ミッション
段々と意識が遠のく。体から魂が抜けていくような感覚に陥る。
「おっと!時間のようだね!」
パラディンが倒れ込む俺の体を支える。何かに召集されている感じがする。正直この時点で俺は死に慣れていて余程のことには動じないだろうと高を括っていた。
しかしそれが間違いであることはすぐに分かった。
夢から覚めたようだった。周りを見回すと洞窟の中の小部屋のようだった。壁を触ってみると硬い岩肌の感触がある。
十人前後がそこの小部屋で思い思いに過ごしていた。雰囲気がピリついている。装備は教会の時の普段着に戻っており、武器はもう念じても出てこなかった。
何かパニックになっている奴もいる。そいつは大声で何かを喚き散らしては周りの連中に無視されている。おそらくあいつも俺と同じように初めてなんだろう。
周囲の顔ぶれを見渡すと、老若男女ありとあらゆる人間がいた。見たところ全員顔色は良くない。これから何が起こるか知っているのだろうか。
小部屋で座り手持ち無沙汰でただ時が過ぎるのを待っていると部屋のドアが空いた。気づけば部屋の人数は俺が目覚めた時よりも増えていて、皆ぞろぞろとドアに向かって歩き出した。
あのドアは嫌な予感がする。決心のつかないままずるずると残っていたがとうとう部屋に残った最後の一人となってしまった。動かなければ始まらない。腹をくくりドアの向こうへと飛び出した。
ドアの向こうは地下鉄だった。太陽の陽が差し込まない地下鉄の深層。目の前の電光掲示板が突然発光した。
ミッション<地下蜘蛛の駆除> 難易度F 参加者28名
蜘蛛の駆除?魔物の駆除か?参加者28名とあるが周囲には人っ子一人いない。
とりあえず武器もない今の俺では魔物の駆除などできようもない。他の参加者を探す他ないだろう。
ここでは望めば行けるといった曖昧模糊なルールはおそらく通じないだろう。地下鉄など土地勘のない人間には迷宮と変わりない。適当に今いる場所に目印をつけ地下鉄の中を歩き始めた。
蛍光灯で照らされた道をいわゆる右手の法則で歩いていたら、曲がり角にでくわした。ただの曲がり角ではない。死の気配がする。【直感 2】の効果だろう。
今まで何となくで直感を使っていたがパラディンとの審査を通してより明確に直感を使えるようになった。
ここは迂回するか…?電光掲示板に書かれていた情報を元にするならおそらく地下蜘蛛が気配の正体だろう。武器もなしに魔物と戦うのは無謀だな。
道を引き返そうとした時、俺の腰ほどはありそうな大きさの黒い蜘蛛が暗闇の中から現れた。
赤い眼が俺を捕らえた。