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俺、先輩のためになんでもします(桜 4)

 前途多難な予感に徹が溜息をついているうちに、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。徹が、背伸びをして立ち上りかける。

 と、いきなり一年生が数人、教室に雪崩れ込んで来た。脇目も振らず荻原有理の席まで歩み寄ると、先頭が大声を張り上げた。

「一年三組の山本雄一です。荻原先輩、自分と連を組んでください」

 

 すぐ後ろの男が押しのけるように前に出る。

「自分は一年一組の北里剛史です。先輩の噂は入学前から聞いてました」

 順番を待ちきれないように、後ろの方からも別の声が掛かる。

「荻原先輩。俺、先輩のために何でもします」


 有理の席は既に五、六人の一年生に取り囲まれていた。気付くと教室には他にも一年生が姿を見せ、徹のクラスメイトに声をかけている。

(なるほど、こういうシステムなのか)

 徹は、宇田川や瓜谷の説明をようやく実感した。


「だーめ駄目。どうせあたしと組んだら、すぐやらせてくれると思って来たんでしょ」

 ぎょっとして振り返ると、楠ノ瀬麻紀がニキビ面の男子生徒を、片手であしらっていた。

「あたしは理想高いの。悪いけど他あたって」

 肩を落とす一年生を横目に、楠ノ瀬が意味深に笑いかけてくる。

「徹ちゃんが一年生だったら、よかったんだけどなあ」


 予想外の言葉に徹が顔を赤くすると、楠ノ瀬はその反応に満足げな表情を浮かべて教室を出て行った。再び有理の方を見ると、こちらもあっさり勝負あったようで、一年生たちがすごすごと帰るところだった。

 

(有理は、誰と組むんだろう)

 周囲ではまだ、クラスメイトたちと一年生の駆け引きがあちこちで続いている。だが、自分目当てにやって来た一年生は皆無だった。


(ま、転入生のところに初日から来る子はいないか)

 人より特に目立つわけでもない。敢えて他人との違いを探せば日本舞踊くらいだが、これとてインパクトがあるとも思えず、しかも実態は古武術である。女子高生が興味を持つとは到底思えなかった。


 徹は、一年生向けの冊子に書いた自己PRの出だしを思い出してみた。

 藤原徹――四月に転校してこの学園にやってきました。君らと同じ新入生のつもりで、全力投球しようと思います。一緒に楽しい学園生活を送りましょう。


 改めて思い返すと、我ながら冴えない内容だった。

 徹は首を振ると、カバンを持って立ち上がった。

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