獣性
それを思い出して、今冒険者を志したことに後悔していた自分に驚いた。挫折を味わい続けて自分でも気付かぬうちに自分の尊厳をへし折っていたのだ。
俺には使命がある。今は思い出せないがきっとこの世界で成長を続けたら、思い出せる筈だ。
死を目の前にして使命を思い出した。
蜘蛛は油断しきっている。俺の腕を咥えながら他の蜘蛛に獲物を取られないように威嚇している。俺のことなど眼中にない。そんなに俺の腕が欲しいのか。欲しいならくれてやるよ。
蜘蛛の口の中に腕を無理やりねじ込み、蜘蛛の体内で爪を立てる。思いもよらないところから攻撃を食らった蜘蛛は気味の悪い鳴き声を出しながら必死に吐き出そうとする。
しかし離さない。蜘蛛を無理やり顔の近くまで持ってきて、生意気な赤い眼をかじりとってやった。
蜘蛛は沈黙し、動かなくなった。けれどまだ終わらない。残りの四匹が俺を見ている。こいよ。ぶち殺してやる。動かなくなった蜘蛛を一番近くにいた蜘蛛に叩きつけた。
すると四匹は動かなくなった蜘蛛を引きずり暗闇の中に消えていった。臆病者が。手負の獣より、同族の死体を選ぶのか。
俺は自分でも意味不明な言葉を暗闇に喚き散らし続けた。とうとう声帯まで麻痺したころ、どこかで電光掲示板が発光した。
ボス撃破 生存者8名を帰還させます。