ーーって聞いてる?徹君(向日葵 3)
六人は瓜谷を先頭に、歩いて十五分ほどの久我瀬公園へ向かった。
久我瀬公園は、綺麗な芝生が広がる県立公園である。最初は遊園地や映画の案もあったが、杉山想平が車椅子であることと、楠ノ瀬麻紀がお弁当を作りたいと主張したこともあってピクニックとなった。
徹には意外だったが、楠ノ瀬の家は母親が料理教室を開いていて、麻紀本人もかなりの腕前とのことだった。
「徹君、幸せねぇ。麻紀ちゃんの手料理はおいしいって評判なんだよ」
「でもあたし、実はお菓子の方が得意なんだ。ケーキとか」
「私も甘いものは好きだ」
コンビニでペットボトルと紙コップを買い込んで公園に着くと、もう十二時を回っていた。空には雲一つなく、背中に軽く汗が滲む。
「いい天気でよかったな、リタちゃん」
シャツの袖を捲り上げた瓜谷が、隣のリタに相槌を求める。
瓜谷は、当初の印象ほど背が高いわけではなかった。身長だけであれば高宮の方が高い。だが、形のいい小さな頭と鼻筋の通った顔、引き締まった長い手脚とが相まって、見る者にどこか日本人離れした印象を与える。リタと並んで見劣りしないその姿に、徹は一層その思いを強くした。
一方のリタは瓜谷の容姿など全く無関心な様子で、淡白な返事を返す。
「そうだな、瓜谷の言うとおりだ」
「今日は三十度近くなるんじゃないか」
「ああ、暑いな確かに」
言葉とは裏腹に、リタは汗一つかいていない。瓜谷は苦笑して肩をすくめた。
「リタちゃん、もうちょい話のつながる相槌うってくれよ」
リタは心外だとばかりに瓜谷を一瞥すると、口を開いた。
「わかった。では、日本の五月の平均気温はどのくらいだ?」
「……いや、そんな話の転がし方じゃなくて」
少し離れた芝生の上では、楠ノ瀬と杉山が楽しそうに話している。徹は有理と、大木の下に座っていた。有理は鹿の子のポロシャツに股上の浅いデニムのブーツカットを穿いている。並んで座ると腰から肌が覗き、徹はそれだけで落ち着かなかった。
「――って聞いてる? 徹君」
「あ、ごめん。何?」
有理が形のいい眉を寄せていた。
澄んだ空からは木々の葉を揺らすように微風が吹いており、肌だけでなく耳にも心地が良い。横に座る徹の元には、風に乗って微かに有理の黒髪の匂いが届く。
艶やかな髪からは、金木犀に似た匂いがした。
「こないだ有為達が迷惑かけたでしょ、学食で」
有為に「カッコ悪い」と言われた記憶が蘇り、耳が少しだけ熱くなる。
「いや、問題は有為ちゃんっていうより、高宮の馬鹿で」
慌てて体の前で手を振る徹に、有理は申し訳なさそうな顔になった。
「御免ね。あいつ焼餅焼きで」
徹はその言葉に引っかかった。嫌な予感に顔を顰めたが、有理は徹の変化に気付かない。
「あいつって、有為ちゃんじゃなくて、うちのクラスの高宮?」
恐る恐るの問い掛けに、有理が首を縦に振る。徹は何かの間違いであって欲しいと祈りながら、話を続けた。ついさっきまでの幸せな気分は、どこかへ消し飛んでしまっていた。
「がっちりしてて、手に拳ダコとかあって――」
徹の問いかけに、さして嬉しくもなさそうに有理が相槌を打つ。
「そうなの。あいつ、空手の全国大会準優勝だから」
全国大会準優勝。本来ならさらっと流すような単語では無いのだが、有理の真意が気になる徹は、あえて先を急いだ。
「……その高宮が焼餅焼きで、困っちゃうって?」
思わず語尾の震えた徹に対し、有理は物憂げな顔で死刑宣告した。
「あたし、つきあってるからってすぐ束縛する奴って、駄目だと思うんだ」
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