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しかも空手なんかやってるから、けっこうやばいかもよ(桜 3)

 入学式が終わり、徹は担任の西川と廊下を歩きながら、先程の出来事を思い返していた。

 赤い髪の少女も車椅子の新入生も、宝玉を手に入れるため入学したかのようだった。


(如月の宝玉って、何だろう)


 ガタン

 西川が教室のドアを開ける音で、徹は頭を切り換えた。

「エーと、転入生を紹介します。藤原君といって」

 白髪混じりの西川のしゃがれ声を聞きながら、徹が教室を見廻すと、

「徹君?」

 黒髪の少女が、自分を指差して中腰になっていた。その瞬間、徹の頭に六文字が浮かぶ。


 オギワラユリ


「うっそぉ、同級生だったんだ。うわ……すっかりあたし勘違いしちゃった」

 西川が咳払いをして眼鏡を直す。

「荻原、落ち着け。お前ら知り合いか?」


「えっと、いや……」

「そうなんです!」

 徹と有理の声が重なった。西川が面倒くさそうに手を振る。

「わかったわかった。後でゆっくり話せ。まずは藤原、みんなに自己紹介だ」


 有理の顔を見た瞬間、徹は頭の中が真っ白になってしまった。用意してきた挨拶も、何一つ思い出せない。しどろもどろになりながら名前と前の住所を口にすると、西川が苦笑した。

「それだけか。随分と控えめな奴だな」

 徹は、已む無く言葉を捻り出した。

「家族は、両親と姉がいます。あとは――」

「彼女は?」クラスメイトの声が飛んだ。

「えっと、いません」


「当然だろ」

 突然の乱暴な声が徹を遮った。ざわついていた教室が一瞬にして静まり返る。振り向くと、長身の男が椅子に浅く腰掛けたまま足を投げ出して、徹を睨み付けていた。

 踵を踏みつけた上履き。短い茶髪に両耳のピアス。面長でどちらかといえばハンサムな顔立ちだが、薄い唇が不快そうに歪んでいる。

 徹の最も苦手とするタイプだった。膝の辺りで組んだ両拳のグロテスクな蚯蚓腫れが、人を殴り慣れていることを雄弁に物語っていた。


「高宮、感じ悪いって」

 有理が睨んだが、高宮と呼ばれた男は徹から目を逸らさない。徹は気を取り直して続けた。


「まだここでは友達がいないので、宜しくお願いします」

「あたしがいるって!」

 有理が、任せてとばかりに元気よく手を上げる。西川は再び面倒臭そうに手を振ると、

「席は――楠ノ瀬の隣だな。そこの空いてる席だ」

 右奥を指差し、徹は自分の席へと向かった。


 視線が痛かった。

 クラスメイト達は好奇心丸出しで徹を眺め、高宮からは露骨な敵意が刺さってくる。徹はうつむき加減で歩きながら、小さく溜息をついた。

 席に着くと、隣の楠ノ瀬麻紀が、早速シャープペンで徹の左肩を突付いてきた。

「初日からクラス一番の美少女とクラス一番の馬鹿にロックオンされて、もう大変って感じ?」


「あの……」

「あたしは楠ノ瀬麻紀。麻紀ちゃんって呼んで。オッケ?」

「えっと、楠ノ瀬……さん」

 楠ノ瀬は、唇を軽く尖らせて首を振った。

「麻紀ちゃん。オッケ?」

「……麻紀ちゃん」


「高宮って馬鹿だけど、でかいじゃない。しかも空手なんかやってるから、けっこうやばいかもよ」

 楠ノ瀬は茶色に染めた髪を揺らしながら、愉快そうに徹を見た。制服の白いブラウスから覗く肌が、綺麗に日に焼けている。首にはゴールドのチェーンが光り、耳元にはピンク色のピアスが覗いていた。


「なあ楠ノ瀬、そういう話はもう少し小声で……」

「麻紀ちゃんだって言ってるのに」

「……麻紀ちゃん」

「楽しみ、楽しみ。さっそく刺激的な学園生活。もう徹ちゃん、青春真っ只中?」


「おい、藤原と楠ノ瀬、私語止めろ。仲良くなるのはいいが、今は授業中だぞ」

(だから違うって……)

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