二年連続で一人は切ないよ(桜 10)
リタは、それから毎日徹の教室に来るようになった。
連を申し込まれたとき、徹は確かに何か匂いを嗅いだはずだが思い出せない。血の匂いだった気もするが、今はリタの髪から仄かに甘く乾いた香りが漂うだけである。
「ふうん、リーたんは遠縁のお姉さんと二人暮らしなんだ。で、また聞いちゃうんだけど、リーたんは徹ちゃんのどこがいいと思ったわけ」
楠ノ瀬麻紀が興味丸出しで覗き込む。
今日は学食の丸テーブルを二つ繋げ、徹たちはリタを囲むように食事を取っていた。メニューから徹と桐嶋はカレーを、楠ノ瀬麻紀はサンドイッチを選び、荻原有理とリタは持参した弁当を広げている。
「ナンバーワンになるために、徹が必要だからだ」
当然といった表情でリタが答える。
「ふ、藤原のどこが必要だったんだ、リ、リーたんは」
「今は説明できない」
あまりに簡潔なリタの答えに、桐嶋が左右に広がる太い眉をハの字にして、気にしないでくれと慌てて手を振る。リタの一言には妙な威厳があり、徹や桐嶋などしばしば圧倒されてしまう。
「リタちゃんは、ライバルと思う子はいないの?」
有理の問いかけにもリタは表情を変えず、ナプキンで口を拭いながら首を横に振った。
「あたしの妹なんかどう? 荻原有為って知ってる?」
「知らない。だが、二年生では貴方がライバルだろう」
「敢えて言えばって感じね。昨年の優勝者に、一応敬意を払ってくれたってとこかしら」
有理が苦笑いした。
(昨年の優勝者?)
徹はカレーを頬張ったまま目を見開き、他の全員が何を今頃といった表情で徹を見る。有理は弁当の苺を摘みながら、
「まあ、去年は瓜谷先輩のおかげだし。でも、今年もいい線いくかな」
澄ました顔で口の中に入れた。
「お、荻原さんは、今年も瓜谷先輩と組むつもりかい?」
有理は、勢い込んだ桐嶋を手で制して苺を飲み込むと、
「今年は、一年の杉山君と組むことにしたんだ」
と答えた。
入学式で挨拶した一年生の注目株の名を耳にして、徹たちは驚きの声を上げる。周囲が何事かと振り向いたが、当の本人は涼しい表情で楠ノ瀬に話題を振った。
「麻紀ちゃんは、結局どうしたの」
「楠ノ瀬も人気あったよね」
徹の問いかけに、楠ノ瀬は艶然と髪の毛を掻き上げる。
今日のピアスは水色だった。
「何度も麻紀ちゃんって呼んでって、言ってるのになぁ」
「……」
「それより桐嶋。あんた大丈夫? 二年連続で一人は切ないよ」
楠ノ瀬の無遠慮な問いかけに、小柄な桐嶋がさらに身を小さくして俯く。ひとしきり桐嶋の話で盛り上がった後で、リタが何気ない調子で話しかけてきた。
「徹、今度うちに来ないか。今後の策を練りたい」
楠ノ瀬が、大袈裟に徹の肩を抱いた。
「頑張ってね、徹ちゃん」
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