肘鉄
しばらくアーシュとたわいもない話をしながら歩いていると行く道を男に遮られた。青い家、屋根が青色のうちよりは立派な一軒家はすぐそこだ。
男は頬と鰓が張っていて角張った顔をしている。身体は黒夜叉ほどではないが大柄で筋肉質だ。青い家の関係者だろうか。
「ブサイクさん。私達の道を遮るなんて生意気ね。」
アーシュが挑発的な眼差しと言葉で焚き付ける。
「貴様ら、キリガヤの人間だろう。ここに何をしに来た。ここは非表示設定にしてある。ふらふらこれるはずがない!」
男が語気を荒げる。どうやら怒らせてしまったらしい。こちらは招かれて来ただけなのだから怒鳴られたならば帰ろうか。そう思っていたが隣の女は止まらない。
「あら、私達がどこを通ろうと勝手じゃないかしら?それとも何?獅子のいく道を小猿が止められると思って…?」
アーシュが左手の人差し指をわざとらしく顎にやった。腹の立つ仕草だ。止めさせて謝罪をしようとしたその時、男は息を巻き武器を構えた。
やってしまった。止めるのが遅すぎたな。男の武器はシンプルな西洋の剣。おそらくなんのスキルもないだろう。大袈裟に見積もってもEランクそこらの実力だな。
彼が抜いてしまった以上は仕方あるまい。脇差一本でもやれるだろう。まずは落ち着かせてから話を聞くのも悪くはない。そう思って前に出ようとするが腕を引き留められる。隣を見るとアーシュは好戦的に指を鳴らしていた。
「アーシュ。待て。絶対にやり過ぎるだろう。」
「あら。オーガ。貴方も私の行動にケチつけるのね。最近腕を上げてるようだけど私を止められるのかしら。」
Cランクの実力を持つ彼女とはちょうど互角くらいだろう。だがじゃれあいとは言え身内同士で争うのも馬鹿らしい。諦めてため息を吐きながら一歩下がる。
アーシュが一歩前に出た。両手を前にし体を半身にする。アーシュの構えだ。
男はいまかいまかと襲い掛かろうとしている。男が意を決して足を踏み出そうとしたその時、アーシュは既に男の背後から頭の側面に蹴りを繰り出していた。
男は頭に直撃をくらい白目を剥く。今度は正面に回り込み背中を向けて異常なほど男との間合いを詰めてアーシュは肘打ちを放った。
男の鳩尾に突き刺さる。男は両足から崩れ落ちた。地面に抱きつく彼の頭を彼女は容赦なく踏みつける。
「外門頂肘」
アーシュは静かに技名を呟いた。ウーシュゥ、中国語で武術という意味らしい。最速で間合いを詰めてインファイト。それが彼女の強みだ。八極拳を扱う彼女の打撃は下手な剣よりも脅威なのは間違いない。
同じくインファイト好きのパラディンに見初められその才能を更に飛躍させたらしい。本当にパラディンは余計なことをしてくれたと転がる男を見て思う。