8アンナとソフィア
一日一話、今日も更新します。
今日は「魔女の伝言」でおなじみの、魔女のアンナ(ヘデラ)と、旅商人のお姉さんの物語です。
どうぞお楽しみください!!
人は命が終わる時、こんなにもあっけないんだ。
アンナは自らの体を見下ろして、不思議な気持ちがした。
ついさっきまで動いていた体は、胸に突き立てたナイフによる出血で、動かなくなった。
そして、今見る自分の手足は、動かなくなった体と同じ服を着ているのに、何だかうっすら透き通っている。
「お姉さん」
アンナの亡骸を抱きしめて、泣き続けるソフィアを見る。ソフィアはすっかり泣きつかれると、アンナを埋葬して、家路についた。
お姉さん、私ここにいるよ?
いくら話かけても、ソフィアはもう返事をしない。
当たり前だ。体を失ったアンナは、この世ではいない人ということになるのだから。
お姉さん、もう泣かないで。
私、これからずっと、お姉さんの傍にいるから。
しかし、そんなアンナの声が届くことなく、ソフィアは馬に跨り、実家を目指した。
久しぶりに帰った実家は、何だか殺伐としていた。
かつては国で一番の財閥として我が物顔で政財界を意のままにしていた義父は、すっかりうだつの上がらない経営者に成り下がり、豪奢な屋敷は使用人を大幅に減らしたらしく、がらんとしていた。
「ただいま」
ソフィアが声をかけると、義父は目を丸くする。
「お前、今更何をしに来た?」
「別に。自分の家に帰って来るのに、理由はいらないでしょう?」
「そんなぼろぼろのなりになるまで、ほっつき歩いて…今までどこで何をしていた?」
泥だらけのソフィアの服を見て眉をしかめる義父の声に、アンナは身を竦める。
―お姉さんはね、私と一緒に樅の木の丘にいたんだよ。私にご飯を食べさせてくれたり、歌を教えてくれたりしたの。おじさん、怒らないで!
アンナが必死で訴えるも、義父に伝わるはずがない。
するとソフィアははぁ、とため息をついて、再び屋敷を出て行こうとする。
「おい、どこへ行くんだ?」
立ちはだかろとする義父を無視して、ソフィアは再び屋敷を出た。
行くあての無いソフィアは、近くの湖へ歩いた。畔に腰を下ろすと、水筒の冷たい水をごくごくと飲み干した。真っ青な湖面に映る疲れ果てた顔を見て、思わずため息をつく。
「ヘデラちゃん、会いたいな・・・」
無意識でそう呟くと、何と湖面にぼぅっとアンナの姿が映った。
―お姉さん!!私はここにいるよ!!!
自分の姿を見て、アンナは叫ぶ。するとソフィアもアンナの姿に気が付いたのか、周囲を見回すと、優しい微笑みを湖面に映した。
「ヘデラちゃん、いるんだね!!私には分かるわ。優しい気配がするから」
―お姉さん!!
アンナは嬉しくなって、にんまり微笑む。すると湖面のアンナも同じように微笑んだ。ソフィアはそんなアンナを見失わないように、湖面を覗きながら、ゆっくり話しかける。
「私、もう疲れちゃった。ヘデラちゃんは天国だし、家にいても居場所もないし、体も色々壊れたから長生きもできないしね・・・ヘデラちゃん、もう私を連れて行ってくれないかな」
しかしアンナの姿は次第に薄くなると、湖の上から消えていった。
「待って!ヘデラちゃん!!私を置いていかないで!私を連れて行って!!!」
すると湖畔に座っていたソフィアの体はふわっと宙に浮いて、空の彼方へと走るアンナを追いかけた。
気が付くと、ソフィアは自分の体を見つめていた。
医者や義父に囲まれて、ソフィアの体は眠るように横たわっている。
「残念ながら、ご臨終です」
医者が告げると、義父はちっと舌打ちして、ソフィアの寝室を去って行った。
私、どうしたのかしら?
ソフィアはさっきまで入っていた体を見下ろして、不思議な気持ちになった。すると、
「お姉さん!!ここだよ!!!」
とアンナの声が聞こえる。
「ヘデラちゃん?どこにいるの?」
ソフィアが必死に目を凝らして周囲を見ると、部屋の片隅にちょこんとアンナが座っていた。
「お姉さん、これからはずっと一緒だよ。約束したよね?」
アンナはそう言うと、ソフィアの横に座り直して、首に腕を回す。
いきなりアンナに抱き着かれたソフィアは、照れてしどろもどろになるのを必死に堪えながら、そっとアンナの頭を優しく撫でた。
「そうね。これからもずっと、永遠に一緒よ。そして何度生まれ変わっても、どんな姿になっても、私は必ずヘデラちゃんといるわ」
「お姉さん!!」
二人の目からこぼれた涙が、きらきらと混ざりあって、空に溶けた。
いつもありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします!