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そうかあ、安心したぜ(金木犀4)

体育祭直前の二日間は、放課後に各学年の同じ組同士が集まって合同練習を行う。徹たちが所属するオール三組の練習には、当然のことながら一年三組の荻原有為も参加していた。


「有為ちゃん、足速いんだ」

 横でトレーニングスーツ姿の楠ノ瀬麻紀が、感心したように話しかける。荻原有為はリレーの選手に選ばれていた。確かに有為は一年にしては背も高く、如何にも足が速そうである。長い手足に均整の取れたスタイル。頭も小さいし、身体だって――

「徹ちゃん、見過ぎ」

「舐め回すように見るなんて、最っ低!」

 もちろん、年上の徹を最低呼ばわりした方が有為である。


「藤原先輩は、リレー出ないんですか」

 有為の暴言をフォローするかのように、有為のクラスメイトが話題を変える。

「それ、本人に聞いちゃまずいでしょ」

 何故か有為が嬉しそうに答える。横で相槌を打つ楠ノ瀬も、どうかと思う。


 徹は応援団に駆り出されていた。

 制服がブレザーなのに学ランを着るあたり、徹にはかなり疑問なのだが、代々使われて汗と涙が染込んだとかいう学生服一式を渡された。三組は代々、青がチームカラーらしく、色褪せた青色の鉢巻もセットである。ちなみにリタのいる一組のチームカラーは白、杉山想平のいる二組は赤であった。


「応援団って、どこでも一緒だよな。下駄履いてでかい声だして」

 徹が感想を漏らすと、

「藤原団員、今すぐグラウンド一周駆け足!」

 いきなりの後ろからの声に、徹は思わず肩を竦める。

(そうだ、この人がまた一緒だった)

 三年三組の瓜谷悠が扇子を持って、いい獲物でも見つけたように歯を見せていた。挿絵(By みてみん)


「藤原、応援団に不満でもあるのか」

 瓜谷の迫力ある笑顔に徹は後退りする。何とか誤魔化そうとぼさぼさの髪を弄りながら、

「チアガールなんかどうでしょう、なんて」

 咄嗟に思いついたことを、そのまま口に出してしまった。


「まずうい、徹ちゃん下心丸出し」

 膝の屈伸運動をしながら、楠ノ瀬がわざとらしく口に手を当てる。

「いかにも藤原先輩の考えそうなことですね」

 有為も冷ややかに口にする。

 普段はあんた呼ばわりのくせに、こんなときだけ先輩付けだ。徹はもはや反論するのを止めて、視線をあらぬ方向へと泳がせた。


「まあ、今年はオール三組の圧勝だろうな」

 瓜谷が、一緒に歩いてきた高宮武に話しかけた。人一倍背が高く胸板の厚い高宮と、同じく引き締まって均整が取れた体躯の瓜谷とが並ぶと、悔しいが別格の感が漂っている。徹は僅かな引け目を感じ、その引け目にまた自己嫌悪を感じた。


「高宮、お前ミスター参宮に出るんだって」

 瓜谷の台詞はいかにも今思いついたかのようだったが、実際は十分計算されたタイミングだった。以前から漠然と感じていたが、瓜谷の場の読み方には絶妙なものがある。


「ええ。全校生徒の前でぶっ潰したい奴が、一人いるんで」

 徹は確信する。瓜谷は、ここに自分がいるからこそ高宮に質問したのだ。

「もしそうなら、俺と当たる前に済ませておくんだな」

 瓜谷はそう言って長めの髪をかき上げると、徹を見た。


「俺も、宝玉を手に入れるまでは負けません」

 徹はぐっと腹に力を込める。徹の言葉に有為が口を開いた。

「高宮先輩は強いよ」

 それを聞いて急に高宮の目が細くなった。短く刈り込まれた茶髪の下、口元こそ笑顔だが目は笑っていない。


「で、お前は誰を応援するつもりなんだ?」

 毒蛇の舌先がちらつく嫌悪感を覚え、徹の腕が粟立つ。

 何故こいつは、こんな質問をするんだ。

「高宮先輩に決まっているじゃない」

 有為の言葉に淀みはなかったが早口過ぎて、違和感が残った。


「そうかあ、安心したぜ」

 高宮は妙に上機嫌で徹の方に振り向く。

「藤原ぁ。お前んとこは、家族見に来るのか」

「いや、親父もお袋もこない。もしかしたら姉貴だけ来るかも」

「ふーん、姉貴ね。そりゃあ気の毒になぁ」


 どこか馬鹿にした口調のまま、高宮がべろんと唇をなめた。徹の心の中で、黒い泡が一つ二つ、ごぽりと音を立てて浮かび上がる。

 無意識に徹が軽く両脚を開いた瞬間、自分の肩を誰かが叩いた。

「ふ、藤原。ちょっとハードルを運ぶのを手伝ってくれないか」

 

 桐嶋和人が立っていた。徹の返事を待たず無理やり体育倉庫のほうに引っ張っていく。振り返ろうとする徹の右手を、桐嶋が強く引いた。

「ちょ、挑発なんか乗っちゃ駄目だ」

 桐嶋が顎をしゃくると、遠くで有理が視線を逸らすところだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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