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いいじゃないか、やろう(金木犀10)

 徹は最終審査で鳴神流を舞うことにした。

 袴姿ならまだしも七分丈のジャージパンツで様になるのか、正直自信はない。だが、他に取り柄もないのも事実である。小道具として鉢巻を使うことに決め、校庭に置いた自分のカバンに取りに戻ると姉の望が立っていた。


「あんた、あんなのに出るなら先に言いなさいよ」

 藤原望はつばの広い褐色の帽子に黄色のサングラスをかけ、一目でブランドが判る革のバッグを肩から下げていた。すぐそばにいた桐嶋和人が目を見張った。

「ふ、藤原にはこんな美人の姉ちゃんがいたのかよ」


 サングラス越しでも一目で姉弟とわかる顔に、満面の笑みが広がる。

「徹がいつもお世話になってます」

(桐嶋、なにお前ごますってんだよ)

(き、綺麗な姉ちゃんじゃないか)

(お前、サングラスに騙されてるよ)

 

 望は徹の頭を軽く叩いた。

「あんた頑張んなさいよ。皆見てんだからね」

「姉貴、友達っていうのは?」

 問いかける徹に、望は意味深に頷いた。

「来てるわよ。あたしに恥かかせないでね。ほら、早く戻んなさい」

(……男かよ、勝手なやつ)

 

 徹はわざとらしく溜息をつくと望に背を向けて歩きだした。途中で一度振り向くと、望のキラースマイルに魂を抜かれたまま相槌を打つ桐嶋の姿が目に入り、今度は心底溜息をついた。


   * * * * * * * *


 十五分後、参加者が再集合した。

 ステージには、先程までの興奮の余韻が残っている。観客の数もさっきより明らかに増している。

「それでは四位からです。高宮先輩、何をしますか?」

 杉山の質問に、高宮は口の端を酷薄そうに吊り上げた。

「藤原と約束組手をやることになった。なあ藤原、そうだよな」

 

 高宮の言葉に徹は武者震いした。高宮の言葉が意味するところは明らかだった。

「高宮先輩、一人ずつが原則ですので……」

 杉山が冷静を装いながら、横目で徹の意図を確認しようと視線を送る。本来なら司会として受けるべき提案だろう。だが、高宮の眼に宿る陰鬱な光や口調に混じる奇妙な粘りに強い違和感を感じているのが、傍目にも判った。


 二人を一緒にしてはいけない。そう確信した杉山が再度口を開きかけたところで、

「いいじゃないか、やろう」

 低く、だがはっきりとした口調で徹が返事をした。


 杉山は尚も何かを言いかけたが、至る所から響く歓声を耳にして困った顔で右奥を見る。視線の先には荻原有理がいた。有理は首を激しく横に振っていたが、徹は開いた右手を前に突き出し明確な拒否を示した。視界の端には眉を吊り上げたまま不敵に笑みを浮かべる瓜谷の姿が映る。

 杉山は固い表情で眼鏡を押し上げた。

「わかりました。それでは時間は二人分で計二分。危険な行為があった場合は、直ぐに止めます」


 既に高宮は、ステージの左でステップを踏んでいる。徹は右側に距離を取ると、鉢巻を後ろのポケットに突っ込んで足首を回し始めた。足の裏から息を吸う感覚で頭まで気を巡らすと、長く息を吐く。

 背筋を伸ばしたまま、徹は腰を軽く落とした。


「では、お願いします!」

 車椅子の少年の高い声が響いた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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