誰がその連を選ぶのか(桜 2)
キサラギノホウギョク
抜けるように白い肌の色。 ビスクドールを連想させる硬質な表情に、見る者を貫く青い瞳と高く通った鼻筋。そして何より、燃えるような赤い髪。
人目を惹く。
その言葉では、少女の姿を伝えきることはできない。白黒フィルムの中で、そこだけが総天然色――手垢のついた表現だが、まさにこの場の彼女に相応しかった。
「誰がナンバーワンを選ぶのか、教えてほしい」
少女には、瓜谷以外の存在は眼中にないかのようだった。
瓜谷は、その視線を正面から受け止めていた。細めた目も、端を吊り上げた口元も、先程の笑顔と全く同じ形であった。が、身に纏う雰囲気が一変している。
面白い。
徹の目には、瓜谷の口がそう動いたように見えた。無意識に身震いしてしまう。じわり、講堂の緊張感が高まったところで、瓜谷の横にいた宇田川が自然な動作で立ち上がった。
「一年生の学年主任の宇田川だ。私から説明しよう」
落ち着いた張りのある声が、講堂に響く。同時にそこかしこから、安堵の吐息が漏れる。
「確かに年度最後の一ヶ月、学園にある青い玉を一組の連に預ける伝統がある。例えるなら、持ち回りのトロフィーのようなものだ」
「誰がその連を選ぶのか」
宇田川が言い終わるのも待たず、少女が尋ねる。
赤い髪の少女は言葉に不自由していないようだが、日本で育ったわけでもないことは明らかだった。抑揚が少なく、話す内容も比較的シンプルである。それが逆に、聞く者に切っ先の鋭さを感じさせ、ある種の緊張感を生み出している。
「学校が選ぶ」
宇田川の答えもまた、簡潔だった。
「勘違いして欲しくないのは、青い玉――如月の宝玉と呼んでいるが――を預かる連が、絶対だとは限らない点だ」
ここで宇田川は、一呼吸置いた。
「教師には教師の見方があり、君達には君達の見方がある。その数だけナンバーワンがあると思ってもらって、構わない」
「要は先生方が選ぶということですね。成績が重視されるのですか、それとも課外活動ですか」
一年生の中から新たな声がする。代表の挨拶をした、杉山という名の車椅子の少年だった。穏やかな響きだったが、何故かよく通った。
「全てを重視する。これでは納得できないかな」
宇田川がそう説明した後で、瓜谷が愉快げに付け加えた。
「去年と一昨年は、俺の連が宝玉を預かった。こいつは参考になるかな」
宇田川は瓜谷を一瞥すると、言葉を続けた。
「いずれにせよ自らのベストを尽くすことだけが、宝玉を手に入れる道だ」
赤い髪の少女は、このゲームへの参加を全員の前で宣言するかのように、きっぱり答えた。
「わかった」
そのターコイズ・ブルーの瞳は、一層青く輝いていた。車椅子の新入生代表も、後に続いた。
「僕も了解しました」
壇上の宇田川は、二人の新入生の言葉に静かに頷くだけだった。
だが徹には、その光る眼が何故か自分を見つめているように感じられた。