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異世界揚げ物屋さん〜婚約破棄?追放?大歓迎ですの!私、そんなことより!揚げ物を食べたいんですわぁ!〜  作者: 坂東太郎
第一部『第二章』

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第八話


「アレナさんはDランク冒険者です! すごいですね、ベリンツォの冒険者ギルド最速ですよ!」


「ほーっほっほっほ! 当然ですわぁ! これが『てんぷれ』の気持ちよさですのね!」


 なかばヤケクソ気味に言った馴染みの受付嬢に、アレナは高笑いで返答した。

 アレナがオークの集落を殲滅して、マジックバッグを使って冒険者ギルドに大量のオークを持ち込んだ翌日のことである。


 ちなみに、オーク肉は解体を頼んだうえで、半分ほどを冒険者ギルドに卸した。

 最初は「ぜんぶ持って帰る」と言い張ったのだが、拝み倒され、「必要な時にオークの出現情報をお教えしますから!」と情報提供を確約されてのことだ。

 マジックバッグは時間経過はないが、なんとなく新鮮な方がいいと思ったらしい。

 あと、アレナは案外頼みごとに弱いので。


「油もげっとしましたし、ぶた肉は特上のキングオーク肉をげっとしましたわ! 順調ですわねぇ!」


「お嬢様、今日はどちらに向かいましょうか」


「そうですわねえ……あっ、これにしますわ!」


「また危険な依頼を……これ、Bランク以上の冒険者に向けた依頼なんですけど……」


「あら、(わたくし)の腕が信用できなくって?」


「いえ、初日に見てますし、実績もありますし、なにより『マリーノ』ですから……。実力は疑ってないんですが……少々お待ちください」


 そう言って、受付嬢がカウンターから出て二階に消える。

 前回のオークの集落討伐に続いて、恒例となった「ギルド長への相談」である。

 結果は見えている。


「今回も……特例ということで……」


「くふふっ、ギルド長はわかっていますわね! さあ行きますわよ、ベルタ、ダリア、カロリーナ!」


 死んだ魚のような目をした受付嬢をスルーして、アレナは意気揚々と冒険者ギルドを出る。

 今日もまた、キリッと張り切るカロリーナ(オス)に先導されて。

 無表情のベルタが斜め後ろに続き、最後尾のダリアは受付嬢や冒険者たちにぺこぺこ頭を下げながら。




「あの、お嬢様。今日はどんな依頼を受けたんですか?」


 昨日一昨日と同じように、アレナ一行はベリンツォの街からほど近いフィールドダンジョン『魔の森』を進む。

 一昨日より昨日、昨日より今日の方がより深層に近づいている。

 薄暗い森と、ところどころに転がる謎の岩。

 ダンジョン深層の濃密な魔力を感じ取って、ダリアはおそるおそる依頼内容を聞こうとした。遅い。


「ふふふー、今日は卵あつめですわ!」


「卵? 卵って卵ですよね? ベリンツォの街中やまわりの農地で鶏は見かけましたけど……」


「あら、ダリア。せっかくの『とんかつ』なのですもの、卵も美味しいものを使った方がいいのではなくて?」


「は、はあ、料理によって相性はありますけど、できるなら美味しい卵を使った方がいいと思います」


「ほーっほっほっほ! やはり私の思った通りですわね! ですから、この近辺で最上級の卵を採りにきたんですのよぉ!」


「慧眼ですお嬢様」


「最上級の、卵……なんだろ、ドラゴン? ううん、ベリンツォの冒険者ギルドの掲示板にはドラゴンの情報はなかった。ワイバーン、飛竜系もなし。あと卵が美味しくてモンスターも強いのは……まさか!」


 今日狙う相手に思いいたって、ビクゥ!とダリアが顔を上げる。

 すんすんと鼻を鳴らし、耳をピクピクさせたカロリーヌはすでに警戒態勢だ。

 ベルタも油断なく周囲を見渡し、アレナは一行の先頭に出た。


「姿は隠せても魔力が隠せていませんわよ! さあ、出てきなさい!」


 前方の木立にビシィッ!と指を突きつける。

 と、二体のモンスターが姿を現した。

 カロリーヌがぴんと尻尾を立ててぐるぐるうなる。


「ダリア、『聖結界』を」


「はい、ベルタ先輩! あっでもお嬢様にもうちょっと下がってもらわないと届かなくて」


「お嬢様には必要ありません」


「……えっ?」


「相手は()()()()()。早くしないと石化されますよ」


「ああああああやっぱりぃぃぃいいいいい! 『聖結界』! カロくん、カロくんも中へ!」


 慌てた様子のダリアが、うなるカロリーナを背後から捕まえて抱き寄せる。

 ベルタはしれっと結界内に位置している。

 ダリアが張った聖結界の外、モンスターと対峙するのはアレナのみだ。


「くふふっ、情報通り、コカトリスのつがい! すんばらしいですわぁー!」


 コカトリスの体高は2メートルほどだろうか。

 つがいの二体のうち一体は黒、一体は白の羽を生やしている。

 どちらも尾は蛇で、ぐいんと鎌首をもたげてテリトリーの侵入者を睨みつける。


 コカトリスは単体で、準備を整えてBランク冒険者が対処するレベルのモンスター。

 つがいともなれば、その脅威度はAランクに跳ね上がる。

 だが、アレナに恐れはなかった。

 むしろつがいであることに大喜びしていた。


「『身体強化』! 『魔力障壁』! あなたたちに用はないのですわ!」


 準備を整えると、アレナは二体のコカトリスに突進する。

 と、コカトリスの瞳が怪しく光る。


「危ないですお嬢様! コカトリスと目を合わせたら石化するって!」


「心配いりません。ほら」


「ベルタ先輩なに言って……えっ?」


「ほーっほっほっほ! 無駄無駄! 無駄ァ! ですわぁ!」


 コカトリスを見据えて接近したアレナが拳を振るう。

 どむっといい音がして、オスっぽいコカトリスは目を見開いた。痛みと驚きで。


「あ、あれ? 石化、しない? まさか」


「モンスターの特殊能力は魔力依存のものが多い。ゆえに、『魔力障壁』を張ったお嬢様には効かないのです」


「お嬢様デタラメすぎません!?」


「うぉん、わおーんっ!」


「むふふっ、カロリーナの応援で元気100倍ですわぁ!」


 ダリアがあんぐり口を開けている間にも、アレナはコカトリスをボコる。

 特殊能力を封じられたうえ、クチバシの突っつきや噛みつきも、爪の引っ掻きも、尻尾の攻撃も、すべて『魔力障壁』に防がれる。

 体当たりで肉弾戦に挑むも、『身体強化』したアレナに身体能力で負けている。モンスターなのに。

 二体いても、コカトリスに勝ち目はなかった。


「これでおしまいですわっ!」


 まわし蹴りを喰らってコカトリスが吹っ飛ぶ。

 二体折り重なるように倒れる。


 だが、二体ともまだ息があった。

 黒い羽のコカトリスがもぞもぞ動く。

 まるで、つがいのメスを守るかのように。


「えっと、コカトリスは羽も肉も、瞳も尻尾も、貴重な素材だって聞きました。ここで解体しますか? それともマジックバッグに」


「何を言ってるんですの、ダリア?」


「え?」


「ダリア、お嬢様はこう言っています。『貴重なつがいのコカトリスを、殺すわけないですわ!』と」


「えっえっ?」


「目的を忘れてはなりませんわよ! 私は『コカトリスの卵』を取りにきたんですの!」


「なるほど! 無駄な殺生はしないってことですね! お嬢様、お優しい!」


「殺してしまっては、卵を取れるのは一度だけになってしまいますもの」


「えっ。つまり、生かしておいて必要な時にまた卵を取りに来る、ってこと、ですか?」


「正解ですわぁ!」


 ぐっと胸を張るアレナを見て、地に伏せたコカトリスは小刻みに震えていた。



 ともあれ。

 コカトリスの縄張り(テリトリー)をしばらく進み、アレナはあっさり卵をゲットした。

 それも、人の腰ほどの高さの巨大な卵を二個も。


「新鮮な卵、げっとですわぁー! ふふ、これだけあればしばらく卵には困りませんわね!」


 アレナがぺちぺちと卵を叩く。

 カロリーナが興味深げに殻をぺろっと舐める。


 アレナが次に卵を必要とする時までに、コカトリスが無事に逃げおおせることを祈るばかりである。種吹樹シードショットオリーブと違って、コカトリスは移動できるので。




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― 新着の感想 ―
[一言] 連れ帰って養鶏すると言い出さなかったのは、コカトリスにとって幸か不幸かwww
[一言] 親子丼の記載が無かったことがコカトリス夫婦の命を救う(卵は取られる)
[一言] 半年ほど後、そこには 「コケッ(今月の献上分です。ご確認を)」 と、無精卵1パックを厳重に梱包した包み一つと共に恭しく臣下の礼をとるコカトリス一家の姿が!
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