表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/72

見つけた(桜 7)

 入学式から三日が過ぎた。

 そのとき徹は、一時間目の教科書を出していたところだった。

 

 入学式の日以来、特に高宮武に絡まれることなく、とはいえ一言も口をきくことなく過ごしている。

 高宮は決して楠ノ瀬が言うほど「馬鹿」ではなく、徹を体育館裏に呼び出すことも無ければ、椅子がへし折られるとことも無かった。

 

 高宮には、今日も女生徒が連の申し込みに来ている。一八五センチを超える長身に、それなりのルックスであることを考えると、新入生の行動はむしろ当然ともいえた。

(これであの殺気がなければな……)

 日に何度となく強烈な視線が高宮から向けられることは、相変わらずであった。もちろん、その理由は分かっている。


 何とかしろよ、オギワラユリ。


 その本人は、徹の悩みなど気にする風もない。というより、部活と新入生の熱烈なアタックに時間を割かれているようだ。徹が合気道部への入部を辞退して以来、大した会話も無く過ぎている。

 徹が軽く溜息を付いたとき、教室の前の扉が勢いよく開いた。


 振り向くと、背の高い一人の少女が立っていた。

 

 燃えるような赤い髪が、見る者の目を刺す。廊下の外から、外の空気が流れ込んでくる。徹の頬を撫でていく風はどこか懐かしく、それでいて不安にさせる匂いがした。

 

「見つけた」

 赤い髪の少女はぼそりと呟くと、教室の中に入ってきた。

 入学式の遣り取りを覚えていた者は互いに囁き合い、少女が誰の前に立つか固唾を呑む。

 

 徹は、歩いてくる少女と高宮とを交互に見比べた。

(彼女も高宮のところに来たか――)

 驚きはない。が、徹本人ですら気付かぬ僅かな失望が、心に影を差す。一方の少女は唇を一文字に結んだまま、大またで足を進めた。群集を掻き分けるかのように周囲には目もくれない。


 少女は高宮の席を通り越した。

 周囲の囁きがざわめきに変わった。高宮の顔が一瞬引き攣り、直ぐに視線をあらぬ方向へと逸らした。

 なおも少女は歩みを止めない。

 誰が目当てなのか。

 少女の歩みと共に対象者が狭まり、それに比例するかのように教室の緊張感が高まっていく。


 そして――


 少女は徹の席の前に立っていた。

「見つけた」

 今度は、はっきりと勝ち誇ったように少女は喋った。


「私はリタ=グレンゴールド。お前の名前を教えてほしい」

 クラスのざわめきが一段と大きくなる。

 徹は余りに予想外の展開に、ただ口を開けていた。


 空耳ではないか――

 目の前の光景が信じられないでいる徹に、少女は苛立つでもなく同じ言葉を繰り返した。


「もう一度言う。お前の名前を教えて欲しい」

 間違いはなかった。

 少女のターコイズ・ブルーの瞳は、確かに徹を捉えている。徹はごくりと唾を飲み込んだ。

「ふ、藤原徹……」

 気圧されたように自分の名を口にすると、リタは満足げに頷いた。


「フジワラトオルか。お前を探していた」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

続きも読みたいなと思われたら、下の★をクリックしてもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ