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異世界揚げ物屋さん〜婚約破棄?追放?大歓迎ですの!私、そんなことより!揚げ物を食べたいんですわぁ!〜  作者: 坂東太郎
第二部『第四章』

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第一話

特に大きく変わるわけではありませんが、

前段の『プロローグ』『エピローグ』をひと区切りの「第一部」とし、

今話から「第二部」とします。

よろしくお願いします!


 ルガーニャ王国、ベリンツォの街の近くにあるフィールドダンジョン『魔の森』。

 その一角では、ダンジョンらしからぬ光景が展開されていた。以前と同じように、今日もまた。


 開けた空間の片隅には馬車が停まっている。

 馬車の幌は外されて、ロープを利用したタープとなっている。

 その下には折りたたみ式のテーブルとイスが広げられて、イスには動きやすい格好をした令嬢が座る。

 足元にいるのは犬——ではなく、子狼のカロリーナ(オス)だ。

 うしろに控える侍女とあわせると、さながら貴族の庭園で行われるお茶会のようだ。


「さあ! 今度は『からあげ』を作りますわよぉー!」


 もっとも、令嬢——アレナ・マリーノには、その見た目以外に貴族然とした様子はない。

 カロリーナを両手で抱いて天高く掲げ、ノリノリであった。

 なにしろ、マリーノ侯爵家の初代が遺した『異世界転生日記』にあった「からあげ」を再現する機会を得たので。


「えっと……お嬢様、『からあげ』は何を『あげる』料理なんでしょうか」


 困り顔でおずおずとアレナに問うたのは、侍女見習いのダリアだ。

 『異世界転生日記』を書いたマリーノ侯爵家の初代は、料理をしたことがない「だんしこうこうせい」だったのだという。

 素材のヒントがあった「とんかつ」は再現できたが、今回の「からあげ」はヒントが少ない。

 少なくともダリアは聞かされていない。


「ダリア、お嬢様はこう言っています。『信じよ、さすれば道は開かれん』」


「ええっ!? ベルタ先輩、いまお嬢様は何も言ってませんでしたよね!?」


「これが主従の以心伝心というものです」


「そ、そっかぁ……そうですかぁ?」


 疑いの目を向けるベルタからふいっと顔をそらしたのは、アレナの斜め後ろにいる侍女・ベルタだ。

 誤解されがちなアレナの言葉を通訳するのは日常だが、時に暴走することもあるようだ。お嬢様への愛ゆえに。たぶん。


「うぉんっ!」


「ふふっ、そうですわね、カロリーナ。何事も、まずはやってみなければはじまりませんわ!」


 アレナの腕の中で、カロリーナが威勢よく鳴く。

 賢い子狼である。賢いが人化はしない。とうぜん女体化もしない。


 ともあれ、ふたたびフィールドダンジョン『魔の森』に用意された移動式キッチンにて、アレナたちの料理試作がはじまった。


 なお、ベリンツォの街の「異世界揚げ物屋さん」は店主都合につき本日休業である。

 ルガーニャ王国やロンバルド王国の料理屋は「年中無休」が普通だが、お店は趣味のようなものなので。

 いまごろ、アレナに拾われた——雇われた兄妹と、とある場所から引き取られた奴隷の少女が店内清掃に励んでいることだろう。

 ふんふんと、鼻歌まじりで楽しそうに。




 アレナがのどかな景色——アレナの『魔力障壁』とダリアの『聖結界』で侵入できず、外でうごめくモンスターたち——を眺めつつお茶を飲みながら待つことしばし。


「あの、お嬢様、ほんとにコレでいいんですか? わたし、『とんかつ』の時より自信がないんですけど……」


 試作を終えたダリアが、皿に3つの料理を載せてアレナの元にやってきた。

 おずおずと伏し目がちに。


「『から』を『あげる』のが『からあげ』ですもの、間違いありませんわ!」


「でも……卵の『殻』って、普通食べませんよ?」


「あら? オーク肉を食べてなかったダリアが言えることでして?」


「うぐっ」


「卵の殻だって、食べないだけで『からあげ』にしたら美味しいのかもしれませんわ!」


 観念したダリアが、木のテーブルの上に皿を置く。

 皿に乗っているのは、黄金色にこんがり揚げられた3つの塊だ。


 からあげだから「殻」を「揚げる」。

 アレナのリクエストに従って、卵の殻を揚げた料理である。


 カーブを描いた料理は、コカトリスの卵の殻の一部を同じ衣で揚げたもの。

 小判形は、粉々に砕いた卵の殻をコロッケの種に混ぜ込んで、衣をつけて揚げたもの。なんとか食べられるようにならないかというダリアの涙ぐましい努力の成果である。

 小ぶりの卵形のものはそのまま、刃燕(エッジスワロー)の卵にとんかつ同様の衣をつけてまるっと揚げたものだ。


「いただきます!」


 さすがに怒るんじゃないかと不安げなダリアをよそに、お嬢様は意気揚々とフォークを手にした。

 まずは一番「殻をあげた」に近い、『コカトリスの(卵の)殻(の一部)揚げ』に手を伸ばす。

 とうぜん、フォークは刺さらない。

 しばし格闘したのち、ベルタが差し出した箸に持ち替えて。


 アレナが、『コカトリスの(卵の)殻(の一部)揚げ』を口にする。


 ガリッと、食べ物らしからぬ硬い音でアレナの歯を阻む。

 だが。


「ふんぬぅ! ですわぁ!」


 歯と顎まわりのピンポイントで得意の『身体強化』魔法を発動したアレナが、ゴリッ、バリッと噛み砕く。

 アレナの足元で、カロリーナは目を輝かせて『コカトリスの(卵の)殻(の一部)揚げ』を見つめている。いい音する! 美味しそう! とばかりに。さすが狼である。


「ど、どうですか、お嬢様?」


「食べられなくはありませんわね」


「お嬢様は『くそ不味くて常人には喰えたものじゃありませんわぁ!』と言っています」


「ええ……? ちょっと口汚くないですか……? 内容には賛成ですけども……」


 肩を落とすダリアを尻目に、お嬢様は続けて『(卵の)殻(入りコロッケ風)揚げ』を口に運んだ。

 ダリアの努力のおかげで、今度は魔法を発動させることなくモグモグする。カロリーナは興味を失った。


(わたくし)なら、今後は通常のコロッケを頼みますわね」


「お嬢様はこう言っています。『コロッケに入れることでコロッケの味わいを殺していますわ。二度と入れないでくださいませ』」


「あっはい。わたしもそう思います」


 だから言いましたよね? とでも言いたげなダリアを置いて、お嬢様は最後の料理、『(野鳥の卵の)殻(ごと)揚げ』を口に入れた。

 カリッと音がして、中の卵をあつ、あつ、とほふほふする。

 カロリーナがふたたび目を輝かせる。それもまあまあいい音した! 美味しそう! と。カロリーナは歯応え重視派らしい。狼なので。骨にもかじりつく。


「その、どうでしょうか……?」


「これは、工夫の余地がありますわね」


「『ぶっちゃけ殻がない方が美味しいですわ! 卵揚げは新メニューに加えるのもありですわね!』とお嬢様は言っています」


「おおー! それ、すっごく苦労したんです! 普通にやると爆発しちゃって、でも火魔法の『爆炎』対策と同じように一定方向に逃げるように卵に穴を開けたり魔力で包んだり……って、あれ? けっきょく、いま試作した『からあげ』はどれも『卵の殻』が邪魔してるような…………」


「うぉんっ!」


 真理に気付いてしまったダリアを放置して、アレナは残った料理をカロリーナに下げ渡した。

 マリーノ侯爵家の「お残し厳禁」ルールをすり抜ける処置である。

 カロリーナはぶんぶん尻尾を振って、3つの料理を堪能した。美味しい! バリバリする! カロ、これ嫌いじゃない! とでも言いたげに。狼といえど、カロリーナはれっきとした狼型モンスターだ。卵は殻ごとイケるらしい。


「ごちそうさまでした。『からあげ』は、まだまだ改良の余地がありますわね」


「改良の余地しかないと思いますぅ……」


「わふ?」


 ともあれ。

 カロリーナの活躍で、試作した『殻揚げ』はお残しすることなく食べ切った。

 マリーノ侯爵家の初代が食べたいと渇望した「からあげ」の再現は、まだまだ時間がかかりそうだ。



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