遺言
きっと目の前の少女達を睨む。吸い寄せられた体は少女達の目の前で止められた。黒い少女は目の前に浮かした俺を激しい憎悪の籠る目で睨み返した。
「にゃはぁー!雑魚でラッキー!!」
黄色い少女が短いスカートを揺らして快活に喋る。
「雪降る村。顔にまでかかる白い霜。体が凍って白く濁るまであと数巡。」
白いウェディングドレスの少女が冷たい声で告げた。
体は空中で浮かばされていて身動きが取れない。そうでなくても体は凍って思い通りに動くことはできないだろう。さぁ。どうする。
考えを変えろ。一番最悪のパターンはこいつらから遠距離の攻撃で長期戦を挑まれることだ。空絶の範囲外からなぶられてしまえば勝ち目はゼロだ。宙に浮かぶこの状況を利用せねば。
心臓に源力を込める。源力を熱に変換して血液に流し込む。突然の内臓への負担に呻き声が漏れ出た。ハンマーで心臓を潰されたような痛みだ。体が次第に燃えるような暑さに悲鳴をあげる。雪が溶けた。
片足を振って斬撃よりも風を起こすことに重きを置いた空絶を放った。宙に投げ出された体は熱を持った駒として回転し少女達へと向かう。鋒を黒い少女に合わせた。
「キャリア!」
青い少女がそう唱えると鋒は黒い少女を護るように貼られた半透明のバリアで勢いを止められた。
構わない。鋒に源力を込める。しかしバリアを源力で掻き消そうとしても源力は鋒に留まらずバリアの上を滑るようにして霧散した。
「危ないとこでしたね!」
わざとらしく青い少女が額を拭った。赤い少女が杖を上に振り上げる。
「無様な鳥。遺言。散りゆくものの最後の仕事。」
白い少女が審判を下す裁判官のような口調で告げた。
「待ってくれ。話し合おう。」
惨めに訴えかける俺を見て赤い女が杖を振り下ろした。頬に熱波がきた数瞬後、激痛が走る。右手が炎に包まれた。痛みが絶え間なく右腕にまとわり付いた。
振り払おうとするが火は消えることがない。
「よくもまぁシズハを殺しといてそんなことが言えた
わね。とりあえずクーの腕を切り落としたんだからまずは右腕からよ。」
熱い熱い熱い。頭が熱と痛みに取り憑かれた。会話が頭に入ってこない。無意識に歯を食いしばり必死に耐えようとする。言葉を発しようにも自分で口を固く閉じて喋ることができなかった。
「ふむふむ!遺言は無いみたいだね!お兄ちゃん!地獄でまた会おう!」
黒い少女が笑顔で手を振る。無我夢中、思考が熱と痛みで掻き乱される中アイテムを左手に具現化させた。
無機質なボタンのみが付いた棒状の機械。それを見た青い少女は俺の手からそれを奪い取ろうと手を伸ばす。彼女の指が俺の手に触れた時ボタンを押した。
炎が俺を飲み込む直前俺の左手を中心に爆発が起こった。