に寝そべっている。陽だまりでコテンと横になって気持ちよさそうだ。


「衣なしで揚げた『いもあげ』は、揚げ物屋さんの新メニューに加えますわよ! 民に美味しいものを広めることも貴族の務めですわ!」


「そ、そういうものなのですかね」


「当然です、ダリア。食生活とはすなわち文化。お嬢様は、かわりばえのしない食事からの脱却、つまり文化の啓蒙と発展を促しているのです」


「は、はあ……。あれ? これさらに厨房が大変になるような」


「けれど、『からあげ』への道は遠いですわねぇ……。そうですわ! 『三人よればモンジュの知恵』と初代さまが書き残していましたもの、二人にも『異世界転生日記』を読ませてあげますわ!」


「ええっ!? いいんですか!? マリーノ家の秘密なんじゃ……」


「もちろん『からあげ』について記載がある部分だけですわよ? 私が持ち歩いている抄本にも——」


 アレナが視線を送ると、ベルタがさっと『異世界転生日記〜抄本〜』を差し出す。

 冒険者であり、ダンジョンに来ているのに、アレナは馬車に持ち込んでいたらしい。全巻セットはさすがに家だ。


 もはや暗記するほど抄本——どころか全18巻すべて——を読み込んだアレナは、目的のページをパラっと開く。


「ありましたわ! 『からあげ』について、ここに書いてありますの」


 指で示して、侍女と侍女見習いが見えるように本を向ける。

 だが。


 ダリアは首を傾げるだけだった。

 ベルタにいたっては、本に視線を向けることなくお嬢様にお茶のおかわりを注いでいる。

 カロリーナは我関せず昼寝している。ときどき足をかくのは夢の中で走っているのか。


 しばし無言の時間が流れて。


 意を決したダリアが、口を開いた。



「あの、お嬢様……これ、なんて書いてあるんですか? このカクカクしたのって文字なんですか?」



 お嬢様がまじまじと抄本を見つめる。

 ダリアの声に、カロリーナがひょいっと首を持ち上げた。

 ベルタはそっと視線を伏せる。



「私としたことが! これ、()()()語で書かれているのでしたわぁー!」



 アレナの叫びがダンジョン『魔の森』に響き渡る。


 ダリアが読めなくても当然であった。


 マリーノ家秘中の秘は、たとえ盗み見られたとしてもバレることはなかったかもしれない。

 ひらがな、カタカナ、漢字が入り混じる『異世界転生日記』は、ヒントなしの解読が困難だったろうから。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 日本語はそこに更に数字が混じって、常用漢字やらが混じるから、理解してる人がいない状態での解読はほぼ不可能… [気になる点] アメリカでは習得難度が並ぶもの無き最高位に位置してるそうです。 …
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