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それでは位置について(金木犀8)

 午後のプログラムは、連対抗の二人三脚からだった。

 待ち合わせ場所に行くと、先に来ていたリタが徹の顔を見て手を挙げた。朝方は下ろしていた豊かな髪を結ってはいたが、聡明な額も誇り高きターコイズブルーの瞳もいつも通りだった。朝からずれたままだったレンズの焦点がようやく定まった――そんな安堵感が、徹の心に広がった。


「心配かけてごめん。あと、お弁当凄くおいしかった」

 リタは無愛想に頷くだけだったが、徹にはその反応で十分だった。

 頑張ろう、心の中でそう誓って互いの足を紐で縛る。肩を組み、声を揃えて足を振り出すとそのままスタートラインまで歩いていく。

「位置について、用意」

 スターターの銃声と共に徹たちは一心不乱に走った。


 部対抗リレーが終わると周囲の歓声が一層高まる。いよいよ午後のメインイベントのミスター参宮、ミス参宮であった。

 ミスター参宮は、瓜谷悠、高宮武と徹を含む八名が出場者としてコールされた。手回しよく壇上には美術部が作った垂れ幕まで掲げられている。歓声の中で出場者が壇上に一列に並ぶ頃から、お祭り騒ぎとは異なる一種独特の緊張感が漂い始めた。挿絵(By みてみん)

 中でも一際背の高い高宮の目に宿る凶暴な光は、観客にも明らかだった。それを平然と受け流している瓜谷は別格として、他の出場者は程度の差こそあれ神経質になっていた。


「それではルールの説明をします」

 緊張気味の杉山想平の声が、マイク越しに響く。

「まずは第一次審査。これはミスター参宮としての最低条件である運動能力を見せてもらいます」

 出場者は皆、予想通りといった反応で車椅子の少年の声に耳を澄ます。


「選手の皆さんはここで腹筋運動を百回した後、西校舎の屋上にある風船を取って戻って来て下さい。係に風船を渡したら、その場で腕立て五十回。終わった人から順位をつけます」

 徹は軽く足首を回す。

 楽ではない。が、出来なくはない。


「それでは位置について」

 腹筋運動のために膝を立てて仰向けになる徹の足首を、係が押さえる。高宮の足を押さえる一年生は明らかに震えていて、徹は同情した。


「用意、始め!」


 八人の男達は猛然と腹筋運動を始めた。

 当初はほぼ横一線だった動きも、三十回を過ぎる頃にばらつき始める。狂ったように上下を繰り返す高宮がトップで、次にサッカー部の昭島が続く。徹は四位で五十回を折り返した。

 徹も腹筋は鍛えている。日本舞踊の基本は体幹である。休みなしにやり切る自信はあるが高宮の異常なスピードには追いつけない。


 七十回を過ぎたあたりで高宮が微妙に失速し、昭島が並ぶ。十回もしないうちに昭島が抜け出した。百回を最初に終えた昭島が猟犬のように西校舎に駆け出し、続いて高宮、その後五秒ほどして徹が後を追った。


 西校舎に辿りつくと徹は階段を一段抜かしで駆け上がり、係の女生徒のところに駆け寄った。

「何色がいいですか」

 女生徒の言葉など聞く耳を持たず、赤い風船を奪うように抱えて再び走り出す。

 既に呼吸は上がって足はもつれるが、休むわけにいかない。徹は誰も抜けず誰からも抜かされず、三位で壇上に戻って来た。係に風船を渡すと休む間もなく腕立て伏せを始める。

 三十回で大きく深呼吸をする。三十九回で一度膝を付き、四十三回でもう一度膝を付いた。


 顔を苦痛に歪めたその時、歓声が上がった。昭島がゴールしていた。徹は歯を食いしばると腕立てを続けた。両腕が自分の意思と関係なく震える。

 五十回――徹は倒れこんで係を見上げる。


 三位の旗が上がっていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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