ま、それが普通の反応だよね(向日葵 5)
何で学校には試験があるのだろう。
何で学期毎に試験があるのだろう。
学校の数だけ、生徒の数だけ繰り返されたはずの台詞を呟きながら、徹は教室の机に向かっている。早いもので、六人で公園に行ってから三週間。あっという間に一学期の中間試験である。
転校して自分の成績の居所が分からない徹としては、不安な一週間である。ナンバーワンの連を選抜するのに、成績も重要であることは間違いなかった。互いに学年一位の杉山想平と荻原有理が組むことは、それだけで脅威らしい。
公園に行って以来、有理とは踏み込んだ会話が出来ていなかった。リタとも、まずは試験に集中しようと、放課後に会うのを止めていた。リタはイギリスでは相当優秀だったらしいが、国語は勿論のこと、日本の文系授業への対応には限界がある。ここは徹が頑張るしかない。
数学の試験を五分ほど時間を残して解き終え、徹は考える。
何故、みんなナンバーワンの連を目指すのだろう。
いや、この表現は正確ではない。
ナンバーワンを目指している連は、実のところそれほど多くない。学園で百八十組のうち、本気なのは十組もないかもしれない。残りの連は、あわよくば、という程度だろう。
宝玉を手に入れると、どうなるというのだろうか。
昨日、ついに疑問に耐え切れず楠ノ瀬麻紀に聞いてしまった。過去二年連続ナンバーワンの瓜谷悠と組んだ、今や「本命」の楠ノ瀬にである。
そこで徹は初めて知ったのだが、ナンバーワンに選ばれると、翌年度の学園祭と体育祭の一部を自由に決められるということだった。
参宮学園は夏に学園祭、秋に体育祭がある。学園祭は夏休み前の最終週の土日に開催される。一方、体育祭は十月の体育の日だ。前年度ナンバーワンの連には、学園祭で前夜祭を、また体育祭で午後の種目を自由に企画できる特権が与えられる。
要は、今年度は瓜谷が学園祭の実行委員長を務め、有理が体育祭の実行委員長を務めるということなのだ。
翌年のイベントを企画できるのか――そう納得した後で疑問が湧く。
「でも、連に三年生がいた場合は?」
「ああ、そういう意味では、その人は卒業するから何もなし」
思わず、それって不公平じゃないかと言いかける徹を、楠ノ瀬は制した。
「でもね。夢が叶うらしいよ」
現実的な楠ノ瀬には、似つかわしくない台詞だった。徹の口を開けた表情を見て、楠ノ瀬は皮肉っぽく鼻に皺を寄せた。
「ま、それが普通の反応だよね。きっと徹ちゃんもナンバーワンになれば分かるよ」
「それって一体――」
「おっと、ライバルに口を滑らしちゃうとこだった。じゃあねぇ、徹ちゃん」
楠ノ瀬は、思わせぶりな口振りのまま去っていった。
確かに、好きなイベントを企画するのは面白いに違いない。杉山想平はこのタイプだろう。
そんな特典がなくても、勝負に勝ちたい奴だっているだろう。これは高宮の馬鹿か。
でも、リタはそうじゃない。きっと本当に夢を叶えたいんだ。
そこまで昨日のことを思い出したところで、試験の終わりを告げる鐘が鳴る。これで中間試験も全て終了だった。
徹は本屋に寄ってから、稽古に行くことにした。
* * * * * * * *
稽古が終わって師である鳴神静瑛の家を出ると、午後九時を回っていた。飯でも食っていけ――そんな誘いに、つい長居してしまった。
徹は帯を畳んでリュックにしまうと、静瑛の家を出た。引越して、道場から自宅までの距離も随分近くなり、徹はトレーニングの為にジョギングで帰っている。
徹の自宅までは、途中で西砂の繁華街を抜ける必要がある。 徹はトレーニング・スーツ姿で歓楽街を黙々と走っていたが、不意に聞こえてきた悲鳴に立ち止まった。
同世代の少女の声だった。
空き缶の転がる音と一緒だった。そして男達の低い声。
徹は躊躇った。
繁華街ではよくある光景に違いない。君子危うきに近寄らずだ。いや、そもそも空耳だったか。
立ち止まって耳を澄ましたが、もう少女の悲鳴は聞こえてこない。
十秒ほどそうしていただろうか。軽く額の汗を拭い、再び走り出そうとして――
その時、確かに聞き覚えのある声がした。
今度は短い悲鳴だった。
徹は衝動的に走った。その声が誰のものか思い出せないまま走った。塀越しだが、声は近い。キャバクラの脇を曲がり、煙草と酒の匂いのする男達の集団をすり抜ける。
そして、徹は目指す相手を見つけた。
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