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だが、もう戻れない(金木犀18)

 男が参宮学園に忍び込んだのは、満月の夜だった。

 特にその日を狙ったわけではない。偶々むしゃくしゃした気分が晴れなかったからだ。

 新しい高校では、絡んできた上級生をその日のうちにぶちのめした。既に自分のポジションは確保した。

 

 だが満たされない。

 そこには自分が好きだった少女はいない。自分が憧れた先輩もいない。

 そこには緊張も無ければ平穏も無い。ただ時間が汚泥のように垂れ流されているだけだった。

(宝玉を手に入れるまでは負けない)

 最も思い出したくない相手の言葉が、脳裏に染みのようにこびり付いていた。

 

 宝玉、宝玉、宝玉。

 あんな石っころの、どこがそんなに大切なのか。

 男は何度か見たことのあるシルエットを、記憶の中から引き摺り出す。

 仄かに光る丸い石――そう、ただの石だった。

 その石を粉々にしてやったら、あの野郎はどんな顔をするだろうか。

 それだけの理由で、自分がここに立っている事に改めて気付く。どこか歯車が狂ってしまった気がする。

 だが、もう戻れない。

 

 男は理事長室のガラスを破り、棚に置かれた木箱を手に取る。箱自体は、昨年に瓜谷から見せてもらった記憶の通りだった。だが、銀の鎖で何重にも外周を巻いてあった。

 男は舌打ちした。苛立つ手で鎖を解こうとするが、うまくいかない。

 巡回の警備員が一階のガラスが割れていることに気付いて駆けつける前に、終わらさなければ。

 慌てれば慌てるほどうまくいかない。男はもう一度舌打ちすると、両手で頭の上に木箱を抱え上げ、そのまま床に叩きつけるために頭上に振り上げた。


 その瞬間、箱の中から強烈な光が放射された。

 青い閃光が僅かな隙間から男の目を射る。


 強烈な頭痛に、男はしゃがみ込んだ。


   * * * * * * * *


 そして間もなく二学期の期末試験が終わり、終業式を迎えた。即ち、ナンバーワンの連を選ぶための審査はここに全て終了したのである。


 三学期の初日、職員室前に一枚の紙が貼り出された。

  

  告


 本年度の宝玉の管理者は、以下の通り。

 リタ=グレンゴールド(一年一組) ―― 藤原徹(二年三組)

 

 以上

 

 一月八日

 参宮学園高校 事務局

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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