青い家の住人
ははっと思わず乾いた笑いが出てしまった。視線が俺に集まる。金髪が抑えられた頭で懸命にこちらを睨んでいる。
「アーシュ。お前は派閥派閥と口を開けばそればかりだな。思うにお前は一人でこの世界を生きていく自信が無いのではないか。だからいつまでもそんなくだらない柵に自分を縛り付けているのだろう。」
今までは力がないのでキリガヤに従ってきた。多少の理不尽にも目を瞑ってきた。しかし今はどうだろうか。源力の真髄を掴んだ今、隣の女に負ける気はしない。
試しに体から源力を放つ。辺りに充満していた俺以外の源力をすべて弾き飛ばした。机が軋む。金髪の男もおしだまった。双子の片割れは気に当てられたのか気絶した。
アーシュは下を向き体を震わせている。両手で腕をを抱きかかえるように丸くなったかと思えば突如髪を振り乱し天を仰ぐ。耳飾りが揺れ動いた。白い肌に朱をさしたように頬が紅潮している。彼女の一投足は淫靡な色気を辺りに撒き散らしているようだった。
「あはっ。ふふふふふ…!貴方の源力ってこんなに攻撃的なのねぇ。」
こいつ狂ったのか…?力の差がわからないほどバカではないだろう。思わずアーシュの座っている椅子を蹴り飛ばした。アーシュは床に倒れ込み伏せている。不気味な女だ。
アーシュはひとしきりぶつぶつ言うとドアから去り周囲には彼女の白檀の香水の香りだけが残された。
キリガヤに報告にでも行ったのだろうか。まあ問題はない。こちらは休暇の身であるし追ってが来てもナンバーズ全員でも来ない限り問題はないだろう。
リンクや男達は突如仲間割れした俺たちを見て目を白黒させた後こちらを窺うように静まり返った。
頭の後ろで手を組み考える。今まで自分の力を向上させるためだけにこの刀を振るってきたがなんだか最近はその生き方にも疑問を抱き始めてきた。
ここらで休憩がてらこの依頼を受けるのもいいかもしれない。きっと人の為に刀を振るう経験は何かこの迷いを打破する糸口になるだろう。
「依頼の詳細を教えてくれ。」
「依頼を受けてくれるんですか…!!」
リンクが身を乗り出した。金髪の男は信じられないとでも言うように目を剥いていた。
「あぁ。人の為に刀を振ってみたくなってな。」
目の前の一堂に頭を下げる。
「色々と失礼を働いた。未熟な身だがそちらの手伝いをさせて欲しい。」
顔の角張った男は驚いた様子だ。
「まさかキリガヤの人間が頭を下げるとは…。」
「こちらも非礼を働いたのなら詫びるくらいの知能は残っているぞ。」
双子の片割れが寝ていたのでぺちぺちと頬を張ると双子の片割れは飛び起きた。姉妹がお互いを抱きしめ合い俺から距離を取る。どうやら嫌われてしまったらしい。
「これからよろしく頼むぞ。青い家の住人達。」
暗かった雰囲気を出来るだけ払拭できるように努めて明るい声で言い放った。